安倍晋三公式サイトより

写真拡大

 現在、衆議院と参議院は一票の格差が広がり過ぎて最高裁から違憲状態と指摘されている。そんな状態ながら、2014年12月には衆議院選挙は実施された。

 政治に馴染みがないとわかりづらいが、最高裁の判決は「違憲状態」であり、「違憲」ではない。「違憲」との判断が下れば、2014年の選挙は無効になる。そうした混乱を避けるために、最高裁はあえて温情を込めて「違憲状態」に判断をとどめたともいわれる。

 それだけに一票の格差解消は焦眉の急だったが、立法府も行政府も司法を無視し続けた。それには、わけがある。一票の格差を解消するには2つの手段が考えられる。ひとつは人口の多い選挙区の定数を増やすこと。そして、もうひとつが人口の少ない選挙区の定数を減らすことだ。この2択しかない。

 しかし、消費税の増税議論の中で「国民に負担をお願いするからには身を切る改革を」という意見で、自民党も民主党は一致した。そのため、昨今は国会議員を減らす流れにあり、一票の格差を是正するため人口の多い選挙区の議員定数を増員することはまったく検討されていない。

 だが、日本は国会議員・地方議員を合計しても人口比では他国より議員が多いとは言えない。それにも関わらず、議員の定数を削減してしまえば、国民の声は政治家に届かなくなる。特に、議員定数が削減される地方の声が届かなくなることは深刻な事態だといえる。

 現在、四国四県の参議院の定数は各県で改選1、非改選1の計2人。四国全体では8人の参議院議員が存在する。つまり、参議院議員は一県に1人選出されている。

 検討されている議員定数削減の現在案では、参議院の場合は鳥取県と島根県、徳島県と高知県が合区されるという。鳥取県・島根県、徳島県と高知県でそれぞれの定数は2となる。

地方都市の意見は尊重されないのか

 選挙情勢によっては、改選・非改選ともに議員を選出しない県が出てくるだろう。参議院は都道府県の代表者という位置づけがある。自民党は合区案が採用されると、参議院議員を輩出できなくなる県も出てくることを危惧し、各県の意見が反映されなくなるとの理由から合区案には反対してきた。しかし、このほど自民党は合区案を受け入れることを表明。早ければ、来夏の参議院議員選挙から定数が変更されるという。ある地方紙記者はこう話す。

「10人も参議院議員がいる東京都とは違い、地方は一県に2人しか参議院議員がいません。その先生に『おらが町を活性化させてほしい』『なんとか過疎化を食い止めてほしい』という悲痛な思いを託す人たちは多い。しかし、地元選出の議員がいなくなったら、そんな魂の叫びは無視されるでしょう。過疎化に悩む地方都市は絶望に突き落とされます。一票の格差を是正することは大事なのでしょうが、それは“人口の少ない地域の意見は聞かなくてもいい”ということになる。定数削減は地方に住む人たちにとって、死活問題です」

 今後、日本の過密化・過疎化は進む。全国の地方都市でも、合区される可能性は十分にある。島根県・鳥取県、徳島県・高知県だけの話ではない。すでに、政府内では四国それぞれの県の選挙区を合区させて定数を6にすることも検討も始まっているようだ。

 地元選出の議員がいなくなれば、地元に公共事業を呼び込む代理人は存在しなくなる。地方の公共事業依存体質は改めるべきだが、過疎化著しい地方都市では公共事業しか仕事がないのも現実である。

 安倍政権は地方創生を旗印にし、自民党もそれを推進してきた。その自民党が定数是正の容認に転じたことは “地方創生”の終了宣言とも言えるのかもしれない。

(取材・文/小川裕夫)