どうなる「貴族探偵」相葉雅紀の希少価値を考察してみた

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月9「貴族探偵」(フジテレビ 月よる9時〜)
原作:麻耶雄嵩 脚本:黒岩勉 演出:中江功ほか

今年30周年を迎える伝統と人気を誇るフジテレビ〈月9〉が異色のドラマをはじめた。
原作は、麻耶雄嵩の人気推理小説「貴族探偵」及び「貴族探偵対女探偵」である。


相当変わっている


月9といえばラブストーリーの印象が強い。そうはいっても、おりにふれ、違うジャンルのドラマもやっていて、例えば、木村拓哉主演の検事ドラマ「HERO」や福山雅治主演のミステリー「ガリレオ」、松本潤主演の探偵ドラマ「ラッキーセブン」など恋愛もの以外でのヒット作も多々ある。

「貴族探偵」に主演する相葉雅紀も池井戸潤原作のサスペンスタッチのホームドラマ「ようこそ、わが家へ」(15年)に主演しており、月9がラブストーリーでないことは異色でもなんでもないが、「貴族探偵」は相当変わっている。
主人公である貴族探偵が探偵と名乗っているにもかかわらず、推理をしないのだ。

相葉雅紀は以前、「三毛猫ホームズの推理」(12年、日本テレビ)で猫に頼る刑事を演じていたが、今回の貴族探偵は、自分の部下(執事〈松重豊〉、メイド〈中山美穂〉、運転手〈滝藤賢一〉)に推理させて、その間、女性とのアバンチュールや釣りなどを楽しんでいるだけ。
その様子に、自分で何もしない探偵なんて認めない! と息巻くライバル的な(でもいつも貴族探偵に負ける役割らしい)存在・女探偵(武井咲)に対して「真相にたどりつくかどうかですよ」と飄々としたもの。確かにその通りといえばその通りだ。
古今東西、あまりに多くのミステリーや探偵が存在するため、ちょっと違った推理方法や探偵像を模索したアイデアとして楽しめる。また、貴族は労働などせず使用人に任せるものという浮世離れした世界観は、等身大の恋愛や生活を描いてももはやちっとも視聴率がとれないいまこそ、有効な手かもしれない。
「ファンタジードラマ」であると制作サイドは宣言していて、「ツッコミながら楽しんで下さい」と断りまでしている。完全にミステリードラマとしての責任を回避してしまっていることが、「このミステリーがすごい!」の「本格ミステリ・ベスト10」にも入るほどの原作に対して良いのか気になるところではあるが、“笑えるミステリードラマ”としては楽しめた。第1回、謎のポルチーニ・パーティー(略してポルパ)の夜に起こった殺人事件の犯人探しを描く第1話(4月17日放送)の視聴率は11.8%で、ここ最近の月9の中ではいいほうだった。

「トリック」を意識か


笑えるミステリードラマといえば、その最高峰である「トリック」シリーズ主演の仲間由紀恵が、女探偵のスマホの音声検索機能「giri」の声で出演していたり、さらに、同シリーズで人気者になって、主役のスピンオフまでできた生瀬勝久がまたまたユーモラスな刑事役で場を沸かしていたりするので、意識していることは明らかだろう。

1話でもっともおかしかったのは「移動式サルーン」。素敵なサーカス小屋のような外見で、中も素敵な調度品が運び込まれている。貴族探偵は、事件が起きたお金持ちのお屋敷のそばに豪華なテントを建てて、そこを捜査本部のようにする。
ドラマがはじまっても主役の貴族探偵はなかなか出てこないが、そのテントに主要な人物が集まったところで真打登場とばかりに現れる。そのとき、カツカツとブーツのかかとの音をさせているが、テントなのに、そんな音する? とまんまと制作者の思うツボにはまって、ツッコミたい気分にかられた。

相葉雅紀の強み


さて、そろそろ、このドラマの要・貴族探偵を演じる〈相葉雅紀〉について書こう。
原作によると「背が高く色白のすっきりした顔立ちで、口元に髭をたくわえている」とある。20代後半らしい。「背が高く色白のすっきりした顔立ち」は合っているが、口元の髭はさすがに再現していない。
相葉が所属するアイドルグループ・嵐がドラマの主題歌を担当していて、そのCM映像で、大野智と二宮和也が髭をつけているカットが出てくるが(全編見たら全員にそれのカットがあるのかもしれないが未見)、原作をちょっと意識したものだろうか。
“ひとを食ったような貴族探偵”というと「怪物くん」で妖怪の世界の王子を演じた大野智も似合いそう。いいとこのお坊ちゃん感なら、父親が元総務次官である櫻井翔。華麗な身のこなしは松本潤がお手の物だろう。二宮和也は背は高くないものの、不思議な貫禄を見せてくれそうだ。・・・と嵐の誰でも貴族探偵がやれそうな気がしてくる。嵐に限らず、あまたいる俳優たち、もしくはあまたある物語のなかで、相葉雅紀と貴族探偵という取り合わせになったわけはなぜなのか。
相葉雅紀が誰よりも(いい意味で)色がなく想像が膨らむ存在で、貴族探偵という謎めいたキャラクターにピッタリだったからであろう。

何をしでかすか、まるで想像できないのが相葉雅紀の強み。彼が、嵐のなかからたったひとり「2016年度紅白歌合戦」の司会(有村架純とW司会)に抜擢されたことも予想外の出来事であった。
そんな彼のドラマの成功例としては、同じくフジテレビの医療ミステリー「ラストホープ」(13年)がある。難しい医療の現場の生え抜きの医師たちのなかで、ピリピリ感がまったくなく、いつもお菓子を食べている穏やかな青年に、じつは大きな秘密があったことが後からわかるというなかなか見応えのあるドラマだった。
ひとは見かけによらない。掃除のおじさんだと思っていたら社長だったとかいう話もあるように、貴族ってどんなひとなのかよくわからない。貴族探偵は、具体的に何者なのか、名前までも情報が一切伏せられている。そのミステリアスな感じを、相葉雅紀は、誰もが“あるある”と頷く記号的に演じない。既成の何かと比較することをやんわり交わすのだ。それが面白い。代わりに、いかにも記号的な使用人や刑事を、名優たちが鮮やかに演じてバランスをとっている。
超人気アイドルグループ嵐として仕事しているにもかかわらず、これだけ色のなさを保ち続けていられる相葉は希少価値といっていい。オカピとかアマミノクロウサギみたいな希少価値だ。
とはいえ、芸能人をやっているわけだから、欲がないわけでは決してないはずなのだが、その欲をまったく皮膚の上ににじませない。
思うに、貴族とは、もともとすべてをもっているから、一般大衆がもつ欲望はないはず。一般大衆の想像できることから外れ、謎のやんごとなき階級の御方を演じるという欲望を、極限まで抑制できる相葉雅紀を、我々は大切に守るべきである。貴族探偵の使用人もそんな気分なんではないだろうか。

毎回、有能な使用人たちが事件を推理していくようだが、女探偵の師匠とされる人物(井川遥)と貴族探偵には何やら因縁があるらしく、その関係性の謎が明かされることも楽しみだ。
(木俣冬)