教科書改訂に批判的な声が上がっているが…  (C)孫向文/大洋図書

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 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年3月、来年度の高校で使用される歴史、公民教科書の検定が実施され、「ブラック企業」、性的マイノリティーを表す「LGBT」といった用語が初めて記載されました。また安保改正に伴う集団的自衛権の容認、尖閣諸島や竹島に関する記述が大幅に増加するなど、現代の世相を反映した内容になっています。

■左派・リベラル系言論人から相次ぐ批判的な声

 今回の検定では、集団的自衛権を「事実上の憲法9条改正」とする記述の削除、韓国の植民地政策に対する賠償を、1965年の日韓請求権協定で「法的に解決済み」と記載するなど、様々な修正が行われました。一方、今回の改訂を受け左派・リベラル系言論人からは批判的な声が上がっています。

 流通経済大学の植村秀樹教授は、NHKのニュース上で「日本政府の立場 外国政府の立場や主張をバランスよく記述するのが あるべき姿」と発言し、今回の教科書改訂を批判しました。しかし、僕自身は歴史、公民教科書を完全中立的な視点で記述する必要はないと思います。

 このような意見を主張すると反対される方は多いでしょうが、歴史における「正義」とは相対的なものです。一例を挙げると、朝鮮戦争は朝鮮半島を舞台とした資本主義と共産主義の代理戦争でしたが、アメリカを主導とした資本主義陣営から見れば「共産主義の魔の手から朝鮮半島を救うため」、旧ソ連を主導とする共産主義陣営から見れば「共産主義という理想社会を世界に広げるため」の戦いでした。

 他にも倫理、宗教、風土、伝統など歴史の定義とは各々が置かれた立場によって全く異なります。現在でも世界各地で歴史問題を原因とした紛争やテロが頻発しているように、世界中全ての人が賛同する歴史観を構築することは不可能です。

 さらに、国際的に中立的な歴史教育は自国に対する意識を低下させる恐れがあります。例えば竹島、尖閣諸島、北方領土など日本の領土問題の歴史を生徒に教育する際、対立国側の主張まで教えてしまったら生徒の自国領に対する意識は希薄になると思います。事実、日本の知人には領土問題に対し無関心な方も多く、僕はそのような傾向に危機感を覚えるのです。

 これは領土問題に対し関心が強い日本の知人から聞いた話ですが、今まで日本の歴史教育に国際的な視点が求められていたのは、教科書検定基準に定められている「近隣諸国条項」という規定が原因のようです。この条項は「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」という内容で、簡潔に言えば「近隣諸国の意見も多く取り入れろ」という決まりです。

 もちろん、かつて日本が中国に対し侵略的活動を行い、旧朝鮮に植民地政策を行ったのは歴史的事実であり、日本史を正確に記述する上で諸外国の意見を伺うことは必須事項ですが、中国や韓国の歴史観は日本側の負の側面を強調したものが多く、事実かどうかあいまいな事件ですら堂々と記載されていることが珍しくありません。

そのため両国の意見を素直に受け入れてしまうと日本の歴史教育は大きく偏向します。特に中国の歴史観は誇張や捏造が数多く盛り込まれており、僕の友人の中国人夫妻ですら息子が自国の学校で教育を受けることに抵抗を示しています。仮に中国側の主張を日本の歴史教育に取り入れると、「日本軍が南京で30万人を殺害した」などといった、中共政府がプロパガンダ用に吹聴した「フィクション」が「事実」として教科書に記載される可能性があるのです。このような観点から僕は、近隣諸国条項は撤廃するべきだと思います。

 訪日後、僕は日本の知人たちから「日本軍は絶対悪」、「天皇は戦犯」、「中国や韓国の人に謝れ」といった教育を学校で習った経験があるという話を何度も伺いました。これは戦後のGHQによる反戦思想の吹聴、日教組による左派的教育指導の結果でしょう。将来、僕が日本で家族を持った時、自分の子供が生まれ育った国を軽蔑し、近隣諸国に媚びるような教育を受けてもらいたいとは思いません。

 僕は、今回の教科書改訂は日本の歴史教育が戦後長らく続いた「自虐史観」から脱却しつつある証拠として、歓迎すべき傾向だと思います。今後も改訂が継続され虚構や脚色のない客観的事実に基づいた教科書が誕生し、生徒たちが自国を素直に誇れるような歴史教育が日本中の学校で行われる日を期待しています。

著者プロフィール


漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)