アフリカで大成功!"新興国のアマゾン"へ

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新興国を中心に中古車を売って年商500億円を稼ぐ男がいる。主な売り先はアフリカだ。HPは月間のべ6000万人が閲覧し、人気の高さに驚いたグーグル本社から副社長が視察に来たという。商材を車以外にも拡大し、「新興国のアマゾン」を目指すと豪語する。

■グーグル副社長が調布の本社を視察に

【田原】ビィ・フォアードはインターネットで世界中に中古車を輸出販売している会社です。日本ではまだあまり認知されてませんが、アフリカでは有名だそうですね。

【山川】ありがたいことにアフリカでは多くの方に知っていただいています。顔もよく知られているので、防犯上、気楽に外を歩けなくなりました。東京ならそんなことないのですが(笑)。

【田原】なんでも、グーグル本社の役員会議で話題になって、副社長が視察に来たとか。グーグルは何に興味を持ったのですか?

【山川】サイトへのアクセス数です。当時月間6000万ページビューあって、その多くは先進国ではなく、アフリカをはじめ西アジアやカリブ諸国など一般的にトラフィックが多い地域ではなかった。それで「なんだ、この会社は?」と不思議に思ったようです。

【田原】僕も知りたい。どうしてアフリカの人がわざわざビィ・フォアードのサイトから中古車を買うんですか。ガンガン広告しているとか?

【山川】いわゆるマス媒体に広告は打っていません。買ってくれたお客さんにビィ・フォアードのTシャツやキャップを配ったり、車のうしろにステッカーを貼り付けるなどのベタなことをやっているだけ。でもそれでお客様がビィ・フォアードをSNSで拡散してくれるようになった。気が付いたら、「友達があなたのところから車を買った」と言って注文してくれる人が増えていました。

【田原】アフリカの人は普通にSNSを使っているんですね。

【山川】向こうで利用されているのは「WhatsApp」というアプリです。固定電話は普及していませんが、携帯のアンテナなら安く立てられます。だからスマホはかなり普及していて、若い人だけでなくおじいさん、おばあさんも持っている。うちのサイトにアクセスしてくるのもほとんどスマホからです。

【田原】そもそもアフリカで日本の中古車が売れるんですか。

【山川】人気です。日本は道路がきれいだから、車が傷みません。しかも、新車志向が強くてすぐ買い替えるから走行距離が短い。日本の乗用車は普通にメンテナンスすれば40 万〜50万キロ走りますが、中古車市場に出てくるのはせいぜい10万キロです。それでいて、価格は世界一安い。これも新車志向が強くて供給量が多いからです。質が高くて安いので、輸送コストをかけても売れるんです。

■お客様の入り口にお金と手間をかける

【田原】そんなに売れるならほかの業者もやるでしょう? どうして山川さんの会社だけ繁盛したのですか。

【山川】真面目にやってきたからだと思います。じつは悪質な業者もいて、先にお金を送ってもらったのに商品を発送しないところがけっこうあります。すると、なぜかビィ・フォアードに「助けてくれ」と電話がかかってくる。一応、その業者に電話をかけるくらいのことはしてあげますが、たいていはすでに逃げたあと。で、「連絡つかなかったよ。なんでうちから買わなかったんだ」と(笑)。

【田原】真面目に商売していればどこでもビィ・フォアードになれますか。

【山川】どうでしょう。私たちの強みはシステム投資です。まず入り口で、お客様が見るページにはお金と手間をかけています。競合他社は車1台につき写真2枚で、しかも値段は会員登録しないと見られません。一方、私たちは最初からすべて閲覧できて、写真は35枚。国はタンザニア、港はダル・エス・サラームと選択すると、輸送費も含めた値段までわかる。ここまでやっているからご利用いただけるのかと。

【田原】ほかは、どうして値段を公開しないのですか。やればいいのに。

【山川】それまでの中古車ビジネスはBtoB。日本で仕入れて現地の販売業者に売るモデルでした。でも、私たちはBtoCで、サイトを使い安くするのはあたりまえ。BtoBから出発していると、そのあたりの発想ができないのかもしれません。

【田原】BtoCということは、お客さんに車を直接届ける?

