被災地から遠く離れた沖縄の国道整備事業に、「今後の災害への防災対策」として6000万円を充てた国土交通省。各省庁による予算争奪戦によって、廃止した事業や一般会計で行なうべきと思われる事業が、復興予算に紛れ込んでいる実態が明らかに

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2011年度から5年間で19兆円が投入される復興予算。しかし、震災から1年半を経た今、被災地のために用意されたはずの復興予算が、実は被災地とは直接関係の薄い“偽り”の復興事業に充てられていたことが次々と発覚している。

復興予算の使途を追及し続ける、衆議院・決算行政監視委員会の委員長(自民党)の新藤義孝氏が、その一例を解説する。まずは「鯨類捕獲調査安定化推進対策」だ。

「農林水産省が盛り込んだ約23億円のうち、18億円が調査捕鯨をする研究所への補助金、残りの5億円はおなじみの反捕鯨団体『シー・シェパード』の妨害活動に対する監視船のチャーター代です。被災地とクジラにいったいなんの関係があるのか?との問いに、農水省は『被災地の宮城県石巻市はクジラ肉加工が主要産業。調査捕鯨に出ないとクジラ肉を供給できない』と説明しています。しかし、クジラをさばくクジラ肉加工の基地が壊れたままで、打撃を受けた業者が立ち直れないでいるのが石巻市の現状なのです。調査捕鯨のみに補助金を出すことになんの意味があるのでしょうか?」

続いて、「月形刑務所(北海道)と川越少年刑務所(埼玉)の職業訓練経費」について。

「法務省が小型油圧ショベル購入費や、受刑者の受験手数料のための経費に3000万円を投じました。なぜか? 同省の回答は『技術を身につけ、出所した受刑者が更正して被災地で働くかもしれない』とのこと……」(新藤氏)

さらに、被災地から遠く離れている沖縄にも、「国道整備事業」として復興予算が使われている。

「国土交通省は沖縄の国道整備事業に6000万円を充てました。『今後の災害への防災対策として必要』(国交省)との理由です。どうして被災地から遠く離れた、しかも日本で最も地震の少ないといわれる沖縄にこれほどのお金が使われるのでしょう」(新藤氏)

被災自治体の復興計画にも携わった神戸大学名誉教授の塩崎賢明氏は、「海外との青少年交流事業」について指摘する。

「この事業は、事業仕分けで今年3月に終了した『21世紀東アジア青少年交流事業』と酷似しています。違いといえば、交流の対象をアメリカなどにも広げたこと、そして国内の訪問先として被災地での活動を2日間加えたことです。外務省は『風評被害など、日本に対するイメージを改善する目的』と説明しますが、私には“復興名目”で都合よく事業を復活させたとしか思えません」(塩崎氏)

復興予算19兆円のうち10.5兆円は増税によって賄われていることを忘れてはいけない。増税までしてつくった復興予算は、被災地のために使われることが前提だったのでは?

各省庁にとって、こうした予算執行の根拠となっているのが、昨年7月に国が示した復興基本方針と、その前月に制定された復興基本法だ。そこには、こんな文言がある。「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を」「活力ある日本の再生のために」と。聞こえはいいが、そこに「復興予算バラまきの元凶がある」と、前出の塩崎氏は指摘する。

「復興方針に“活力ある日本の再生”という文言がついたことで予算化の扉が全国に開かれ、被災地以外にも復興予算を流用することが可能になってしまいました」

こうして、霞が関に突如出現した19兆円入りの巨大な財布に、各省庁の役人がワッと群がる構図が出来上がったわけだ。これでは、復興の名の下に行なわれる予算の流用と言われても仕方がないだろう。

(取材・文/興山英雄、頓所直人 撮影/岡倉禎志)

■週刊プレイボーイ45号「復興予算“被災地無視のバラまき”はなぜ起きた?」より