年末に集団暴行事件のあった独ケルン

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 紅白で近藤真彦と松田聖子がトリだったのを見て、自分がおっさん、おばはん、いえ、もう老人の域に入ろうとしている皆さん、ご機嫌いかがでしょうか? ワタクシはゲスの極みの絵音さんを画像検索し、AV嬢ではなかったことに涙しております。

 さて今年も罵詈雑言にお付き合いいただければ幸いです。今年1発目のコラムなので、今回は今年の予想のようなものを書いてみたいと思います。

1.ますます混迷を極めるヨーロッパの難民問題

 2016年は欧州における難民問題さらに悪化するでしょう。日本からは物理的な距離があるためなかなか実感が湧きにくいのですが、この問題、日本では考えられないレベルで欧州各国で大問題になっています。昨年も書きましたが、欧州に住んでいる人々にとって、難民問題というのは日常生活に直接関わる話です。

 難民を受け入れた場合に、その生活の支援をしたり、予算を出すのは地方自治体という国が少なくありません。いきなり難民(住民)が増えれば、ゴミ収集の負担は増え、病院の患者が増え、公立学校の席を増やす必要がある一方で、予算をひねり出すために、地元の福祉サービスがカットになったり、公営住宅の順番待ちに時間がかかるようになる、という状況が発生します。地元民にとっては、経済や安全保障以上の重大問題です。難民を受け入れることで潤う商売もいありますが、短期的には地元の負担は大きくなります。

 2015年には100万人以上の難民が欧州にやってきましたが、2016年も同数かそれ以上と予測されています。欧州経済は若干持ち直していますが、ギリシャ危機で露見してしまた不安定な経済政策と政治的不協和音、緊縮財政の中で、新たに100万人がそれ以上の難民を受け入れることで、欧州の負担は増えるでしょう。

2.シェンゲン協定の崩壊――閉じる欧州、アメリカとの関係悪化

 難民の大量流入で、欧州のシェンゲン協定は事実上崩壊していますが、2016年には公式に廃止されてしまう可能性もあります。これまでは、欧州各国を移動する場合は国境でパスポートチェックがありませんでした。

 例えばスウェーデン政府は、1年で16万人以上流入した難民の入国を阻止するために、デンマークからの入国者に対して、マルメとデンマークの首都コペンハーゲンを結ぶオーレスン橋で、半世紀ぶりに身分証明書のチェックを再開しました。難民の殆どデンマークを経由してドイツからやってくるためですが、このチェックの再開を歓迎する人が半数を越えています。例えばSifroがスウェーデンの18-79歳の1155人に対して調査を実施した結果、オーレスンド橋でのIDチェックについて、59%が良いと答え、31%が悪いと回答しています()。

 スウェーデンと同じくデンマークも入国審査を強化しています。デンマークには2015年9月からドイツ経由で難民が約9万1000人も入国していますが、難民申請したのはうち約1万3000人で、多くの難民はスウェーデンやその他の国に移動しています。

 ドイツもオーストリアとの国境チェックを開始し、ハンガリーは他国との国境に塀を設けました。協定は、通貨統一、居住と労働の自由と共に、「統一欧州」を象徴していましたが、制度が事実的に崩壊することで、欧州各国が難民を押し付けあっていることがバレてしまいました。

 本当はお互いが「大嫌いな」欧州各国を統一する「意味」は一体何なのか。疑問に思っている人が少なくありません。シェンゲン協定でさえも足並みが揃わない欧州は、シリア問題に関しても意見が割れています。これは欧州とアメリカの関係悪化にも影響を及ぼします。

3.大晦日のケルンでの集団暴行――欧州の「寛容主義」の終焉

 デンマークは難民が保護を受ける際に身に付けることができる貴重品の限度額は約1460ドル(約17万円)で、それ以上は国により没収という強烈なこともやっています()。

 スウェーデンは人口950万人なので、神奈川県(人口910万人)の同じぐらいの規模。デンマークは560万人なので、兵庫県(人口550万人)ぐらいの規模です。日本の人口からすると、国というよりも県に近いわけです。例えば神奈川県に難民がいきなり16万人やってきたら大騒動になるでしょう。

 これまでは欧州国内でも北欧諸国は難民に寛容なことで知られていましたが、「あの」寛容な北欧諸国まで難民流入を阻止しようという方向に動いていることは、欧州各国で難民に対する反感の高まりがどれほどのものかわかります。

 ドイツのケルンでは大晦日に大聖堂周辺で大規模な性犯罪が発生し、500人以上の女性が警察に被害届を出す事件が起きましたが、この事件はドイツで政治的な騒動になっています。容疑者には北アフリカ系や中東系の男性が大半であったという証言が多かったために大騒動になっています。デュッセルドルフ、ハンブルグ、ミュンヘン、でも同様の事件が発生しています。

 ドイツ人にとってショックだったのは、大晦日のミサが行われていた場所で、大聖堂の前の広場だったこと、公共の場で女性が男性の集団に囲まれて、体を触られたり下着を脱がされるレベルで暴行を受けたこと、容疑者は顔を隠すわけでもなく逮捕されるのがわかっているのに暴行したこと、その場に100名以上の警官がいたのに防げなかったこと、女性を助けようとした男性が集団暴行を受けて病院送りになった人もいたことでした。

 これまでもイベント会場等での性犯罪はありましたが、大晦日の広場でここまで危ないことが起こったことは、これまでなかったことです。警察はわざと放置したのではないか、自治体側はなぜ容疑者に難民申請者がいたことを公表しないのか、と陰謀論や政府、自治体に対する不満もでています。