【山川】内陸国の場合は、民間業者に頼まずにパートナーと組んで自分たちで運んでいます。車は自走で運ぶので、現地で3600人ほど雇用しています。たくさんのドライバーを雇っているので、タンザニアの副大統領から「雇用を生んでくれてありがとう」と言われました。

【田原】なるほど。それだけ雇っていれば、アフリカで有名になりますね。

■喋りが下手だけど一番売りたかった

【田原】山川さんがいまのお仕事をするまでの話を聞かせてください。学生時代からたくさんアルバイトをしていたそうですね。

【山川】留学するとか何か具体的な目標があったわけではなくて、遊ぶお金が欲しかったんです。地方から出てきて、東京の友達に早く追いつきたいというか……。

【田原】大学を卒業後は日産自動車系の販売会社に入って新人賞を獲得した。営業は得意だったの?

【山川】いやいや。もうおわかりだと思いますが、私、喋ることがものすごく下手なんです。だからほかの人と違うやり方で、どうすれば一番になれるのかということをずっと考えていました。

【田原】山川さんはどうやってナンバーワンになったの?

【山川】お客様が何か一言返してくれるように話を振ることは意識していました。たとえば「車検いつですか」と聞くと警戒されて何も情報をくれませんが、「車検、来月でしたよね?」と言うと「何言ってんだ、違うよ。次の車検は秋だ」と教えてくれます。

【田原】それでトップになれる?

【山川】もちろん一言もらえただけでは商談になりません。でも、ドアを開けてくれた方のところには繰り返し通っていました。お客様は「またかよ」と冷たい反応ですが、そのうちそれが快感になってくるんです。

【田原】嫌がられているのに?

【山川】飛び込み営業は、誰だってやりたがらないわけですよ。もちろん自分も嫌です。でも、みんなが避けていることをやり続けていくと、その先に何かあるんじゃないかと思うようになりまして。だから冷たくされるほど、ワクワクしていたところがありました。

【田原】じゃこの時期はたくさん稼げていましたか。

【山川】はい。ただ、借金も多かったです。学生のころから自動車レースが好きでお金を注ぎ込んでいました。借金は当時で800万円あったかな。新車販売の仕事はクレジットカード会社と仲良くなるので、彼らが貸してくれちゃうんですよ。いや、人のせいにしちゃいけないか(笑)。

【田原】それでどうしました?

【山川】このまま働いていても完済できるのは40代半ば。それは嫌だと思って、佐川急便の下請けの会社に転職しました。その次は宝石業。ここは軍隊みたいな会社で、トイレに行くのにも上長の机まで行って「トイレに行ってまいります」と大声で言わなきゃならない。息が詰まって、ここは半年で辞めてしまいました。そして次が、中古車販売のカーワイズ。ここで初めて中古車ビジネスと出合いました。

【田原】中古車ビシネス、やってみてどうでした?

【山川】カーワイズは中古車の買い取り事業でしたが、最高に楽しかったです。それまでの仕事は、新車販売でも宝石にしろ、こちらから仕掛けていかないと売れなかったし、しかも嫌がられました。でも、買い取りは逆。お客様が必要としてくれます。

【田原】ここは1年半で辞めて独立します。経緯を教えてください。

【山川】私が師匠と呼ぶカーワイズの代表が独立を勧めてくれました。中古車買い取り業界では、力をつけた従業員がお客様ごと持って独立するケースが少なくありません。お客を持っていかれるのは師匠も困るので、先手を打って「独立資金4000万円出すから、もう出ていけ」と。

【田原】なるほど。つまりのれん分けで独立したわけか。

【山川】はい。社名もワイズ山川で、最初はカーワイズ時代と同じ買い取り事業をやっていました。

■中古車の6割をパキスタン人が買う

【田原】そこで聞きたい。買い取りから輸出事業に、なぜ転換したの?

