ライブドア(LD)事件で、17日に東京地裁で開かれた元社長、堀江貴文被告(33)の第16回公判では、検察側証人として出廷した同社元代表取締役の熊谷史人被告(28)=分離公判中=が、一部で取り調べ段階の供述を翻す場面があった。

 熊谷被告が供述を翻したのは、架空売り上げ計上に対する堀江被告の2004年8月時点の認識。

 検察側の9月4日の冒頭陳述では04年8月下旬ごろ、同年9月期連結決算の経常利益予想値50億円について、宮内亮治被告(39)=分離公判中=が堀江被告に対して「今期の利益、全然足りないっすよ。目標達成すんの、絶対、無理っすよ」と報告。それでも、堀江被告は50億円の達成を強く求めたため、宮内被告はダミーファンド名義で買収済みであったがLDが公表した連結の範囲には含めていなかった出会い系サイト運営会社「キューズ・ネット」と消費者金融「ロイヤル信販」に対する架空売り上げ計上を提案した。

 堀江被告は「やるしかないだろう。やりきるしかないよね」などと言ってその場でこの提案を了承。宮内被告と同席していた熊谷被告に対し、キューズ・ネット、ロイヤル信販に対して14億円ないし15億円の架空売り上げを計上する方法で粉飾するよう指示したことになっている。

 しかし、熊谷被告は当時の認識について「キューズ・ネット(およびロイヤル信販)から発注をもらい、取引することだと思った」と述べ、実体のある取引だと認識していたことをこの日の公判で証言した。

 尋問に当たっていた市川宏検事が「調書では『8月の段階では期末まであと1カ月しかなく、堀江被告も架空取引になると思っていたと思う』となっているが」と尋ねると、熊谷被告は「(取り調べた)検事から『〜と思う』というのは(推測に当たるので)裁判上の証拠にならないと言われた。架空売り上げは認めるつもりだったので、ここ(8月時点の認識)で争っても仕方がないと、そういう供述になった」と語った。

 さらに熊谷被告は、04年8月当時の自身の認識について「自分は架空取引になるとは思っていなかった。堀江さんもそう思っていなかったのではないか」と、堀江被告の主張に沿う証言を行った。

堀江被告側「架空売り上げの認識ない」と主張

 堀江被告の弁護側は「公訴事実に対する意見書」の中で、検察側が架空売り上げだと指摘する約15億円について「そのうち約1億円は架空ではない」とし、残りの約14億円については「期中に売り上げの根拠となる作業がされていなかったものであるが、被告人(堀江被告)が架空売り上げを計上するよう指示したものではなく、(従って)被告人には架空売り上げの認識がない」と主張。

 弁護側の9月4日の冒頭陳述では「宮内に対し、キューズ・ネットおよびロイヤル信販に対する架空売り上げを立てるよう指示した事実はない」「2004年9月期の連結経常利益の予想値が約30億円から約50億円に上方修正されたことは事実であるが、被告人としては、それなりに収入源として想定している案件があり、達成可能な数字であると認識していた」としている。

熊谷被告、自身の公判でも「意に反して調書に署名した」と証言

 熊谷被告は自身の公判でも起訴事実について一部否認するなど、検察側の描く構図に沿って証言をした宮内ら3被告とは一線を画してきた。

 7月27日の自身の公判では、拘留中の取り調べの際に検察官に言われたとおりに供述することを拒否すると、「お前は堀江派か」「認めないなら堀江と同じで、一生保釈されないぞ」と迫られたと証言。「早く保釈されたいという気持ちが一番だった」と、一部自分の意に反して検察官に言われたとおりに供述証書に署名したことを明らかにしている。

 9月8日の公判では、「今でもLDが行っていたM&A戦略や株式分割は問題があると思っていない」と語ったが、一方で取締役相互の監視が甘かったことやコンプライアンス意識の欠如など、当時の問題点にも言及していた。【了】

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