京急電鉄の「新時代」を築いた2000形電車が、ついに引退します。京急線のスピードアップに貢献しただけでなく、「伝統」を初めて打ち破った車両としても知られます。引退を記念した最後の特別運転では、デビュー当時の塗装を復刻した車両が使われました。

最後の特別運転はオリジナル塗装車

 京急電鉄の「新時代」を築いた2000形電車が、まもなく引退の日を迎えます。2018年3月25日(日)、特別貸切列車「ありがとう2000形」の運転イベントが引退に先立ち行われました。


2000形のオリジナル塗装車を使用した特別貸切列車「ありがとう2000形」(2018年3月25日、草町義和撮影)。

 このイベントでは、デビュー当時の塗装を復刻した2011編成(8両)を使用。3月11日(日)に発売された記念切符の購入者のなかから選ばれた約100人が乗り込み、品川駅(東京都港区)から京急久里浜駅(神奈川県横須賀市)まで運転されました。

 また、途中で京急ファインテック久里浜工場に立ち寄り、車両の撮影会を開催。多くの参加者が2011編成にカメラを向け、熱心にシャッターを切っていました。このほか、アナウンサーの久野知美さんやお笑いタレント「ダーリンハニー」の吉川正洋さん、「ななめ45°」の岡安章介さんら鉄道タレントによるトークショーなども行われました。

 イベントに参加した横浜在住の40代男性は「2000形で通勤していましたが、窓が広くて快適。この車両が来るとラッキーな気分になりました」といいます。将来は京急に就職したいという中学生の鈴木凜太朗くん(15)は「落ち着いた雰囲気がすき。もっと走って欲しかった」と話し、2000形の引退を惜しんでいました。

 2000形は1982(昭和57)年にデビューし、1987(昭和62)年までに72両が製造されました。長い距離を走る快速特急(現在の快特)用の車両で、ドアを片側に2か所だけ設置。ほぼすべての座席をクロスシートとしたのも大きな特徴でした。

 営業運転の最高速度は、京急の車両としては初の120km/h。設計上は130km/hの運転にも対応しています。実際に1995(平成7)年から120km/hでの運転を開始し、それまで最高速度が105km/hだった京急線のスピードアップに貢献しました。


品川駅に入線した特別貸切列車「ありがとう2000形」。

通過駅でも「ありがとう2000形」を撮影する人の姿が見られた。

京急ファインテック久里浜工場では車両の撮影会なども行われた。

 しかし、1998(平成10)年に後継の2100形電車が登場したため、「通勤仕様」の車両に改造。ドアを増やして片側3か所にし、座席も一部を除いてロングシートに変わりました。車体の塗装もデビュー時は赤をベースに太い白帯が窓ごと覆うデザインでしたが、改造にあわせて細い白帯を窓下に入れたデザインに変更されています。

京急の「伝統」から抜け出した初の車両

 こうして大きく姿を変えた2000形ですが、老朽化のため2012(平成24)年から廃車が始まりました。2018年3月には2011編成と2061編成のふたつだけになり、まず2061編成が引退。最後に残った2011編成も、イベントが開催された3月25日(日)から数日以内に引退の予定です。


改造後の2000形の姿(2014年7月、草町義和撮影)。

 ちなみに、2000形は京急の「伝統」から脱却した電車としても知られています。

 かつての電車のドアは、ひとつの引き戸が片側に開く「片開き」が一般的でした。1970年代のころには、ラッシュ時の乗り降りにかかる時間を短くするためドアの幅を広げ、ふたつの引き戸が両側に開く「両開き」が普及。ところが、京急はそうしたなかでも片開きの電車を導入し続けました。両開きを初めて採用したのが2000形だったのです。

 片開きを採用し続けたのは、1973(昭和48)年から1979(昭和54)年まで京急の副社長を務めた、故・日野原 保の方針だったといいます。日野原副社長は「乗降時間を短縮するならドアを大きくするより数を増やした方がいい」と考え、1960〜1970年代にデビューした700形電車や800形電車は従来の車両と同じ片開きのドアを採用しつつ、ドアを従来よりひとつ増やして片側4か所にしました。

 先頭車のヘッドライトにも「伝統」がありました。ほかの鉄道会社はライトをひとつだけ設置した「1灯式」から、ふたつに増やした「2灯式」への移行が進んでいましたが、京急は「1灯式」のまま。これも日野原副社長の方針とされています。2000形は運転台の窓下にヘッドライトをふたつ設置し、ドアと同様に「伝統」からの脱却が図られました。


2000形は京急の車両としては初めて両開きドアと2灯式ヘッドライトを採用した。

2000形は京急の車両としては初めて両開きドアと2灯式ヘッドライトを採用した。

片開きドアと1灯式ヘッドライトを最後に採用した800形はしばらく残る。

 なお、「伝統」を初めて打ち破った2000形は引退しますが、「伝統」を最後に採用した1978(昭和53)年デビューの800形は、いましばらく残る見込みです。また、京急の関係者によると、2011編成は保存の方向で検討しているとのことです。