【山川】買い取り事業では、買い取った中古車をオークションに出して業者に売ります。じつはオークション会場は外国人だらけで、なかでもパキスタンの人が6割を占めるくらいに多かった。彼らは相場より高く中古車を競り落として、海外にいる同胞の中古車販売業者に輸出をしていました。相場より高く買ってくれるから助かるのですが、高く買っても利益が出るのだから中古車輸出はおいしいビジネスです。それをパキスタンの方たちに持っていかれて、悔しい気持ちがありました。

【田原】日本人は少ないんですね。

【山川】昔は中古車輸出にダーティーなイメージがあったからでしょうね。外国人の業者はフレームの中に麻薬を入れているとか、盗難車を輸出しているという噂もありました。実際に私たちが市場に入ってみると、違法なことは行われていなくて、まったくクリーンなビジネスでした。

【田原】最初はどこに輸出した?

【山川】ミャンマーですね。もっとも、これは騙されて2500万円損しましたが……。

【田原】どういうこと?

【山川】ミャンマーは市場が開放されていなかったので、隣国のタイに住むミャンマー人をパートナーにして輸出をはじめました。先に車を送って、売れたら代金を日本に送ってもらう約束でしたが、代金が支払われたのは最初だけ。最近売れないなと思って連絡してみたら、相手は雲隠れしたあとでした。なんとか探し出して裁判したものの、こちら側のタイ人の弁護士が買収されて負けてしまいました。

【田原】それは大変でしたね。

【山川】じつは次のニュージーランドでも痛い目に遭いました。今度のパートナーは現地在住の日本人。彼は現地の業者になめられていて、請われるままに車を勝手に貸していた。現地ディーラーは店頭に多くの商品を並べたくて「貸せ」というのですが、このやり方はリスクが高い。案の定、ディーラーが一社潰れて車を回収できなくなり、2億5000万円の損害が出ました。彼に騙すつもりはなかったと思いますが、こちらへの支払いが滞ったときにウソを重ねて事実を隠したせいで損害が広がった。裏切られた思いです。

【田原】そんなに騙されて、輸出をよく諦めなかったですね。

【山川】その先に絶対何かあると確信していましたから。ただ、次はやり方を変えて、先にお金をもらってから輸出することにしました。商品も、自分の得意なスポーツカーに限定。競合のパキスタン人はスポーツカーを苦手としているので、これなら勝てるだろうと。輸出先はカナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド。これがうまくいって、中古車輸出が軌道に乗りました。

【田原】このときはまだアフリカはやっていなかったんだ。

【山川】はい。アフリカのきっかけは、中古車輸出のポータルサイトに載せていた車にジンバブエから注文がきたことでした。最初に売れたのは日産テラノで、約40万円。そのほかに、日本で逆にお金をもらって引き取っていた解体車もアフリカから注文が入りました。解体車は3万円もらって引き取って7万円で売れた。粗利は10万円です。こんなものが売れるのかとたくさん載せるようにしたら、ほかの国からも注文が入って月100台単位で売れるようになりました。

【田原】大きく飛躍したきっかけが東日本大震災だったそうですね。どういうことですか?

【山川】震災のとき、多くの外国人が放射能を恐れて帰国しました。じつはパキスタン人もそうで、オークション会場から突然姿を消してしまった。競う相手がいなくなったので安く大量に仕入れることができるようになりました。

【田原】いまアフリカで何カ国ぐらいですか?

【山川】アフリカ55カ国中43カ国に輸出しています。

■中古車の次はスマホ・時計・オムツ

【田原】アフリカはまだ伸びますか。

【山川】アフリカは中国経済の影響が強いので、チャイナショックのあとは私たちの売り上げも少し下がりました。でも、今期はまた伸びています。

【田原】そこを聞きたかった。中国はアフリカにたくさん投資してプレゼンスを高めています。中国企業や中国車は競合にならないんですか?

【山川】政府はともかく、アフリカの民間の人たちは積極的に中国と取引しようとしてないですね。中国はODAで金を出すけど、一緒に大量の中国人がやってきて、プロジェクト後も残ってその中でビジネスを回しちゃうから、正直、あまり好かれてない。

【田原】そうですか。アフリカ以外の国はどうでしょう?

