これに危機感を募らせたのが東証である。東電など3社の疑惑が燻り出すと、増資発表後の空売り規制に着手した。繰り返すが米国は増資発表前からの規制である。その点、対応は後手に回っているが、それでも一歩前進だった。前出の金融市場関係者が語る。
　「東証、金融庁とタッグを組んだ監視委は、インサイダー情報が証券会社から流出した以上、断じて見逃せないとして大掛かりなインサイダー疑惑が囁かれた東電の増資に着目。主幹事を務めた野村を炙り出す作戦を立てたまでは良かったのですが、ゴーサインを出す直前に東日本大震災が発生し、東電は原発事故で火ダルマになった。仕切り直しを迫られたのが実情です」

　その脈絡で捉えると、金融庁が空売り規制を来年4月末まで延長し、監視委のメス入れにエールを送ろうとした事情が透けてくる。即ち、遠からず東電や国際石油開発帝石などの増資に絡むインサイダー事件が炸裂、それが主幹事を務めた野村HDを直撃する図式なのだ。
　したがって、ここへ来て急浮上したメガバンク3行による野村争奪戦は、情報の発信源が金融庁と目されていることからも、決して荒唐無稽な話ではない。
　「業績が悪化したとはいえ、本来であれば野村が簡単に野垂れ死にするわけがありません。それにもかかわらず、“買収のターゲット”というキワドイ情報が飛び交っていること自体、監視委の調査が風雲急を告げてきたことを意味する。当然、その手の話は野村マンの耳にも届いており、対外的には平静を装っていますが、浮き足立っている社員は少なくありません」(地場証券役員)

　なるほど、「野村首脳が三菱UFJに急接近」などのアングラ情報に、関係者が一喜一憂するわけである。前出の関係者が喝破する。
　「監視委の摘発ターゲットは話題性からいっても東電でしょう。その余勢を買って、どこまで手を広げられるか。しかし、濡れ手に粟だったヘッジファンドはさっさと海外に逃げ去ってしまった。米国のSECやFBIなどと、どう連携できるか、やっと重い腰を上げた金融庁の力量が問われそうです」

　金融庁と監視委、東証が見事にタッグを組んだ市場の“ドブさらい”が、いよいよ本番を迎える。しかし、野村を血祭りにした後の業界地図をどう描くのか。その落とし所はまだ見えてこない。