積水ハウスが詐欺被害に遭った土地に建つ、数年前に廃業した旅館「海喜館」(記者撮影)

“あの事件”があったにもかかわらず、注文住宅最大手の積水ハウスの業績が絶好調だ。売上高は2018年1月期の第2四半期(1〜7月期)で初めて1兆円を超え、通期でも2期連続で過去最高純益をたたき出す見通しだ。

絶好調の業績に影を落とすかと思われた“あの事件”とは、東京のJR五反田駅から目と鼻の先に位置し、すでに廃業して数年経つ日本旅館「海喜館」の土地を巡る詐欺被害のことだ。

今年6月、積水ハウスは同地の所有者を名乗る人物に63億円を支払い、分譲マンション用地として購入した。購入代金の決済日に所有権移転登記の申請をしたが、所有者側の提出書類に偽造書類が含まれており、登記申請が却下された。それ以降、所有者を名乗る人物と連絡すら取れなくなったというのだ。

詐欺被害で50億円超の特別損失

不動産にかかわる詐欺事件として警察へ届け出たが、63億円はほぼ回収不能とみられる。このため所有者を名乗る人物からの預かり金7.5億円を相殺し、第2四半期に55.5億円の特別損失を計上した。


10月から2カ月の減俸処分となった積水ハウスの阿部俊則社長(撮影:今井康一)

不動産会社が被った、不動産詐欺。この責任を取り、和田勇会長と阿部俊則社長は10月から2カ月間、減俸20%、ほかの取締役を減俸10%とする処分を取締役会として決めた。

犯罪に巻き込まれた可能性が高いとする一方で、リスク管理上の問題点を調査・検証するために第三者委員会を立ち上げ、原因究明と再発防止策の検討を進める。

今回の取引にかかわった現場社員の処遇は、この調査委員会の報告後に決定するという。土地取引に関する審査体制の厳格化などについても、「すべてはこの調査が終了してから。問題点をつぶさに調べ、時期が来たら公表する」と、阿部社長は厳しい口調で語った。

同業他社の多くはこの事件に同情的だ。大手ハウスメーカーからは、「一歩間違えると、うちの社で起こってもおかしくなかった」、「これまでも所有者の本人確認は徹底してきたつもりだが、(印鑑も身分証明も偽造されていたなどという報道を見ると)どのように対処すればよいか悩む」などといった声が聞かれる。


積水ハウスが詐欺に遭った土地にある旅館「海喜館」は、廃業から時間が経ったが、意外にも掃除がされている(記者撮影)

また、「不動産取引は生ものを扱うようなもの。(他社に取られないように)時間との勝負に迫られる。あまりしつこく確認、確認と唱えれば、せっかくの売り先も逃げてしまう」と、不動産取引の難しさを吐露する同業もいる。

一方、ある大手ゼネコンの役員は、「バブル期には同様な事件が多発していた。昔はそれが経験となって、怪しい取引に対して勘が働いたものだ。世代が替わり、鼻の効く人が減っていることが原因ではないか」と指摘する。

それでもこの上半期は過去最高純益

もっとも、今回の詐欺事件が積水ハウスの先行きを狂わせる可能性はほぼ皆無だ。同社が9月7日に発表した2018年1月期の上期業績は、売上高が1兆0094億円、営業利益が903億円で着地した。期初の会社計画と比較しても、売上高は約400億円、営業利益も約150億円の上振れとなった。

さらに詐欺事件に伴う特別損失55億円強を計上したにもかかわらず、当期純益は前年同期比17.2%増の610億円と、半期での過去最高を更新した。

躍進を支えているのは、相続税対策や効率的な資産運用の需要が旺盛な賃貸住宅だ。部門営業利益は前年同期比4.9%増となった。1棟当たり単価が伸びたことが大きい。前年比で930万円強も上昇し、9200万円を超えた。中でも都心部を中心に1棟単価が1億4300万円にも上る3〜4階建ての物件が伸びており、全体に占める比率は65%に達した。

主力の戸建て注文住宅は引き渡し戸数が横ばいでも、省エネ化と再生可能エネルギーの導入で消費エネルギーの収支をゼロにする住宅(ZEH)への対応や、天井高といった高級化志向が強まった。部門営業利益は前年同期比で3.5%伸びた。さらにリフォームやマンションの事業などでも利益率が改善。非常にバランスの取れた成長が続いている。

今回、積水ハウスは市場環境の不透明さを理由に通期業績を上方修正することはなかった。だが、8月までの受注速報や7月末の受注残の状況などを勘案すると、12月に発表される第3四半期前後には通期の会社計画が引き上げられることは必至だ。

詐欺被害をも吹き飛ばす積水ハウスの快走は、どこまで続くだろうか。