【山川】いま世界だと127カ国ですね。先進国も多くて、たとえばアメリカだとパーツがよく売れます。新興国だと、いまはカリブがものすごい勢いで伸びています。ぜんぶで、月1万1000台ほど売っています。

【田原】いろんな国があるけど、基本的に英語で対応ですか。

【山川】できるだけローカルの人を雇ってローカルの言葉で対応しています。たとえば西アジアはロシア語でなければ難しい。ロシア語を話せる外国人を雇ったらうまくいったので、次はモンゴル市場開拓でモンゴル語、アフリカのモザンビークでポルトガル語、ラテンアメリカでスペイン語、西アフリカでフランス語とやっていたら、いまはプロパー社員170人中約40人を外国人が占めるまでになりました。

【田原】次に狙っている地域はどこですか。

【山川】地域は世界中ほぼカバーしているので、積極的に広げる予定はありません。いま強化しているのは、地域よりも商材。これまでは中古車やバイクとそのパーツだけでしたが、最近は携帯電話やスマホ、タブレットを売っています。その他、時計とかミシンも輸出し始めています。

【田原】車以外も売れるんだ。

【山川】コンゴではカシオのGショックがよく売れます。現地にも専門店はありますが、ニセモノが多いので、「ビィ・フォアードなら本物だろう」とわざわざ注文してくれるわけです。スマホも同じです。さっきアフリカで中国製品が好かれていないと言いましたが、ファーウェイのスマホは安いからよく売れます。ただ、それもうちに注文が入る。私たちはアマゾンで買って輸出しています。

【田原】へえ、アフリカの方はアマゾンで直接買わないんですか?

【山川】たとえばヨーロッパのアマゾンで注文すると、日本より距離は近いのに輸送費は逆に高くつく。だから私たちのサイトで買ってくれます。

【田原】どうして日本のほうが遠いのに輸送費が安くなるんですか。

【山川】私たちは車をコンテナで運びますが、コンテナは隙間があるのでほかにも荷物を詰められます。だから輸送費はタダのようなものです。いまモンゴルではオムツがよく売れています。オムツはかさばるので、オムツだけを運ぶと輸送費がかさんでしまいますが、コンテナの隙間に詰めて運べばコストがかからない。いまモンゴル行きのコンテナをあけるとオムツだらけです(笑)。

【田原】よく考えましたね。今後はさらに商材を増やして、コンテナの隙間にいろんなものを積んでいく?

【山川】私たちは新興国のアマゾンを目指しています。車に限らず、欲しいものがあったら、まずビィ・フォアードのサイトを見る。そういう存在になれたらいいなと。

【田原】アマゾンはアフリカを狙ってないんですか。

【山川】当然、狙っているはずです。ただ、アマゾンさんはまだ現地に物流網を持っていません。その点では、現地で3600人を雇って自前で運んでいる私たちにアドバンテージがある。その強みを活かして、いまのうちにブランドを確立したいです。

【田原】わかりました。頑張ってください。

■山川さんから田原さんへの相談

Q.会社を急成長させるには何が必要ですか?

グーグルやフェイスブックなど、急成長した会社は例外なく時代の波に乗っかっています。ただ、同じ波が目の前で起きているのに、それに乗れる人と乗れない人がいます。年寄りは後者。既存の日本企業の業績がよくないのも、トップが50〜60代だから。新しいものに対する感度が落ちているから、波が来ていても肌で理解できないんです。

変化をポジティブにとらえられるかどうかも大きい。今後AIは大きな波の一つになりますが、「シンギュラリティで雇用が奪われる」と悲観的にとらえる人はダメ。「AIでこんなことができるようになる」と、変化の明るい面に目を向けられる人が、新しい時代をつくっていくのではないでしょうか。

田原総一朗の遺言:変化の明るい面を見ろ!

(ジャーナリスト 田原 総一朗、ビィ・フォアード社長 山川 博功 構成=村上 敬 撮影=枦木 功)