 この事件では、難民に対する不満を口に出す人が目出しましたが、2015年後半からはドイツでも公的な職にある人も、難民に対するネガティブなコメントを口にする人も出てきています。例えばドイツの犯罪警察のトップであるAndre Schulz氏は「ドイツに流入する難民の少なくとも10%は、婦女暴行、窃盗等に関わる犯罪者になる」と述べています。

 メディアがどれほど難民を歓迎する人々の「イメージ」をながそうとも、緊縮財政の中、庶民に高い負担を強いる難民受け入れを歓迎する人は多くはありません。寛容なことで知られた北欧やドイツでさえ反移民的な態度が目立ち始めたということは、本年が寛容な欧州の終焉となる気がします。

4.ポピュリストと右派の躍進、左派やリベラルの没落

 欧州各国は相変わらず景気が微妙です。さらに日本や北米と同じく、資産家層や投資家層はより豊かになる傾向がありますが、その辺の庶民の生活というのは苦しくなる一方です。

 医療、金融、ITといった知識産業の仕事は大盛況であり、日本の同程度のスペックが要求される仕事の数倍の報酬を稼ぎだす人も珍しくありません。しかし、そのような仕事にありつけるのはごく一部です。新卒採用という仕組みがないため、高卒、文系新卒は時給いくらで、昇進も昇給の見込みもない「デッドエンドジョブ」につくほかありません。欧州南部のほうは仕事がないため、オランダ、ドイツ、イギリス、北欧諸国に出稼ぎに行くのが当たり前です。

 そのような状況ではありますが、欧州は日本よりも物価の高い国が多く、税金が高いこともあり生活は楽ではありません。例えば付加価値税は15〜27%で、軽減税率適用ではない場合、ほとんどの国では20%を越えます。

 ノルウェーでビール1杯にフライドチキン程度の食事をすると一人3000円かかります。イタリアの場合、大手企業の中堅の月収が20万程度なのに、不動産は日本以上の値段、その辺の飯屋で夕食を食べると一人5000円ぐらいかかり、洗剤や雑貨は日本より高い上に、選択肢がありません。

 ロンドンの住宅平均価格は8000万円です。中心部で20平米ぐらいのワンルームを借りると家賃は月18〜50万円です。その辺の場末のインドカレー屋のカレー1皿が2000円ぐらいです(チップ込み)。まずいサンドイッチ2切れが600円。ラーメン一杯1800円。ちょっと郊外に住むと、電車と地下鉄の定期券が月に5万円かかりますが、サラリーマンでも交通費は自腹です。

 ギリシャやスペインの南部はもっと悲惨で、イタリア以上に仕事がないのに、服や外食は日本と変わらない値段です。超有名大学を出ても仕事がないので、ロンドンやパリに行って喫茶店の店員や、高校生でもできそうな単純な仕事をやらざる得ません。バイトや安い外食、安い雑貨はなく、庶民にとってはスーパーや市場で買った食材を持って、公園に行って食べるのが娯楽です。外食は観光客価格なので一人3000円ぐらいかかるのも珍しくありません。

欧州各国で極右政党が軒並み20%の支持を得ている!

 こういう状況なので、福祉手当や職業訓練、公営住宅の補助などが必要な難民が急激に増えてしまうことは困る、と考えている人が少なくありません

 しかし、左派の多くは、難民を受け入れるべきだと述べています。一方で、緊縮財政や若者が就職できないこと、階層移動が難しくなっていることに対して、「具体的」な政策は提示されません。そのような状況なので、欧州各国では、左派が支持を失い、ポピュリストが台頭しています。

 総選挙および世論調査の結果をみると、ほとんどの国で、極右政党、もしくはポピュリスト政党が高い支持を得ているのがわかります

ポーランド:PiS 39%
オーストリア:自由党 31.2%
ギリシャ:SYRIZA 31%/ 黄金の夜明け9.1%
スイス:SVP 29%
フランス:国民戦線 27.6%
イタリア:5つの星 27.2% 北部連合 15.2%
ハンガリー:JOBBIK 24%
オランダ:自由党 24%
スウェーデン:スウェーデン民主党 21.1%
デンマーク:デンマーク人民党 21.1%
スペイン:PODEMOS 20.7%
アイルランド:SINN FEIN 19.3%
イギリス:UKIP 12.4%
フィンランド:TRUE FINNS 10.3%
ドイツ:AfD 9.8%
(出典:)

 数字で見てみると、改めてその支持が欧州全土で高まっているのに驚きますが、これは、アメリカでドナルド・トランプ氏の支持が高まっていることとも関係があります。

 アメリカでも、左派は「綺麗事」やイルカの人権の保護には熱心ですが、派遣社員から正社員になる方法、税金を安くする方法、年金を増やす方法は教えてくれません。左翼はそのへんの庶民の生活をどうするかに答えられない限り、ルペン大統領、トランプ大統領の出現は絶対にない、とはいえないでしょう。

 反移民、シリア問題への意見の相違、左派の没落というのが、欧州だけではなく海の向こうのアメリカでもほぼ同時に起こっていることは、日本でも注目するべきことでしょう。

著者プロフィール

コンサルタント兼著述家

May_Roma

神奈川県生まれ。コンサルタント兼著述家。公認システム監査人(CISA) 。米国大学院で情報管理学修士、国際関係論修士取得後、ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経てロンドン在住。日米伊英在住経験。ツイッター@May_Romaでの舌鋒鋭いつぶやきにファン多数。著作に『ノマドと社畜』(朝日出版社)、『日本が世界一貧しい国である件について』(祥伝社)、『添削! 日本人英語 ―世界で通用する英文スタイルへ』(朝日出版社)など。最新刊『日本人の働き方の9割がヤバい件について』(PHP研究所)が好評発売中!

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