連日のように世間を騒がせた、財務省の福田事務次官によるテレ朝女性記者へのセクハラ問題。しかし、SNS上では被害女性の素性をさらしたり、「色仕掛けだ」と女性側に非があるかのような意見が多く散見されます。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で健康社会学者の河合薫さんは、今回の問題に関連して、男性だけでなく女性からも被害者への批判が出ていることに触れ、日本の「オジさん化」は女性にも及んでいると指摘。グローバル化など程遠い日本のリアルを嘆いています。

財務省セクハラ問題と意味不明の反応

この問題には食傷気味の方も多いかもしれませんが、24日公開の日経ビジネスに「官僚セクハラを『色仕掛け』と批判する日本の闇ーー米国では「#Me Too」でピュリツァー賞」というコラムを書きました。

● 官僚セクハラを「色仕掛け」と批判する日本の闇ーー米国では「#Me Too」でピュリツァー賞(日経ビジネスONLINE)

なぜ、加害者とされる福田氏より、被害者とされる女性の話題でメディアは盛り上がるのか?

いつもの構図ーー。そうです。ネットやマスコミの「おそらく情報」をもとに、場外から石を投げる。被害者の写真をネットで拡散し、非難する。挙げ句の果てに、「国民の中にははめられたという意見もある」と大臣が発言する。

残念。実に残念。実にシンプルな問題がこんなにも複雑な展開になってしまうのか。

問題は実にシンプルで、仕事関係でお付き合いのある女性に対し、権力を持つ男性が、

「おっぱい触っていい?」

「手、縛っていい?」

という下品な言葉を言い放ったということです。

あんな下品な言葉、たとえ相手が「記者さん」じゃなく、バーなどで働く女性に対してもアウトだし、女性上司が女性部下に言ってもアウト。

同じことを奥さんに言えるのか? 試しに言ってみればいい。いかに自分の発言が、幼稚で、下品で、人をバカにしているかがわかると思うのです。 

少なくとも私はどんなに好きな相手でも「おっぱい触っていい?」なんて言われたら「仕事の話してんだろうが! アンタのお母ちゃんじゃないんだよ!」と呆れます。

……いい年をした、良識ある男性の発言とは、到底思えません。

なのでコラムには、そういった反応への違和感を書いたつもりです。ジェンダー・ステレオタイプという、無意識の価値観の恐さと共に、です。

でも、やっぱり伝わらなかった。

ちゃんと受け止めて下さった人、共感してくださった人、「よくぞ、書いてくれた!」といったコメントもいただきましたが、半数以上が「参考にならなかった」とし、6割が「(読んでも読まなくても)どちらでもいい」と評価。

奇しくもコメント欄に、「『いじめられる子の側にも問題があるんだ、悪いんだ』という論法が語られるのと同じ」と書いてくださった人がいたけど、その通りだと思います。

人権、人権と耳触りのいい言葉を使うわりには、加害者より被害者を貶めるような発言があとをたちません。 

おまけにSNSでは、福田氏の文字が消え、被害者とされるテレ朝の記者の素性や、部下からの訴えを退けたとされる上司の名前が飛び交っている。

これが、つい数年前まで「グローバル化」と呪文のように言っていたわが国のリアルです。

そして、被害者を批判するのは男性だけではなく、女性も含まれていることも、残念としか言いようがありません。男社会は、スカートをはいたオジさんを量産したのです。

繰り返しますが、何もセクハラ問題全般について意見しているのではなく、今回の「おっぱい発言」について論じているのです。

もう20年上前になりますが、私が国際線のCAをやっているときに、タイ航空に乗っていた日本人のビジネスマンが、CAさんのお尻を「ペロン」と触り、海外で大問題になったことがありました。

当時、日本ではあまり大きく報じられませんでしたが、被害にあった女性(タイ人)は、何千万円もの賠償金を要求。タイでは連日、ニッポン人の下品な素行が報じられ、同じ日本人としてとても恥ずかしく思いました。

また、これは別の日本人旅行客が香港で起こした事件ですが、滞在先のホテルで、ルームサービスに来た女性従業員にお金を渡し、淫らな行為をさせようとしたこともありました。

男性は逮捕。示談が成立し数日で保釈されましたが、男性は「何が問題なのかわからない。ヤるためにきたんだ!」と騒いでいたとニュースで報じられていました。

あれからン十年。さすがに当時のような振る舞いをする男性は減りましたが(いなくなったと言い切れない自分が情けない)、根っこは変わっていないのではないでしょうか。

麻生大臣の「はめられた」発言も、然りです。

日経のコラムには、ジェンダー・ステレオタイプという観点を軸に展開していますので、是非一度読んでいただけたらと思います。

image by: cowardlion / Shutterstock.com

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