「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「樹」、「樹木」「街路樹」の「樹(ジュ)」です。かつて、いにしえの人々は樹で衣食住をまかなうと同時に、樹がつける花に特別な美しさを見出してきました。梅、桃、桜、椿、藤。この時期は、樹に咲く花が次々と私たちの目を楽しませてくれます。



「樹」という字は木へんの横に、「太鼓」の「鼓(コ・つづみ)」という字の左側の部分(壴)と、さらにその横に「寸」という字を書きます。

これは、農耕儀礼などに使う太鼓の形と、それを叩く人の手を組みあわせたもの。

そこから「樹」という字は、木の横で人が鼓を打ち鳴らし、その音で樹木の成長を促している様子を表す漢字になりました。

害虫を祓い、農具を清め、豊作を願う春の農耕儀礼。

ある者は太鼓を激しく叩き、ある者は大地を踏みしめて踊ります。

やがて大地の霊はふるえ出し、響きに呼応してエネルギーを増してゆくのです。

田畑にはもちろんのこと、野山やあぜ道にもゆき渡る壮大な祈り。

大地に根を張りしっかりと立つ樹も花を咲かせ、葉を茂らせて実をつけます。

そして、樹の下に集まる人々に、豊かなときをもたらすのです

乳を含ませながら、赤ん坊との絆を確かめる母。

人生の岐路に立ち、じっくりと迷い悩む若者。

色あせぬ思い出を分かち合い、微笑みをかわす老夫婦。

もう、この世には居ない誰かの魂と語り合う人もいます。

その大きな樹は、何百年もの時をかけて身につけた知恵とやさしさで、人々を温かく包み、励まし、歩き出す力を授けてくれるのです。

ではここで、もう一度「樹」という字を感じてみてください。

一人の人間を愛する以上に一本の樹木を愛し、森の中で創作意欲をかきたてたベートーベン。

神経衰弱に陥った留学先のロンドンを離れ、スコットランド郊外の樹林を歩いて心身を整えた夏目漱石。

ロック・スターの栄光を捨て、軽井沢の森にある楡の木にもたれ、息子のためだけにギターを弾いたジョン・レノン。

今日もきっと、どこかで誰かが、樹と向き合って過ごす幸福を味わっています。

太古の昔、私たちの祖先が成長を祈り続けたそのお返しに、樹は黙って傍らに立ち、すこやかなときを与えてくれるのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『ジョン・レノンが愛した森 夏目漱石が癒された森 著名人の森林保養』(上原巌/著 全国林業改良普及協会)

4月29日の放送では「蝶」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/



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聴取期限 2017年4月30日 AM 4:59 まで

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