パリ・シャトレ座、渋谷慶一郎のソロ・コンサート「Perfect Privacy」に寄せて

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2014年10月20日、パリで行われた渋谷慶一郎のソロコンサートに ついて、コレットのミュージック・ディレクターが寄稿。

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わたしが作曲家、渋谷慶一郎に初めて会ったのは、パリで行われた彼のコンサート後のことだった。

そのコンサートは、杉本博司の展覧会「今日、世界が死んだ(失われた人類の遺伝子の保管庫 Lost Human Genetic Archive)」で行われた。パレ・ド・トーキョーの暗い、迷宮のような展示室の奥まったところに、1930年代の趣を残すシネマルームがあった。

この部屋で杉本の有名なシリーズ「海景」の白黒写真が映し出されたのだが、わたしはこの作品をこれほど大きなスケールで見たことはなかった。写真が映写されている間ずっと、渋谷慶一郎はピアノに覆い被さるように上体を曲げ、杉本の抽象的なイメージに対する控えめな音楽的解釈を披露していた。ミニマリストの美学と現代的なピアノを愛するわたしにとって、これは感情的な衝撃だった。

わたしはパリのショップ「コレット」で、音楽担当のディレクターとして働いている。わたしの仕事は、新しい逸材を発見することと、限定制作のコンピレーションを通じ、彼らをわたしたちの顧客に紹介することで成り立っている。

わたしは長く日本の音楽業界、特に電子音楽分野に関心をもってきた。渋谷慶一郎はひとつの分野のレッテルを貼られることを拒否する音楽家であり、そういった点でYMO時代のシンセ・ロックから映画のサウンドトラックまでを手がけ、ジャンルの境界を越えてきた巨匠、坂本龍一と同じ系譜に属するアーティストだ。

魅力的かつ断固として情熱的な人物として、渋谷は自らの人生と最も深い感情とをさらけ出す。そしてそれは、シャトレ座での「Perfect Privacy」というタイトルのコンサートのテーマともつながっている。

1862年に帝国のもとで建てられた舞台の真ん中でたったひとり、ピアニストはそのあらゆる動きをつぶさにとらえる監視カメラに囲まれている。わたしたちはアーティストが創造する過程と、鍵盤上を動く彼の指、そして楽譜に心を奪われている彼の目を目撃することになる。彼は作品の一部を演奏しながら、現代音楽とポップ、実験音楽を織り交ぜた作品群の一部を演奏する。渋谷はそのコンサートの進行に、不可測の予測をたぶんに盛り込む。

昨年、彼のオペラ「The End」が、この同じホールで大成功したにもかかわらず、渋谷慶一郎は、日本で知られているほどにはフランスではまだあまり知られていない。彼はここパリで、創造を助けてくれる「相対的な静けさ」を活用している。そして、わたしたちは彼の新しい作品を待ち受ける。それはロボット工学と人工生命、そしてわたしたちの個人生活におけるテクノロジーの役割を扱ったものとなるはずだ。

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