ベージュのトレンチコートは女子就活生にとって「ザ・リクルートファッション」の典型。おしゃれをしたくても無難な格好にしてしまうケースがほとんどだ (撮影:今井康一)

「スカートじゃなく、パンツスーツで面接を受けても大丈夫ですか」。毎年のように女子学生から受ける質問です。質問するほどではなくても、就活用のスーツを買うときに、スカートかパンツかで悩んだ人は多いでしょう。初めて経験する就職活動だからこそ、スーツだけでなく、髪形やお化粧、持ち物など、さまざまなことが女子学生の悩みのタネになりがちです。


「今の長さなら前髪を下ろしても問題ないですか」「このリップの色、派手すぎませんか」。細かすぎる質問に感じるかもしれませんが、そこには、制約のなかに“自分らしさ”の落とし所を見つけたいという彼女たちの思いを感じます。「マイナス評価される格好はイヤだ」と考える一方で、「少しでも自分らしい格好をしたい」と思っているからこそ、これだけ微細な個別の質問が出るのでしょう。

それにもかかわらず、全体として見れば、就活時におけるファッションは極めて同質性が高くなります。それを揶揄する大人もいますが、致し方ない理由もあるのです。

どこからがNGなのかわからない

かつて「基本的なビジネスマナーを守っていれば、服装や髪形はもっと自由にして大丈夫だよ」とアドバイスしたところ、ある女子学生から「どこまでがOKで、どこからがNGなのか、自由の範囲がわからない」と言われました。

その彼女曰(いわ)く、もともと持っていた高級ブランドのバッグを就活で使っても大丈夫かと相談したところ、ある企業の女性社員には「問題ない」と言われ、別の企業の女性社員からは「やめておいたほうがいい」と言われたといいます。「就職活動ではいろいろな企業を受けるから、どの企業でもNGにならないものにしたい」と、結局最も安全で無難な“ザ・リクルートファッション”を一通りそろえたそうです。

そもそも、女性社員のドレスコードは、男性と比べて選択肢が多く、ルールがあいまいです。事務職ならオフィスカジュアルと呼ばれる服装が中心で、ジャケットを着ない人も多いでしょう。営業職でも、ジャケットを羽織る程度でOKな職場もあれば、上下そろいのスーツが基本というところもあります。

年代による感覚の違いもあります。約25年前に営業研修を受けた筆者の場合、営業先にオープントゥ(つま先見えるタイプのパンプス)を履いていくのは失礼と教えられていたので、今でも抵抗感があります。しかし、20〜30代では「問題なし」と感じる人が多いでしょう。

女性のビジネスシーンにおけるドレスコードは、社会人でも判断に迷うことがあります。ましてや、女子学生が就職活動で自分らしい格好をするというのは至難の業です。どこに落とし穴があるかわからない道を歩くのなら、すでに足跡がある、安全が保証されているところを選ぶでしょう。広い道にもかかわらず、みんなが狭い一本道をすすむ姿は、周囲から見れば滑稽にうつるかもしれません。でもそれは、彼女たちなりの知恵でもあるのです。

3月になり、面接を受ける機会が増えていきます。インターンシップや就活イベントでは、大勢いる参加学生の1人だったので、服装に多少不安があっても、悪目立ちすることはありませんでした。しかし、面接では一人ひとりチェックされます。服装や髪形のみならず、アクセサリー、カバン、靴の形、ヒールの高さなど、あらゆることが気になり、不安になりがちです。

大人の意見が分かれるなら、好みでも大丈夫

そんなときは、周囲の大人に相談するとよいでしょう。相談した人たちのアドバイスが同じときは、広く一般に通用するマナーととらえ、従ったほうが賢明です。しかし、前述のカバンのように、人によって意見が分かれるものは、自分の“好み”で選ぶことをお勧めします。

世の中にはさまざまな企業や人がいるので、ブランドもののバッグにバツをつける企業があるかもしれません。冒頭のスカートかパンツかという質問でも、マナーとしてはどちらもOKですが、自分が見慣れない女性のパンツスーツに違和感を覚える人がいるかもしれません。だから「ブランドバッグはやめよう」「スカートのほうが無難」ではなく、あえて自分が好きで選んだ格好で面接に臨むのです。

就職活動は内定先が決まれば、いったん終了になるので、意に沿わない格好でも、窮屈さを感じるのは一時的です。しかし、入社してから職場で過ごす時間は比べものにならないくらい長いのです。自分自身の居心地が良くないと、しんどいように思います。

自分に合った企業を見つけるためにも、マイナス評価にならないことを目的に、無難な“ザ・リクルートファッション”で身を固めるのではなく、自分の好き嫌いを基準に取捨選択したファッションで面接を受けてみてはいかがでしょうか。大切なのは、マイナス評価を受けないことよりも、ちゃんと自分を出して合否を受けることです。

学校という場は、ルールが明確な試験という評価基準があり、「落ちる=ダメなこと」という価値観が学生に根付いています。でも就職活動は、試験やテストではありません。評価の判断は企業や人によって異なるのです。自分らしい“就活おしゃれ”をして面接に臨み、自分の考えを述べたうえで、合否をもらうことが大切です。ちゃんと落ちることで、自分に適した企業が見えてくるでしょう。

「このカラーリングの色はOK?」「ピアスや指輪は問題ない?」「黒目を大きく見せるカラコンは大丈夫?」。これらは人により判断が分かれる質問でしょう。ぜひ自分で考え、自分で決めた“就活おしゃれ”をして、面接を受けてほしいと思います。自分らしい格好をすることで、自分の考えを述べやすくなる効果もあるように感じます。

選考に落ちないことを目的に、傾向と対策を練って、その企業に適した対応をするという方法を否定はしません。社会人として必要な能力の1つでもあります。しかし、やみくもに内定をとっても入社できるのは1社です。自分にとって心地よく仕事ができそうな相性のいい企業を見つけ、内定を得ることが大切ではないでしょうか。

自分らしい格好で面接に臨むことが大切

相性の良し悪しとは関係なく、「この企業に入りたい!」「この仕事に就きたい!」という強い憧れを持っている女子学生もいます。その場合の“就活おしゃれ”は、先輩女子社員のドレスコードを参考にするとよいでしょう。人は見慣れているものを「良し」と判断する傾向があるので、似た雰囲気の“就活おしゃれ”をすることで好感を得やすくなります。

ただし、無理やり企業の好みに合わせることはお勧めしません。会社が「好む色」であっても、あなたに「似合う色」であるとは限りません。憧れが強ければ、相手の好む色を選びたくなりますが、自分に似合う色を選択したほうがすてきに見えるのではないでしょうか。

おしゃれの好みは会社選びにも活用できます。合同企業説明会に参加したものの、企業ブースが多すぎて選べない……。そんな人が少なくないでしょう。そこで、比較的年齢の近い女子社員のファッションをチェックしてみましょう。自分と雰囲気が似ている、すてきだなと感じる社員がいるなど、感覚的に好感を抱いた会社は要チェックです。立ち寄って話を聞いてみてもいいかもしれません。

就職活動の期間はそれなりに長丁場です。就活用の仮面をかぶり続けていたら、自分が誰なのかわからなくなってしまいます。これから本格化する就職活動も、あなたの大切な大学生活の1つです。周囲のアドバイスを聞きつつ、その中から自分らしさを取捨選択して、“就活おしゃれ”を楽しんでみてはいかがでしょうか。