法案は衆議院を通過し参議院に送られた

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

集団的自衛権を限定容認した安保内閣の大英断

 国際法など“クソ食らえ”とばかりに野心剥き出しで、カによる現状変更を企て、とどまることを知らない中国の膨張主義と、着々と核開発を進める“無法国家”の北朝鮮。いま、日本を取り巻く安全保障環境は確実に緊張の度合いを増しつつある。もはやどこの国もー国のみでは領土や国民は守れない時代だ。自由と民主主義、法の支配といった価値を共有する米豪などと連携した集団安全保障が何より求められる。国際連合憲章第51条が主権国家の固有の権利として「集団的自衛権」を認めているのもそのためだ。

 安部内閣が従来の内閣法制局の「日本も主権国家として集団的自衛権を保持しているが、行使できない」とする「行使できない権利」という訳のわからない解釈論を政治主導で変更したのは、まさに時宜を得た大英断と言えるだろう。「アッパレ安部総理」と言いたい。

 そんななか、戦後の安全保障政策の「大転換」となる集団的自衛権の限定容認を裏づける安全保障関連法案が7月15日、自民・公明の賛成多数で可決した。衆院平和安全法制特別委員会では野党議員の怒号が飛び交い、民主党がテレビの映像を意識し、カラフルな文字のプラカードを手に委員長席に詰めよるなど、ことさら「強行採決」を国民に印象づけようと「演出」するドタバタ劇だった。

 翌16日の本会議では、民主・維新・共産・社民の5党が歳費を貰いながら、採決に加わらず“職場放棄”。与党と「次世代の党」の賛成多数で可決された。

 これに反体制的なメディアがいっせいに反発。「民意畏れぬ『数頼み』」(毎日)、「民主主義揺がす強行」(同社説)などと、ことさら「強行採決」と「与党の横暴」を国民に印象づける論陣を張っている。さながら野党と自分たちだけが民意の代弁者のような口振りだ。

 だが、議会制民主主義の下では「民意」は選挙における当選者の数となって現れるのだから、より多くの国民の民意を代弁しているのは政府・自民党であって、野党は少数意見の代弁者に過ぎない。

「歳費ドロボー」にも等しい野党議員の“職場放棄”

 それに野党や左翼メディアは民主主義の意味を明らかに履き違えている。民主主義の欠点は「小田原評定」のように「ああだ。こうだ」と言い合ってばかりいて、なかなか結論が出せないことだ。結論を出すのにもすこぶる効率が悪い。下手をすると「神学論争」にも陥りかねない。それを回避するには、野党の少数意見を出させる機会を与え、真摯に耳を傾け、潮時を見て多数決で決める。それが民主主義の基本だ。

「強行採決」となったのは、野党議員たちが高額な歳費を貰いながら採決を拒否し職場放棄をしたからに他ならない。言うまでもないが、国会議員の主な公務は本会議と所属委員会に出席し、質疑を行い、採決に参加し、賛否の意思を表示することにある。その対価として年間2000万円以上の歳費(期末手当を含む)が支給されている。言うまでもなく、原資は国民の血税だ。反対なら採決に参加して堂々とその意思を表示すべきだろう。にもかかわらず、野党議員たちは公務をボイコットしている。するべき仕事をしないのだから、民間企業なら「懲戒処分」ものだ。

 16日の読売社説では「疑問なのは多数の民主党議員が採決時に委員長席に詰め寄って怒号を上げ、与党の『強行採決』を『演出』したことだ。カラフルな文字を紙に掲げるなど、テレビ映像を意識した行動だった」と指摘しているのは実に的を得た指摘だ。

最高裁も憲法解釈を変更することはある

 何よりフザけているのは「審議不十分」を主張する民主党などが参議院での審議入りを拒否していることだ。17日の読売社説も「『審議が尽くされていない』として衆院採決に反対しながら、参院の審議を拒否するのは筋が通らない」と野党の姿勢を批判している。そんなに審議がしたいなら一日も早く審議入りすべきだろう。

 忘れてならないのは、国会運営は国民の血税で賄われていることだ。一日に一億円以上と言われる。論点が出尽くしているのにもかかわらず、無用な議論を続ければ、それだけ無駄なカネがかかる。野党はその点をどう考えているのであろうか。

「戦争法案だ」「自衛隊員のリスクが高まる」「徴兵制につながる」などと同じことの繰り返しで、法案の中身に入らず、建設的な議論になっていない。浜田靖一委員長が審議を打ち切り、採決を決行したのは賢明な判断だと言えるだろう。

 憲法解釈というのは時代の要請に合ったより現実的なものでなければならない。違憲立法審査権を持つ最高裁は、1973年4月4日、それまで多くの学者が「違憲」と主張しながら「合憲」としてきた尊属殺人を初めて「違憲」と判断した。憲法解釈の変更である。憲法解釈は時代とともに変わることの実例である。

 当然、内閣の有権解釈の変更も許されてしかるべきである。筆者が学生の頃は大多数の憲法学者が「自衛隊は違憲だ」などと主張していたが、いまだに「自衛隊違憲論」を唱える者がいたとしたら、それは愚か者だ。国民は「偉い先生の言うことだから」と、その意見を鵜呑みにしがちだが、学者というのは、生来、浮世離れした無責任な人種であることを忘れてはなるまい。

 憲法を間違って解釈されて国が滅びる。そんなバカなことがあってはならない。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中