「日米通算」は失礼である|野球報道

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サンケイスポーツなどは、裏一面を使って「松井秀喜488二塁打」を報じていた。「立浪を抜いた」とも書いていた。

日米のプロ野球は、記録に関してなんの取り決めもしていない。NPBはMLBの記録も通算記録に算入するとは一度も言っていない。

マスコミが勝手に、NPBとMLBの記録を足してあたかも公式記録のように騒ぎ立てているのである。ネタが欲しいのかもしれないが、捏造である。

これは、名球会という組織が、MLBに挑戦している人気選手を仲間に取り込みたいがために、通算安打、通算勝利数にMLBの記録を加算し出したことがきっかけだと思うが、名球会はあくまで私的な機関である。それにマスコミが追随するのは、軽率としか言いようがない。

「日米通算」という考え方は、いろいろな意味で「失礼」だと思う。

まず、当然ながら、MLBに対して失礼である。例えば日本よりも遥かに歴史の浅い韓国のプロ野球が、自国の記録と日本の記録を加算して論じはじめたら、日本人はどう思うだろうか。MLBは、日本がプロ野球を創始した1936(昭和11)年に、すでに70年近い歴史を重ねていた。また、実力的にもついこないだまで、日米には歴然たる差があった。これを一緒くたにする事を良しとするアメリカ人は少ないと思う。

次に、NPBに対して失礼である。松井秀喜はMLB入団後162試合というNPBではただの一度も導入されたことのない多くの試合に出場して二塁打を打ってきた(最初の3年間は全試合出場して121本も二塁打を打った)。もちろん、松井がMLBに通用したこと自体は素晴らしいが、だからといって日本よりも遥かに多い試合数で記録した数字を加算することは、立浪和義や、日本で頑張っている選手に対して失礼だと思う。

そして、何より読者、一般ファンに対して失礼だ。「弊社は今後、プロ野球の記録を日米通算で算定することとしました」という断りを入れた新聞社が、一社でもあるだろうか。また今、(参考記録)という但し書きをしている会社があるだろうか。NPBもMLBも公認していない、ただの数字のお遊びを、あたかも大記録のように書き立てる。こちらを向いてもらいたいから、部数を増やしたいから、という理由でから騒ぎをする。最近はスポーツ紙の親会社である一般紙までこれを報道するようになったが、良識を疑う。

イチローの先頭打者本塁打記録が日米通算で福本豊を抜いたと報じられた時は、福本もイチローもまともに取り合わなかった。それが、当の選手たちの反応だ。アメリカでは、イチローや松井秀喜は、日本のマスコミが日米通算を報じる度に、肩身の狭い思いをしているようである。最近はMLBの球場でも日米通算記録のアナウンスがあるようだが、アメリカのファンは概ね寛容である。これは日本人選手、NPBが、彼らにとって取るに足らない存在だと言う証明でもある。しかし、近い将来、イチローが日米通算でタイ・カッブやピート・ローズの通算安打に迫ったときに、そしてそれを日本のマスコミが、騒ぎ立てたときに、アメリカのマスコミ、ファンはどのような反応をするだろうか。

「記録ったって、所詮あそびじゃないですか」という向きもあるかも知れない。しかし、鉄道模型ファンが、小さな部品一つでさえもおろそかにしない様に、切手収集家がルーペでないと判らないような印刷ミス一つも見逃さないように、「遊び」だからこそ、厳密さ、公平さが必要なのだと思う。大記録を粗製濫造するマスコミは、「仕事」あるいは「お仕事」で記録を扱うのをやめていただきたい。