ふたつの思いが沸き立つ勝利だった。11月23日に行なわれた、アジア大会準決勝のイラン戦である。

良く勝ったな、というのが率直な感想だ。イランは23歳以下にオーバーエイジを加えた編成で、フル代表経験者も多い。しかも、開始５分に差しかかってすぐ（公式記録は６分）に失点を喫するという幕開けだった。

ここで精神的に落ち込まなかったところに、この試合の勝因があった。チームを支えたのは反骨心だと思う。

Ｊ１、Ｊ２が佳境を迎えていることもあり、今大会の日本はベストとは言えないメンバー構成となっている。国内での合宿も間に合わせのような日程しか用意されず、練習試合の相手にも事欠いた。関西ではガンバが、関東では湘南が練習相手として手を差し伸べたのは、両チームの監督がかつてこの年代の代表監督を務めていたからに他ならない(水戸との練習試合も行なわれた)。西野、反町両監督は協力的な姿勢を示したわけだが、国内全体ではアジア大会での上位進出を期待するムードは希薄と言っていいものだった。そうした雰囲気は、選手たちも敏感に察知するものである。

上位進出を果たせずに帰国となれば、大会前以上に冷めきった空気へ身を投じることになる。失格の烙印を押されてしまう。やっぱり勝てなかったか、という視線を浴びることになる。

さらに加えて、中国での日本はいつでも、どこでも悪役である。ブーイングをされることはあっても、拍手を浴びることは極端に少ない。

こうした状況下に置かれて、選手たちは反骨心を膨らませていったと思う。イランとの準決勝にしても、開始直後の失点で崩れてしまったら、「大会初失点で精神的に崩れた」という決まりきった分析で、試合のすべてを片付けられていただろう。

ふいに思い出したのは、アトランタ五輪代表の黎明期である。チーム結成当初はマスコミにほとんど注目されず、ようやく取材陣が集まってきたアジア1次予選の前には、「得点力不足」と叩かれる。これが選手たちの闘志に火をつけた。彼らが史上最強と呼ばれるのは、1次予選を圧倒的な強さで突破してからのことである。

関塚隆監督に率いられたU−21日本代表も、「結果を残すことで自らの存在価値を証明してやろう」という反骨心が、強いモチベーションになっていると感じる。「良く勝ったな」と思うと同時に、「このチームだから、ここまで辿り着けた」という必然性を見つけることもできるのだ。二つの思いに駆られたのはそのためである。

イラン戦で水沼があげた同点弾は、当たり損ねのようなシュートだった。だが、直後のガッツポーズに彼の執念が感じられた。93年10月のドーハでカズが韓国からあげたゴールのように、不格好でも気持ちで押し込んだには観る者の心を打つ力強さがある。水沼の得点は、まさにそんな一撃だった。

ゲーム内容に触れれば、日本サッカーが目ざす方向性には必ずしも一致していない。ボール支配率で41対59と大幅に劣り、プレイングタイムもイランの26分に対して18分である。内容的には明らかに押し込まれていた。守備重視でベスト16へ辿り着いた、南アフリカ・ワールドカップに似た戦いぶりである。

ただ、コンセプトに妄執することなく、結果を最優先としたのは間違っていない。イランとの力関係を客観的に判断すれば、相手の良さを消すことに力点を置くのは妥当である。それもまた、こうしたトーナメントを勝ち抜くうえで大切な応用力だ。

終盤にＤＦを投入して5バック気味にした関塚監督の采配も、その意味で評価されるべきだろう。コンセプトやスタイルを貫いて負けるよりも、勝利することで自信を深めたほうがいい。このチーム、このメンバーの将来には、そちらのほうが価値はある。

黄金世代と呼ばれた79年組は、ワールドユースで過去最高の準優勝を成し遂げたことで、成長のスピードを一気に速めた。すでに02年大会に並ぶ過去最高の成績は確定したものの、歴史を塗り替えることでこれまでの戦いぶりをさらに価値あるものとしたい。ＵＡＥと相対する25日の決勝戦は、イラン戦同様に応用力が問われると同時に、国際舞台を戦い抜くための人間的な強さを証明する一戦となる。

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