Smappa! Group会長・手塚マキさん、スマイルズ代表取締役社長・遠山正道さん

シャンパンタワーに100万円――。

威勢のいい掛け声とともに、お酒とお金が飛び交う新宿・歌舞伎町のホストクラブ。女性たちが次々に、ホストの男性に100万円、200万円と高額のお金つぎ込んでいます。はたして、そこにはどんな「価値」があるのでしょうか。

3月15日(日)まで表参道・PASS THE BATON GALLERYにて、ホストの世界を垣間見ることができる『Beyond the border ―歌舞伎町 ホストクラブの世界―』展が開催中です。

そこで「PASS THE BATON」「Soup Stock Tokyo」などを運営するスマイルズ代表取締役社長、遠山正道さんと、今回のエキシビションに協力したホストクラブ大手「Smappa! Group」代表の手塚マキさんに、ホストクラブの魅力とその価値についてお話をうかがいました。

表参道に「ホストクラブ」を出現させたワケ

――ファッションの中心地・表参道で「ホストクラブの世界」を表現するのは、お二人にとっても、挑戦だったと思うのですが。

遠山正道(以下、遠山):生活や生き方、ライフスタイル、ファッションなど、自分やその周囲の世界だけで固まってしまうことが多いですよね。「PASS THE BATON」ではその垣根を越える一つとして、様々なカルチャーを紹介したいと思ってます。あるとき、たまたま「Chim↑Pom」のエリイさんに手塚さんを紹介していただいたんですね。僕にとって、「ホストクラブ」とは最も遠くにある興味深いもの。その世界のトップと知り合うことができたので、これはいい機会だと思いました。

「職業:ホスト」の誕生と、ホスト像の模索

――ホストクラブがファッションの世界とコラボレートするのは初めてでしょうか。

手塚マキ(以下、手塚):ホスト界全体でも、新宿以外で展覧会をするのは初めてです。今、ホスト界は過渡期なんですよ。これまでホストは閉鎖的で、歌舞伎町の中だけで成り立つものでした。ホストにとっても、人生のある一時期を通り過ぎるものだったんです。虎の穴みたいなところに修行に行って、そこで宝くじが当たればラッキー。そのお金を持ってどこかに行くという、男の修行の場のような世界だったんですね。

それが暴力団対策法の成立もあって、敷居が下がり一般化したんです。その中で、20代を通してホストとして働くような、職業として「ホスト」と名乗ることができる人間が増えてきた。でも、その「職業:ホスト」が一体どういうものなのか、我々も模索している段階です。その中で、こういう機会をいただけたことはとても光栄です。

オープニングイベントに駆け付けたSmappa! Groupの幹部ホストのみなさん。左から、天草銀さん、宮本武蔵さん、三上光さん、SHUNさん。

――手塚さんは、ホストのソムリエ資格取得を推奨したり、歌舞伎町でゴミ拾いのボランティアを行うなど、様々な取組みをされていますが、それは「新しいホスト像」を作ろうという試みですか?

手塚:ゴミ拾いは10年ぐらい前から、毎月続けています。その過程で意味も変わってきました。これまでは、歌舞伎町にやってくる人間たちが、どうやってホストを通り過ぎていくのだろうかということに責任を感じていたんです。今は、ここで働く人たちがこれからどうなっていくのか、「職業:ホスト」がどう成長していくのか、それを見守るのが僕の使命だと思っています。

ホストはただの「詐欺」なのか?

――世間からはまだ、「ホストは女をダマしてお金を取っている」という目で見られていることについてはどうでしょうか。

手塚
:実際、男と女なので、そういうことはあると思いますし、逆に、僕が見てる中では女の子にダマされる男もいます。ただ、ホスト自身が世間からそう思われていると、卑屈になってはダメだと思います。

遠山:現実的に、ビジネスをやっている人間からすると、一晩で100万円、200万円が飛んでいくなんてあり得ないわけですよ。ただ、そこには当然「価値」がないと続かない。「ダマす」ことが主ならば、すでに存在しないだろうし、あるいは「詐欺」だといわれているかもしれない。そうではなく綿々とやっているわけだから、そこに魅力と価値がある。それは何なのかと思いますね。

シャンパンタワー=100万円の価値とは?

手塚:ホストが女性をもてなして楽しんでいただくというのは、「ホスト文化」の中では裾野の部分です。もっとコアな部分に入っていくと、女性がホストを育てる、その男の将来にお金を賭けるというふうに目的が変わってくる。その象徴が「シャンパンタワー」なんだろうと思います。でも、僕自身もシャンパンタワーの価値については、説明できないんですよ。その価値はホストによって違うんですよね。彼らのこれまでの文脈と将来への期待に対して、お金が発生するんだと思うんです。

遠山:茶の湯の世界でも、茶碗一つがお城と同等の価値を持つことがある。価値観はその文化の中で様々だよね。それから、「ホストクラブ」は日本にしかないと言われているけど、それは日本の女性が縛られた慣習の中にいるという側面もあるんじゃないかな。ホストクラブで弾けようとする女性を、シャンパンタワーという装置が、うまく上げてあげるんでしょうね。

僕は、そろそろホスト界から「スター」が出てもいいんじゃないかと思うんですよ。「憧れの存在」が出現すると、「職業:ホスト」としての周囲の認知、ホスト自身にも長期ビジョンが生まれますよね。マキさん、スターになった方がいいですよ。

手塚:これまでは歌舞伎町内でのスターはいましたが、それを越えるスターがいればいいと思います。自分は「元ホスト」なので、「元ホスト」として堂々と生きて社会の一部になることが、ひとつの指標となるかなと思います。

オリンピック開催でホストクラブはどうなる?

――2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。それに向けて、東京の風俗産業が一掃されると噂されていますが。

手塚:今、新宿にも外国人観光客がかなり増えていますし、日本独特の文化だということで海外からの取材も増えているんです。海外からも注目していただいているホストクラブが日本の文化になるかどうか、2020年を越えて存在できるかも含め、今、僕ら経営者側やホスト自身が、裾野をどれだけしっかり広げられるかということだと思います。むしろ、人をダマしたり隠れてコソコソするようなものだったら、それは無くなるべきなんだと思います。

(穂島秋桜)