視覚効果が高い「黒×オレンジ」のコメダカラー

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小売店や飲食店など一般消費者を相手にする業種の店舗業態は、大きく分けて「繁華街型」と「郊外型」があります。前者は人通りの多いターミナル駅前など、後者は各地の主要道路沿いなどです。さらに細かく「ビルイン」(雑居ビルの中に入る店舗)や「戸建て」などで分けるケースもあります。

近年は東京都心の「渋谷宮益坂上店」(東京都渋谷区)や「池袋西武前店」(同豊島区)などターミナル駅近くのビルインにも出店しているコメダ珈琲店ですが、もともと得意なのは郊外型の一戸建ての店舗スタイルです。クルマで走っていて「コメダがあるな」と認識できる店構え。その意味で、黒×オレンジのコメダカラーは視覚効果が高いといえます。

■「出入りにストレスがない」が大切

国道や幹線道路、生活道路といったロードサイド沿いの郊外型店で欠かせないのは駐車場です。実は、コメダの郊外型店は「駐車場を設計してから建物を設計する」そうです。なぜ、そんな段取りをするのか。開発部門統括のコメダ専務・高橋敏夫さんはこう話します。

「お客さんのストレスをできるだけ減らすためです。特に郊外型店は店内に入ってからではなく、『店が見えた段階からお客さんの体験が始まる』と考えています。クルマを運転していて『あ、コメダがある。寄っていこうか』と思った場合、スムーズにクルマが敷地内に入って駐車できるよう広いスペースがあることは非常に大切です」

もし駐車場が満車で出ようとした場合、手狭な駐車場だとマイナスイメージしか残らないそうです。

「車間スペースも狭い駐車場で何度かハンドルを切り返して、やっとの思いで駐車場を出たとしたらどうでしょう。満車で入れない、駐車場から抜け出すにも一苦労だったでは、お客さんに不快な印象ばかり残り、2度と来ないと思うかもしれません。逆にスムーズに出られれば、また空いている時に来ようと思っていただけるのではないでしょうか」(同)

コメダの店は、1台ごとのスペースを広めにとっており、駐車場の入口と出口を分けている店も多いそうです。また、車止めを3つ設置する場合もあり、縦列駐車が苦手な人も、安心して駐車できる工夫もしています。

■「階段で上がる店舗にはしない」

写真でもわかるように、コメダの郊外型店舗の建物は山小屋風です。競合店が相次いで模倣した外観で、今では珍しい造りではありませんが、次のような特徴があります。

(1)階段で上がる店にはしない
(2)建物の周辺に高くなる樹木は植えない

郊外型の飲食店には、建物の階段を上がったところに入口がある店も多いのですが、コメダはそうした設計にはせず、普通に歩くうちに店の入口に到達するようになっています。気軽に来店してもらうための工夫だそうです。

また、建物自体も仰ぎ見るような高さではなく、どっしりした造りで、建物周辺に植える樹木も高くなる種類は取り入れず、適度な高さの樹種を選んでいます。

こうした入りやすさへの取り組みは、特に地方の郊外型店で真価を発揮します。地方では自動車通勤も多いからです。たとえば工場勤務者は、スーツ姿ではなくカジュアル姿でクルマに乗って出勤し、会社に着くと作業服に着替えます。そうした人の立ち寄り先として、コメダのような敷居の低い店は使い勝手がいいのです。

昔から「不満あるところにビジネスあり」とも言われてきました。大きな不満に限らず、「ちょっとした不満を取り除く」ことで、店に対する心証がよくなります。気持ちよくクルマの出し入れができる、疲れていても階段を上がらないですむ…といったストレスが残らない店にする――。お客さんは神様ではありませんが、店では主役なのです。

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高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。著書に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)などがある。

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(経済ジャーナリスト 高井尚之=文)