無投票再選となった自民党総裁選(自民党HPより)

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

自分の能力を過信した野田聖子の勘違い政治人生

 9月8日に告示された自民総裁選で安倍総理以外に立候補届出がなく、無投票再選が確定した。一時、その動向が取り沙汰された石破茂地方創生相が出馬を見送り、党内の7派閥がそろって安倍総理の支持を打ち出した。谷垣幹事長は2日、党内のインターネット番組で「重要な審議と総裁選を同時並行でやるのは、よほど目配りしないとガタガタになる。参議院で大詰めを迎えている安全保障関連法案への影響を避けるためには、無投票再選が望ましい」と述べるなど、党内が総裁選回避の方針で一致していたのだから、党執行部としては理想的な形で落ち着いたわけだ。

 そんな党内の空気に反逆し、「将来の女性総理候補」と煽られていい気になり、「安倍晋三首相(党総裁)無投票再選は国民への欺瞞だ。傲慢で不誠実だ」などと宣い、分不相応にも土壇場まで出馬を諦めなかったのが野田聖子だ。日頃、親しい議員を中心に20名の推薦人集めに躍起になったが、「大義がなければ応援できない」「何をしたいのかわからない」などと、なかなか色好い返事は貰えず、とうとう断念に追い込まれたようだ。

 およそ総理総裁たる者は優れた政策能力と手練手管を駆使した抜群の調整能力を兼ね備えていなければ務まらない。強力なリーダーシップも必要だ。野田はそのすべて欠いている。一応、郵政省や党の総務会長は経験しているが、それも「女性を大切にしている」と見せかけるための単なる“お飾り”にすぎず、実績は何もない。

 そもそも野田は私生活に致命的な問題を抱えている。それは過去にアダルトサイトや飲食店を経営し、逮捕歴のある木村某なる得体の知れない人物と婚姻関係にあるからだ。一国の指導者ともなれば国際会議の後のレセプションなどの公式の場に夫婦で出なければならないこともあるが、そんな「夫」では日本の恥になるだけだ。

 いずれにせよ、もし本格的な総裁選ともなれば、地方遊説や公開討論会などに時間を取られ、目下、大詰を迎えている安全保障法制の審議どころではなくなる。野党も「総理が代わるかもしれないのだから、審議には応じられない」などと言いがかりをつけて、審議拒否に出る公算が高い。仮に野田が出馬して総裁選となった場合、終盤国会の混乱は必至だったのだから、推薦人が集まらなくて幸いだったわけだ。

相次ぐ安倍の“健康不安報道”は老人どもの陰謀か?

 無投票再選されたことで、安倍の任期は2018年9月末までとなり、第一次政権のような健康問題さえなければ、吉田茂や佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎らと並ぶ長期政権を樹立し、「平成の名宰相」の名を冠せられる公算が高い。

 だが、それがすこぶる面白くない面々がいる。「エロ拓」こと山崎拓元自民党副総裁や「陰の総理」こと野中広務元幹事長。野中の子分にしていまだに宏池会(岸田派)のオーナー気取りの古賀誠元幹事長。小泉との政争に破れ、あっという間に力を失った亀井静香――。彼らのような、かつて実力者と呼ばれながら、総理になれなかった連中だ。

「自虐史観」の象徴ともいうべき「村山談話」を発表し、韓国や中国に言いがかり外交の材料を提供し、いたずらに日本の国益を害し、日本民族の誇りに傷をつけただけで、ろくな実績も残さなかった村山富一元総理なども同じ類であろう。村山は自分の失政は棚に上げ、「先の世代に謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」として「自虐史観」からの決別を宣言した「安倍談話」を批判しているのだから、呆れたジイ様だ。

 政治家というのは生来、嫉妬探い人種だが、引退し、棺桶に入る日が近くなると、いっそう燃え盛るらしい。なかでも政局的な動きが目立つのが山崎と古賀の二人で、野田聖子を唆し、掌の上で転がそうとしていたのも古賀だ。もっとも古巣の宏地会(岸田派)にも古賀の口車に乗せられて野田の推薦人になるほど風の読めない議員はほとんどおらず、古賀もとんだ骨折り損のくたびれ儲けに終わった格好だ。

 山崎拓も6月12日に亀井、武村正義元官房長官、藤井裕久元財務相らと連れだって記者会見を開き、安倍内閣が進める安全保障連関連法案について「憲法解釈を一内閣の恣意によって変更するのは認めがたい」などと批判。7月16日にも同じメンバーでわざと当日の本会議の開会時刻にぶつけて緊急記者会見を開き、安倍政権批判論を展開している。さらに野中は「死んでも死にきれない」と、古賀も「恐ろしい国になっている」などと宣い、何とかして安倍政権に一矢報いようとしていることは間違いない。まさに「老いの妄執」である。

 これからも「安倍一強」が続くとすれば、それを揺さぶるには、唯一の弱点である健康状態を突くしか手がない。例えば『週刊文春』の「安倍吐血報道」に代表される相次ぐ「安倍健康不安説」の流布だ。

 およそ一国の指導者の健康状態は国家の最高機密に属する。中国や北朝鮮、韓国などのスパイが鵜の目鷹の目で情報蒐集に余念がないが、どうしてこうも簡単に機密が漏れるのか。総理周辺に老人どもと密かに好を通じ、唆されて国益も考えず、情報をリークする不心得な輩がいるとしか筆者は思えない。高齢化社会の弊害は政界まで侵食しているのである。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中