さいきん歩いているうちに行き止まりに入ってしまった、という経験はあるでしょうか。「袋小路になる」という言葉は見かけても、そんな道を見なくなったと思いませんか? 防災対策のため、行き止まりは街から姿を消しつつあります。

とはいえ、行き止まりも路地の個性の一つ。画一的な街の風景とは違った、魅力や懐かしさがあるものです。東京都墨田区の向島には、行き止まりを通称"ドンツキ"と呼ぶ「ドンツキ協会」なるものがあります。ドンツキ協会会長の齋藤佳さん、理事のフジシロヤスシさんに、どんなドンツキがあるのかを伺ってみました。



行き止まりを街の個性として肯定的に捉える試み


――向島には、行き止まりが多いんですか?

「15年住む僕らでも、初めて見るドンツキがあります。向島は迷いやすいんですよ」(フジシロさん)

「電話で道を聞かれても、言葉で説明しづらい地域です」(齋藤さん)

「『墨東まち見世2011』というイベントの打ち合わせで、齋藤が『行き止まりを個性として捉えよう』と発案したことが、設立のきっかけです。不便なドンツキを肯定的に捉え、観光の一助にできればと考えたんです」(フジシロさん)



――行き止まりを見つけながら街を散策する「ドンツキクエスト」というワークショップを開催しているそうですね。どんなイベントなんですか?

「ドンツキというフィルターを通して街散策を行うイベントです。時間は2時間から3時間ほど。コースを回りながら、下町の風景そのものを観察していきます」(齋藤さん)

――Googleマップができてから、道に迷う機会も減りましたよね?

「『ドンツキクエスト』は、迷うことを楽しむ会でもあります。参加者が今の場所を分からなくなったら『しめた!』と思いますね(笑)」(フジシロさん)

――向島は下町の情緒もあり、散策するのに魅力的な街だと思います

「植物が置かれていたり、塀に洗濯物が干してあるなど、路地に生活感があるほど、散策は面白い。何に囲まれて行き止まりができているかを見るだけでも、ドンツキを見る面白さが違います」(齋藤さん)



行き止まりの分類学




――ドンツキにどんな種類があるんですか?

「僕らが見つけた行き止まりを分類し、形ごとに名称を付けたドンツキの分類表があります。全国のドンツキの形状は、だいたいこの表のどれかに当てはまると思います。直進型・先細り型・先太り形・ゲンコ型・先折れ型・丁子型・分岐型などがあります」(齋藤さん)



――ユニークな名称が多いですね。レアなドンツキもあるんですか?

「分類表に当てはまらないようなレアなものは、なかなかありません。墨田区では、八又に分かれている『ヤマタノオロチ型』や、奥が広場になっている形の『ゲンコ型』と『先折れ型』との複合型、『アックスボンバー型』などが見つかっています」(齋藤さん)





なぜ、ドンツキが生まれるのか?


――墨東のドンツキは減りつつあるんでしょうか?

「むしろ向島では、新築が建つたびにドンツキが増えています」(齋藤さん)

――そもそも、ドンツキが生まれるきっかけとは?

「いろいろなパターンがありますが、この地域で多いのは土地の分割が原因としてあります。田んぼなどを埋め立てた際、分割していくうちに、土地の中心に建つ建物は通りに接することができなくなります。すると住民は表通りに出るための道が必要になります。それが反対に通りから向かうと、行き止まりになるという仕組みです」(齋藤さん)

――ドンツキが多い地域の特徴とは?

「埋め立てた川の周りや、学校の周辺に多く見られます」(齋藤さん)

――地図で行き止まりがある場所を探すことはできますか?

「散策の前に、地図で目星をつけていくといいですよね。例えばGoogleマップを見たら、道が実線の黒ではなく、グレーをしていることがあります。そんなとき、道の先が見えていても、段差などで通り抜けが困難である『蜃気楼型ドンツキ』の場合があります。ただし『ドンツキは現場で起こっている』と僕らはよく言いますが、地図では気づけない新しい発見が毎回あるので、実際に街で見てください(笑)」(フジシロさん)



――ドンツキを見る上で、何か注意点ってありますか?

「ドンツキがある場所はたいていが私道です。『お邪魔します』の精神で、散策を楽しんでください」(フジシロさん)



ドンツキ探しは、一人ではなく、大勢で話しながら迷いながら進むからこそ、発見があるそう。ドンツキ協会の「ドンツキクエスト」は2月に一度のペースで開催中です。街の観察をしながら行き止まりに迷い込む、路地の魅力にはまってみては?

(石水典子)