「放射能検知ポケベル」を持つ警官たち

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Randy Dotinga

{この記事は、2004年5月に掲載された記事を再編集したものです}


放射性廃棄物の入ったドラム缶。画像はWikimedia

米国では、同時多発テロ以降、税関や国境警備にあたる数多くの職員に加え、警官、消防隊員など「緊急の対応者」たちの多くが、ベルトにポケベルを付けている。これは、携帯電話が普及する前の時代の遺物ではない。

このポケベルは、危険な放射性物質を感知し、警報音またはバイブレーションで知らせる仕組みになっているのだ。

狙いどおりに機能すれば、人目に触れないよう隠された放射能爆弾、いわゆる「ダーティーボム」[いわゆる核爆弾とは異なり、通常の爆弾の内部または周囲に放射性物質を詰めたもので、爆発によって放射性物質を飛散させる爆弾のこと。リンク先は日本語版記事]を感知する。

「危険なレベルのガンマ線を検知すれば、とにかくその場を立ち去るようにと警報が鳴る」とサンディエゴ郡爆弾処理班の責任者コンラッド・グレイソン巡査部長は説明する。理想的にいけば、ポケベルの警報で、警官や消防隊がテロ専門家に連絡し、地域住民を避難させることになる。

この放射能探知ポケベルは完璧なわけではない。すべての種類のダーティーボムに対して効果があるかどうかは完全には検証されていないし、後述するように、必要のないときに警報が鳴ったりもする。また、価格は1台1500〜2500ドルと高価だ。実際にダーティーボムによる攻撃が行なわれるかどうか不確かな中で、その脅威に備えるにしてはかなりの値段だ。

それでも関税局は、管轄下の係官全員にこのポケベルを支給した。また、連邦政府は2002年ニューオリンズで開催されたスーパーボウルの会場でこのポケベルを使用したと伝えられている。2005年1月には、元旦に大きなイベントを行なう都市の警察当局に、政府が1000個のポケベルを配布したと、米ABC放送が報道している。『ローズボウル』や『シュガーボウル』のアメリカンフットボール会場を警備する警官にも、ポケベルが配られた。アルカイダによるダーティーボム攻撃の危険性に備えた措置だった。[2002年、アルカイダのメンバーであるホセ・パディージャ(後にアブドラ・アル・ムジャヒルに改名)が、ダーティボムの製造および使用を企てていたとして米国政府に拘束された事件があった]

一方、地方の警察や消防隊も、放射能探知ポケベルを購入希望物品に挙げている。「予算を通して、全員がこのポケベルを持てるようにした。私が持つのなら、全員にも必要だ。部下全員の安全を確保したいと思っている」とグレイソン巡査部長は語る。

放射能探知ポケベルは1990年代後半に出回りはじめた。同時多発テロ以前には、使用者たちは、グレイソン巡査部長のような爆弾処理班の人員にほぼ限られていた。

このポケベルには近隣の放射線レベルを推計する性能があるが、これが導入される以前は、「放射線物質を感知する実用的な方法はガイガーカウンター以外にはなかったし、そんなものを持っている人間はいなかった」と話すのは、バージニア州に拠点を置く米エグゼクティブ・プロテクション・システムズ社のテロ専門コンサルタント、マーク・ミラー氏だ。「あったとしても、倉庫にしまいこまれて、何年も調整さえされていない有様だった」

そこに同時多発テロが起きた。これをきっかけに、テロ専門家の間で、実体は不明なものの長い間懸念されてきた「放射性物質拡散爆弾」に、ダーティーボムという、わかりやすい呼び名がつけられた。

ダーティーボムは爆発の際に放射性物質を飛散させる爆弾だ。「ダーティーボムによる被害は広範囲を汚染する」とミラー氏は説明する。「すぐに多数の死傷者が出るわけではない。爆発によって放射性物質が飛散し、その際に死傷者も発生するが、問題は、この爆弾が広い範囲を汚染し、いったん汚染されると除去が難しい点だ」
 
汚染された地帯は、長い間、居住できなくなる可能性がある。また、爆発時に放射能を含む爆風にさらされた人々は、ガン等を発症する可能性がある。

実際に使っている人たちによると、問題は、感知精度が高すぎる場合があるということだ。

グレイソン巡査部長は、ある日、オフィスにいるときにポケベルの大きな警報音が響いてびっくりしたことがある。それは結局、オフィスに訪ねてきていた同僚の息子が、放射線療法を受けた直後だったせいだと判明した。「病院や空港、それにちょっと明らかにできない場所でも音が鳴り出す」とグレイソン巡査部長は言う。

この他にも、妙なところで鳴り出したしたという話はたくさんある。『サンディエゴ・ユニオン・トリビューン』紙は、ニューヨークのウェストチェスター郡で、オハイオ州から運ばれてきた2トンのゴミが届いたとたんに放射線感知器が作動したと報じている。原因は、甲状腺の病気で放射線療法を受けていた猫が使っていたトイレ用砂だった。

[甲状腺機能亢進症等の治療のために、放射性ヨウ素を投与する場合がある。数週間はいくばくかの放射性ヨウ素が体内に留まるために、他の人から距離をとり、接触の時間を制限するなどの注意事項が指示されている。なお、治療に用いられるヨウ素-131のは111〜222MBq(1.1-2.2億ベクレル)]

(2)へ続く
 

WIRED NEWS 原文(English)

  • セシウム137と「ダーティボム」2011年4月13日