中国政府・外交部の秦剛報道官は２６日の記者会見で、ベトナムが２３日に記者会見を開き、パラセル諸島（西沙諸島、中国では西沙群島）が自国領である「歴史と法理の根拠」を説明したことに対して、「改めて、この国（ベトナム）が歴史を歪曲することが証明された」、「この国の国際的な信用度は低い」などと述べた。

　秦報道官は西沙諸島について、「中国人が最も早く発見し、最も早く命名し、最も早く開発し、最も早く管轄し主権を行使した」と主張。「紀元前２世紀、つまり漢の時代に中国人はすでに南シナ海を航行し、西沙諸島を発見した。その後、中国人は続々と西沙諸島に渡り、開発と経営を行った」などと述べた。

　秦報道官は唐、宋、元など各時代にわたる中国人と西沙諸島の関わりについても論じた。

　２０世紀に入ってからは、ベトナム外務省の責任者が１９５６年、西沙諸島は中国の一部だと中国側に対して明確に表明したと紹介。中華人民共和国は１９５８年に、西沙諸島は中国領と宣言。それから１０日後、ベトナムのファン・バン・ドン首相が中国の周恩来首相に、中国の領海についての決定を承認すると表明したという。

　秦報道官は、「長期にわたり、ベトナムの公式文書、教科書、地図には西沙諸島が中国領と明確に書かれていた」と述べた。

　さらに「１９７５年以降、ベトナムはそれまでの承諾にそむき、西沙諸島に対する主権を要求するようになった」、「先週金曜日（２３日）にベトナム外務省が記者会見を行って発表した、（歴史的にも法理の面でも自国領という）これらの言論は、改めて、この国（ベトナム）が歴史を歪曲することを証明した」、「事実を否定し、移り気で、信義にそむく。この国の国際的な信用度は低い」と、ベトナムを非難した。

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◆解説◆
　秦報道官の主張した近代以前の西沙諸島の状況については、やや強引な点や歴史学的に確定したとは言いづらい部分もある。

　西沙海域では、海底で中国製陶器などを大量に積んだ、沈没船も発見されている。中国当局は「西沙諸島が古来からわが領域だったことを示すよい証拠」として宣伝しているが、中国でも少数民族の人々からは「古代の中国文明が突出していたことは認める。ただし、古代の中国製品が見つかったからといって、そこが当時中国領だったと言えるか？」との声も聞こえてくる。

　少数民族の場合、自分の故郷について「昔は違ったのに、今は中国に組み込まれた」との気持ちがあるために、領有権を巡り周辺国家との対立がある場所について「昔から中国領」との言い方には抵抗を感じるという。「今から１万年後にアフリカから日本の家電製品が出土したら、それは『太古から日本領だった』ことの根拠になるのか？」といった言い方をする人もいる。

　秦報道官が取り上げた戦後の動きについても、やや微妙な点がある。第二次世界大戦中、ベトナムは日本が支配していたが、日本の降伏にともない旧宗主国のフランスが復活。しかし独立運動などが発生し第一次インドシナ戦争が勃発。１９５４年の休戦協定では、北部をベトナム民主共和国（北ベトナム）、南部をベトナム国（ベトナム共和国、南ベトナム）が統治することになった。

　北ベトナムは共産政権の国であり、ソ連や中国が承認し、強力に支援した。米国など西側諸国は南ベトナムを承認、支援した。

　中国は当時の「北ベトナム」から「西沙諸島は中国領」との言質を取っていた。しかし西沙諸島の現実は「東部の島を中国が、西部の島を南ベトナムが実効支配」だった。

　ベトナム戦争が発生・進行し、南ベトナムの敗色が濃厚になった１９７４年、中国は戦闘を仕掛け、南ベトナム勢力を西沙諸島全域から駆逐した。

　ベトナム戦争が集結し、北ベトナムが南北ベトナムの再統一とベトナム社会主義共和国の成立を宣言したのは１９７６年７月だ。分断国家時代に、その一方が外国と確認し合った領土についての認識がどの程度「国全体の意思」と認めることができるかには、微妙な面がある。ただし、当時の北ベトナム政府はそのまま「統一ベトナム政府」に移行しているという事情もある。（編集担当：如月隼人）