「おいしい給食」の話が料理のモチベーションを上げる!?「栄養あるけど苦手」な食材のとりいれ方&ヒント

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家庭ではできない食体験の場として、ますます重要な位置を占めるようになった「給食」。

楽しく食べて、食べ残しを減らす!おいしい給食づくりの極意を栄養教諭に聞いた

薄れつつある「日本の食文化」を伝えていくための取り組みなども、多くの学校で行われているようです。

そんな「給食」の話題を子どもと積極的にすることが、お母さん側の、料理のモチベーションアップにつながるかも!?

「日本一おいしい給食」「食べ残しゼロ」を目指した取り組みで注目を集める東京・足立区蒲原(かばら)中学校におじゃまし、栄養教諭の紺野朋子さん、足立区教育委員会 学校教育部学務課「おいしい給食」担当の渋谷敏さんにお話を伺いました。

おいしい給食レシピで子どもが喜び、お母さんのモチベーションもUP

――保護者の方は、給食のレシピを参考にしたりするのでしょうか。

紺野朋子さん(以下、紺野)「子どもから、おいしかった給食のメニューの作り方を教えてほしいと言われて、レシピを渡したりすることはありますね。

中学生の男の子はわりと難しい年代で、教室では静かに黙々と食べているのですが、放課後になると気持ちがほぐれてくるのか、『今日のごはんおいしかったから、作り方教えて』などと言ってきたりするんですよ。

たしか、焼き鳥ごはんか何かだったと思いますが、後になって本当に、お母さんと一緒に作った料理の写真を見せてもらったことがあります。

また、豚肉をしょうが焼きみたいな味つけで焼いて、ごはんに混ぜ込んだメニューを出した時にも、やはり男の子受けがよくて。『すごくおいしかった〜また出して〜』と、こそっと言ってくる子がいました(笑)」

渋谷敏さん(以下、渋谷)「子どもさんに給食のメニューを作ってと言われると、お母さん方も皆作ってみようとされますね。

給食のドレッシングがおいしいと子どもが言うので、どのメーカーのドレッシングを作っているのかと学校に問い合わせされたお母さんもいらっしゃった、というような話も聞きます。しかし、ドレッシングも手作りしていると聞くと、とても驚いていたそうです。

お母さんが給食のメニューを作ると、子どもたちもまたすごく喜んで、『お母さんが作ったらこうだった』と給食の時間に話してくれる生徒もいる、といった話も聞きます。

ぜひ、子どもさんと日々給食の話をしていただければと思います。もし、作り方がわからなかったら、学校の栄養士に尋ねてみてください」

いろんな食材でカラフルに。電子レンジもうまく活用

――毎日の食事づくりで参考になることがあれば教えてください。

紺野「いろいろな食材を使われたほうがいいと思います。あとはカラフルに、彩りがいいと栄養のバランスが非常によくなります。

私もスポーツ栄養学などの講習を受けますが、やはり様々な色の野菜、そして肉あり魚あり、カラフルな食卓をめざすように指導しているんです。

食事を作るには時間も手間もかかるし、コンスタントにいいものを出すのは、相当な『勤労』ですよね。でも、からだは食べ物でできているから、いろいろなものを組み合わせて食べていくのが一番なんですね。大変かもしれませんが、私も目標にしています。

家で作るなら、文明の利器を使われたほうがいいと思います。例えば電子レンジなんかは、温めるだけでなく、野菜の加熱などもできます。

お湯を沸かして野菜をゆでるのは大変ですが、耐熱の容器に野菜とお水を入れて加熱すれば、お浸しも簡単に作れます。そういう、昔はなかったものもどんどん活用されるとよいのではないでしょうか」

栄養価の高い苦手食材は好きなメニューと一緒に。使用頻度を多く

――栄養的に、積極的にとりたい食材は何でしょうか。

紺野「『まごわやさしい』(※)という言葉がありますが、献立をたてるとき、豆、特に大豆を入れると栄養価がぐんと高くなるのがわかっているので、積極的に使うようにしています。
※豆類、ごまなどの種実類、わかめなどの海藻類、野菜、魚介類、しいたけなどのキノコ類、いも類

でも子どもたちは、枝豆はよく食べるけど、大豆はあまり食べない。本当は、五目豆など和食のものを喜んで食べてくれるといいのですが、なかなか難しいので、ドライカレーやマーボー豆腐に刻んだ大豆を入れたりしています。

ほかに、意識して給食に使っているのは海藻やきのこです。ひじきも、油揚げと一緒に甘辛く煮たものをサラダの上にのせれば、食べやすいと思います。

こういった食材は、昔から日本人が食べ続けてきた食材です。子どもたちが大人になったときに、いかに食卓にのせてもらえるかですね。

給食では、野菜料理にツナを入れるとおもしろいほどよく食べます。サラダにしてもお浸しにしても、和でも洋でも。ツナが好きみたいです、うちの学校の生徒たち(笑)」

渋谷「でも、全校の子どもが同じように豆が嫌いかと言ったら、そうでもないんです。豆がすごく好きで、豆ごはんを出すといつも空になる、という学校もあります。和食が好きで、和食だといつも空になる、という学校もあります。

では、その学校がなにか特別なことをしているのかというと、そういう訳でもなく…いたって普通の、標準のレシピで作っていたりする。

誰もが食べるような、なにか特別な法則があれば苦労はないのでしょうが、なかなか統一した法則というものはありません。それぞれの学校で、どうしたら子どもたちが食べてくれるか、日々創意工夫しながら栄養士は献立をたてています。

毎回同じように作っても、そのたびに味が違ったり、季節によって味の濃さが変わったり…。その感覚は紙に書いたものとは違いますし、そこに難しさがあります。職人の世界ですよね」

紺野「給食づくりでは、AI(人工知能)などではクリアできない部分があると思います。人間にしかできないことを力を入れてやりましょう、という感じです」

最後は深い話になりました。お話を聞いてわかったのは、プロの栄養士の方々といえど、子どもたちに栄養のあるもの、いろいろなものを喜んで食べてもらうために日々思いをめぐらせ、時には失敗したり、試行錯誤を重ねているのだということ。

だから、自分が作った料理を子どもがおいしそうに食べてくれないからといって、イライラしたり、ましてや落ち込んだりすることはないのではないか?

子どもに合わせて別の日、別の方法でやってみればいいし、大切なのは、子どもを喜ばせたいという気持ちだったり、愛情を伝えることだったり、子どものときに「これを食べなさい」と言われていた、そのことを大人になってから思い出してもらえるようにすることなのでは…? いろいろ考えさせられました。

ぜひ「おいしい給食」の話を食卓に持ち込んで、食の共有体験を増やしてみてはいかがでしょうか。