自衛隊員は何を思う?(写真はイメージです)

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「さすが安倍総理! 自衛隊の最高指揮官としてよくぞ決意してくれました。これから自衛隊の活動が拡がると思うと私も気持ちに張りが出る。嬉しいです!!」

 こう語るのは元予備自衛官のMさん(50代)だ。小学生時代から地元では「悪」で鳴らし、中学時代は暴走族として勇名を馳せた。高校1年生の時、校内暴力で中退し、暴走族をしながら地元のヤクザ組織にも出入り、チンピラの真似事をして15歳の一時期を過ごした。

 悪で粋がっていたMさんにとって体力勝負で上下関係の厳しい自衛隊は、どこかシンパシーを感じたものだ。すくなくとも悪で粋がっている自分を“問題児”と一方的にレッテル張りする「左翼教師」と呼ばれる人たちよりも自衛隊員たちはMさんの目にはカッコよくみえたものだ。

海自の少年術科学校を退学した予備自衛官が語る

「愛国心がどうのとか、国家がどうのとか、そんな難しいことは知りません。だから左翼が目の仇にする自衛隊に興味があった。変に自由主義、平等だという日教組系の教師より、階級遵守、上下社会が徹底する自衛隊は族(註:暴走族などの意味での「族」)に通じるものがあった」

 喧嘩、万引き、恐喝……どんなに悪の限りを尽くしても庇ってくれた母親が、「ヤクザだけはやめて」と泣かれたこともあり改心したMさんは、翌日、自衛隊員になるにはどうしたらいいか、早速、自衛隊の募集事務所を訪ねた。

 中学を卒業してまだ1年目のMさんに、自衛隊の募集係はこう告げた。

「できれば高卒で来なさい。そうしたら高校卒で一般隊員(階級最下位の兵隊、陸なら2年、海・空なら3年)で入隊できる。足し算・引き算、掛け算までできればまず受かるよ。君の年齢なら少年自衛官も受験可能だが、こっちはちょっと難しいぞ――」

 少年自衛官とは、当時は陸・海・空の3自衛隊にあった(註:現在は陸上自衛隊高等工科学校のみ)4年間、工業高校程度の教育を受けつつ、卒業後には技術下士官にいきなり任官される制度。高校卒で入学する防衛大学校が自衛隊の幹部養成コースなら、こちらは一段低いが、それでも自衛隊の出世コースであることには間違いない。試験は難関で競争率も10倍以上だという。

「そこに俺の居場所があるように思えてね。それまでしたこともなかった勉強を何ヶ月かしましたよ。通っていた中学にも顔出して、悔しいけど左翼教師から数学や物理を教えて貰いました」(Mさん)

 猛勉強の甲斐あって、見事、海上自衛隊少年術科学校に入学したMさんだったが、その環境に失望したという。入学して初日、3年の先輩が大勢やって来て、1年生にこう怒鳴りたてる。

「お前らは今日から首から下でのご奉公だ。俺たちの階級が上の先輩の言うことは絶対だ!」

 これを1年生に言った先輩は、成績優秀、防衛大への入学が確実といわれる教官たちからも評判のいい「大人しいエリート」だった。Mさんは、ここでも勉強や教師におべっかをつかうタイプが幅を利かすのかと思うとやり切れなくなった。

「力の強いヤツが勝つという世界ではなかったのですね。弱っちい理屈っぽいヤツが先輩というだけでデカい顔してる。だからよく楯突いたものです」(同)

 だが先輩に楯突くMさんを認める組織風土は自衛隊にはない。先輩や教官から顔が腫れ上がるまで殴られ蹴飛ばされた。そんな日々が続き、ついにキレたMさんは同期たちと“逆ハッパ”と呼ばれる先輩たちへの襲撃を企てる。だが計画は露呈、首謀者のMさんは自発的に退学へと追い込まれた。

「自衛隊といってもそのなかは自分が憎んだ左翼教師たちと変わらなかったね。辞めてからはまた悪の限りを尽くし、20代で今度は陸自に一般隊員として入隊。それもつまらん喧嘩で辞めちまったけど。でも会社勤めで厳しい世間の風に当たると自衛隊が懐かしくてね。仕事の傍ら予備自衛官としてまた入隊しました」(同)

同期や先輩・後輩たちの活躍の場が増えるから賛成

 予備自衛官として入隊したMさんに、上官となったかつての同期、先輩、後輩は皆優しかった。幹部の階級章をつけている後輩からも「先輩」と立ててくれる。

「だんだんマスコミの反日、親中韓ぶりに世間が嫌気をさしていた頃です。自衛隊も変わってきたのでしょうね。やっぱり俺の居場所はここだった――と思いを強くしました」

 そんなMさんにとって衆院特別委で可決された新安保法制はどう映るのか。

「理屈はいいんですよ。俺たちの同期、先輩、後輩たちが世界で大暴れできる場が整った。竹島や尖閣を取り戻す、拉致被害者を救いに行く、PKOとか何とかでも日本が恥ずかしい思いをしない。それを認めない日本人は日本人やめろといいたい。安倍総理こそ自衛隊を理解してくれている真の政治家です」(同)

 だがMさんにとって今回の新安保法制の採決では公明党が政権与党として賛成しているのはこの上ない屈辱であると言う。

「公明党が自衛隊の足を引っ張っている。安倍総理もきっと悔しいと思います」

 あまり昨今の政治情勢には詳しくはないが、それでも安倍総理を理屈抜きに支持するMさんのような元自衛隊員の声に支えられて、新安保法制は15日、強行採決された。

 実際に海外の戦地に派遣される可能性の出てきた現役自衛官たちは、「今回の新安保法制では1年で自衛隊を辞めたようなヘタレほど元気がいい」と話す。こうした声ははたして安倍総理のもとへと届いているのだろうか。

(取材・文/鮎川麻里子)