復帰戦でも変わらぬ人気を見せたタイガー(撮影:岩本芳弘)

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かつて何勝も挙げた選手がしばらく試合から遠ざかると、「勝ち方を忘れてしまった」とか、「試合勘が鈍った」などといわれる。だが、ファーマーズ・インシュランス・オープンで1年ぶりに米ツアーの試合に復帰したタイガー・ウッズは、「勝ち方」や「試合勘」といった言葉では表現しきれない、もっともっと深いものと向き合っていた。
1年ぶりの復帰、タイガーのニュースイングはまるで「武術の達人」【連続写真】
昨年のこの大会から1年間、戦線離脱となった理由は、昨年4月に4度目の腰の手術を受けたこと。だが、5月末に薬物を服用して車を運転したあの逮捕劇は、あまりにも世界を驚かせ、ウッズ自身の心にもダメージを及ぼしたことはいうまでもない。
そんな出来事を経ての復帰戦。ギャラリーは自分を受け入れてくれるのかどうか。とんでもないミスショットはしないだろうか。やじられたりはしないだろうか。初日の1番ティに立つまでは、そんなことにも大いなる不安を覚えていたとウッズは明かした。
いざ初日。サウスコースの1番ティの周囲には昨年同様、いや、かつて7勝を挙げたときと変わらないぐらい大勢のファンが詰め寄せ、ウッズの登場を待ちわびていた。
第1打は大きく左に曲がったが、人々の声援は熱く、温かかった。「みんなが応援してくれた。信じられない気分だった」。かつて割れるような拍手と喝采を我がものにしていた王者が、「ゴー!タイガー!」の一言をもらえたこと、「頑張れ!」と拍手をもらえたことに感無量。その光景を眺めていた私は、隔世の感を覚えたというよりも、ウッズが胸の中に抱いていた不安がきっと想像以上に大きかったであろうことを思い知らされ、あらためて彼の復帰とそれをたたえる人々の笑顔に喜びを感じた。
2年半ぶりの決勝進出を果たし、最終日は「65をマークする」と目標設定には強気も見せていた。だが、実をいえば、そういいながらもウッズの胸の中は、やはり不安でいっぱいだったのだ。
「以前の僕は、風を感じた瞬間に『よし、3ヤードプラスで打つぞ』とか、『15フィート左に出すぞ』といったことを自動的に思い浮かべていた。考えなくても、そういうことが簡単にできた。でも、今は考えている。難しいコンディションならなおさら、考えながらじゃないとできない。それは僕にとっては、かなりのチャレンジなんだ」。
昔から考えなくても自然にできていたことが、今は考えなければできなくなっている。それは、持って生まれた特殊な才能が希薄になり、天才が天才ではなくなったといっても過言ではない。
ウッズのチャレンジはほかにもあった。1年ぶりの試合復帰で一番不安だったのは、シチュエーションに応じたショットの打ち分けが柔軟にできるかどうか。「ラフから打ち出せるかどうか。木を避けてショットを左右にシェイプできるかどうか。ときには加速して打つ必要もあった。でもどれも問題なくできた」。
米ツアーのトッププレーヤーなら当たり前のようにできるであろう項目ばかり。だが、今のウッズはそれさえも一つ一つ取り戻していくしかない。
焦らず、一つ一つ――。かつてゴルフの世界を独走し、疾走していた元王者が、そうやって地をはうように進んでいくためには気が遠くなるような忍耐が求められる。
今、ウッズが挑み始めたのは、果てしない我慢のレース。過酷な戦いになるだろう。でも、元王者だからこそ、戦い抜き、究極のチャレンジに打ちかってくれると信じたい。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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