ブルーの照明は、染色家の上村六郎氏が「女性がきれいに見える」というアドバイスによるもの/喫茶ソワレ

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高台寺や清水寺など、京都屈指の紅葉スポットの、行き帰りにアクセスしやすい河原町付近には、近代日本の歴史を物語る純喫茶が集中している。この秋、紅葉散策のお供に、京都の古き良き空間で、“ゆったり、まったり”な極上タイムが過ごせる店を、編集部が厳選して紹介。

【写真を見る】30年以上出している名物メニュー「ゼリーポンチ」(650円)/喫茶ソワレ

■ 歴史が詰まったロマンチック洋館で高貴なひと時を!

東山の麓、円山公園に威風堂々とそびえる「デザートカフェ 長楽館」は、明治42(1909)年に“煙草王”と呼ばれた実業家村井吉兵が、国内外の賓客をもてなすための迎賓館として建築。

100余年の歴史の中で、大隈重信や山県有朋に、西園寺公望ら多くの偉人が、語らい煙草をくゆらせていたという館内は、ルネサンス風の広間、ロココ調にネオクラシックやアールヌーボなど、多彩な建築様式が混在。建物だけではなく多くの家具調度品が、京都市有形文化財の指定を受けているのも納得の風格に圧倒されそう。

デザートカフェ 長楽館の“貴婦人の間”と呼ばれる部屋では、バラの形に絞り出されたクリームを乗せたウインナーコーヒーや自家製ケーキが楽しめ、またロココ様式の迎賓の間では、名物の「アフタヌーンティー」(4000円※要予約)を、優雅に味わえる。

コーヒーやデザイートが楽しめる貴婦人の間。円山公園の美しい眺望やピアノの生演奏(1日6回)も楽しめる。

通称“薔薇コーヒー”と呼ばれる、何ともフォトジェニックな「ウインナーコーヒ」(1000円)。

アフタヌーンティーが楽しめる迎賓の間。部屋は全部で8種あり、全て趣きが違う。同じ館内にある、イタリアンレストランのコーラルでは、近隣産のフレッシュな食材を駆使した、本格イタリアン(ランチコース4514円〜)が味わえる。

■ 昭和23年創業、ブルーに彩られた色香漂うロマンス喫茶

東山方面から四条大橋を渡り木屋町通を越え、高瀬川が目の前に流れる路地へ。「喫茶ソワレ」は、繁華街の真ん中にありながら、その様子は他の居並ぶビルとは一線を画すノスタルジックな佇まい。

幻想的なブルーのライトに照らし出された店内には、当時の常連であったという、東郷青児の手によるハイカラな美人画、重厚な雰囲気を醸すブドウ模様のレリーフ、ステンドグラスのランプ。歌人や画家などが集まっていたというのも大納得のロマンティックで独特の色香が漂う空間に、喫茶店価格で身を置ける贅沢さを噛み締めたい。

宝石のようにきらめく5色の自家製ゼリーと、爽やかな炭酸ソーダを合わせた「ゼリーポンチ」(650円)は、30年以上出している名物メニュー。

店表の歌碑は、舞妓さんと共によく訪れていたという歌人、吉井勇によるもの。看板の女性の絵は、画家の東郷青児作。

■ 近代日本の歴史をエレガントに包みこむ、サロン的空間

高瀬川沿いに風格のある建物が並ぶ一角にあるのは、創業から約80年という「フランソア喫茶室」。イタリアンバロック様式の店内は、白いドーム状の天井に著名な絵画の複製が飾られた漆喰仕上げの壁、窓にカラフルなステンドグラスと、気品あふれる雰囲気にうっとり。

実はこちら、治安維持法のもと、自由な論争が許されなかった第二次世界大戦下に、リベラルな論調で知られた新聞、土曜日の拠点でもあり、当時は、中井正一を始めとした、社会運動家や思想家が足繁く通っていたという歴史がある。

パティシエでもある、3代目が作る味わい豊かな自家製ケーキと香り高いコーヒー、そして、近代日本の歴史に思いを馳せる、優雅なティータイムを楽しみたい。

フレッシュクリームたっぷりの「コーヒー」(600円)は、コーヒーが苦手だったという俳優、宇野重吉のために2代目店主が考案。写真奥は人気の「レアチーズケーキ」(550円)

自家製ケーキは約20種。どっしりとした甘味とレモン果汁の爽やかな余韻がたまらない、写真の「レモンのタルト」(450円)や、「ザッハトルテ」(750円)も人気。【関西ウォーカー編集部/吉田元子】