腐生植物を知っていますか?
“森を食べる植物”ともいわれる腐生植物は、光合成をせずカビやキノコから栄養を横取りして生きています。光合成をしないため緑色でいる必要がありません。またカビやキノコがたくさんいる「豊かな森」でないと生きていけません。
私たちの“植物”のイメージとは随分違う腐生植物の生態を、東京大学大学院教授で植物学者の塚谷裕一さんに伺いました。
(TOKYO FM「いのちの森 voice of forest」8月28日放送より)

腐生植物の一種「ギンリョウソウ」



――植物の“花”というと、赤や黄色などカラフルな色で虫を呼んで交配するイメージですが、腐生植物の花は何色ですか?

ギンリョウソウとタシロランは白ですが、ブルーや黄色、赤の腐生植物もいます。茎があまり伸びないのが多くて単色が多いですね。森の奥にいますので、あまり濃い色だと目立たないんですよね。明るい色のほうが目立つので、白やブルーなど暗い背景でも見えるものがいます。ただ例外があって、あまり暗いところだと蜂や虫が嫌がってこないじゃないですか。そうすると虫を相手にするのをやめて、一人でやっていくのを選んだものもいるんです。それは形も色もキノコそっくりで、全然目立たないですね。

――それはどうやって増えていくのですか?

飛ぶ虫を相手にしないで地面をモソモノ歩く虫を相手にするのもいるし、それもやめて自分の花粉を自分のめしべにつけて繁殖するものもいます。とにかく腐生植物は葉で光を受ける必要が無いので、暗い所にはどこにでも行けるんです。普通の植物は明るいところに行きたがりますけど、彼らはその必要がなくてむしろ自分が食べるカビやきのこが豊富なところへ行くので、生き方がだいぶ違います。

腐生植物の一種「タシロラン」



――腐生植物は新種の宝庫なんですか?

花を咲かせる以外に地面から上に出る必要が無いわけです。葉で光合成をしませんから、花が咲くまでは地中にいるんですね。だから存在に気がつかないですよね。たまたま花が咲いた時に通りがかると発見できるという感じなので、タイミングが難しい。カビやきのこを食べているので、小柄なものが多くて見過ごしてしまうこともあります。
私が中学生か高校生の頃、オーストラリアで腐生植物に懸賞金が出たと新聞で見たことがあります。花も地中で咲いてしまう腐生植物がいて、当時2個か3個しか発見例が無く懸賞金が出たんです。たまたま掘って見つけるしかないんですけど。

――私たちが腐生植物を探す時のポイントはありますか?

種子植物なので花がちゃんとあって、おしべとめしべがあるのがポイントですね。ギンリョウソウも“ユウレイタケ”という、キノコのような別名があるんです。キノコ狩りを大勢ですると、ギンリョウソウを間違えて獲ってくる人がいるんですよね。でもおしべとめしべがある花なので、キノコじゃないなってわかるはずです。

ちょっと落ち着いた雰囲気のある森だと、丘陵地帯ならギンリョウソウは見ることができると思います。夏山シーズンなら、日本アルプスなどの中腹くらいで見ることができますね。平地でも竹やぶに生えるものなど、いろいろいますよ。竹やぶならコロっとした数センチのものが、葉っぱの隙間から顔をのぞかせているのが見られるかもしれません。

1回見ると忘れられない魅力がある腐生植物。さらに詳しい解説は、塚谷裕一さんの著書『森を食べる植物 腐生植物の知られざる世界』(岩波書店)でご確認ください。



<番組概要>
番組名:いのちの森 voice of forest
放送日時:毎週日曜 7:30〜7:55
パーソナリティ:高橋万里恵
番組HP:http://www.tfm.co.jp/forest/

「いのちの森 voice of forest」は、東北の被災地沿岸部に“いのち”を守る森の防潮堤を築くことをめざす「鎮守の森のプロジェクト」をはじめ、全国に広がる植林活動や、森林保護の取り組みにスポットを当てる番組。各分野の「森の賢人」たちの声に耳を傾け森と共存する生き方を考えていきます。