美代子ファミリーの住んでいた尼崎市内のマンション(撮影/高橋ユキ)

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 兵庫県尼崎市の倉庫で大江和子さん(66=当時)の遺体が見つかったことがきっかけで発覚した「尼崎連続変死事件」。複数の家族が角田美代子元被告(64=当時)主導のもと、長時間虐待を受けて死亡していたことが明らかになった。

 美代子元被告は逮捕後に留置場で自殺を遂げ、現在は残された親族らに対して、神戸地方裁判所で順次、公判が開かれている。5月13日からは、美代子元被告の内縁の夫である鄭頼太郎(65)、義妹の角田三枝子(62)、長男の健太郎(33)の3被告に対する裁判員裁判がスタート。

 いずれも殺人罪のほかに、別の女性への監禁罪などそれぞれ9つの罪で起訴されているが、罪状認否では皆、口を揃え「殺そうとも、死んでもいいとも思ったことはない」と、起訴状の大部分を否認した。

 裁判員の任期は“100日裁判”と言われた首都圏連続不審死事件・木嶋佳苗被告(40)の一審公判(さいたま地方裁判所)よりもはるかに長い。現在も神戸地方裁判所では3被告に対する裁判員裁判が続いている。

明らかになった生前の荒ぶる美代子被告

 7月15日からは三枝子被告の義弟である橋本次郎さん(53=当時)を2011年7月、マンション屋上の小屋に監禁し、虐待して衰弱死させた上、遺体を岡山県の海中に遺棄したとされる、監禁罪・殺人罪・死体遺棄罪についての審理がスタート。生前の美代子元被告の荒ぶった様子が明らかにされた。

 法廷に現れた3人、三枝子被告は黒のタートルに黒いズボン、白髪まじりの肩までの髪をハーフアップにしていた。美代子とは血のつながりはないが、なぜか雰囲気は似ている。美代子ファミリーは騒動の起きる前からパチンコ屋で頻繁に目撃されており、新装開店などの情報が書き込まれる掲示板では、あだ名が付けられていた者もいる。

 その一人が美代子の内縁の夫で『ちょんまげしゃくれ』と呼ばれていた頼太郎被告。ちょんまげではなく坊主頭になっていたが立派なしゃくれは健在であった。白い大きめのジャージを着て、いまパチンコ屋にいても全くおかしくない風貌だ。健太郎被告は恰幅の良い体型にワイシャツ、スラックスで、そのあたりにいるサラリーマンのよう。脇に座る弁護人と区別がつかなかった。

 さて、美代子ファミリーの住んでいた尼崎市内のマンション居室は最上階で大きなベランダがあり、そこに物置が複数あった。次郎さんはそのうちのひとつに監禁されたが、これまでこの場所で監禁されて死亡していった人間もいるほか、今回の被告人の中にも監禁されたことのある人間がいる。ファミリーにとって屋上物置での監禁は次郎さんが初めてではなく、日常のひとつでもあったようだ。

 なぜ次郎さんが監禁されることになったのか。ここは検察側、弁護側双方争いのないところである。一連の事件が発覚するに至った大江和子さんの件に絡み美代子はその娘や孫を監視下に置いていた。特に「家族からの金の巻き上げを計画中で少女を取り込んでいた」(検察側冒頭陳述)ため、和子さんの孫、Aさん(当時12歳)もファミリーと一緒に尼崎のマンションに住んでいた。このAさんが「次郎から胸を触られた」と、ファミリーのひとりにうちあけたことが、きっかけとなった。

「美代子はこの報告を受け激怒し、深夜に角田一家をリビングに招集し、ワイセツ行為の発覚を告げる。美代子は次郎を追求し、ワイセツ行為を認めさせた。皆次郎を非難するなか、美代子は『絶対に許さん。タダで済むと思うな。一緒に住まれへん。死ぬしかないな。助かると思うな』などと次郎に申し向けた……」(検察側冒頭陳述)

『死ぬしかないな』という言葉通り、この家族会議終了後即、次郎さんはベランダの物置に監禁される。ちなみに美代子ファミリーにおいてこの“家族会議”は恒例であり、大江家など他のファミリーを取り込む際にも使う、いわば美代子が家族をコントロールするための手段でもあった。監禁開始後は、物置の中で縛り付けられ身動きが取れない状態にされた次郎さん。

「美代子の指示で、楽な姿勢をさせないように緊縛方法の変更を正則(李。美代子のいとこ)に指示し、正則らは2メートルの丸太を資材置き場から盗んで来た。正座した次郎さんの両手を横に上げさせ、丸太に磔のように緊縛した。弛んだ紐を縛り直す度に殴る蹴るの暴力を振るい、美代子は外履きの固いサンダルで殴りながら『絶対に許さん』と言っていた」(同)

 7月後半の暑い時期、身動きの全く取れない中、こうした姿勢で固定されたためか、監禁スタートから2日半で次郎さんは死亡した。オムツを履かされ食事も制限されていたという。

 この日から翌日まで引き続き行われた、一連の事件の共犯であり今年3月に懲役15年が確定している仲島康司(45)の証人尋問では、次郎さん事件の詳細に加え、事件の発覚から美代子ファミリー解体前夜の様子が淡々と語られた。

著者プロフィール

ライター

高橋ユキ

福岡県生まれ。2005年、女性4人の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。著作『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)などを発表。近著に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)