バレンタインデーなのでバレンタイン村へ行ってみた
パリからローカル線に乗って南下すること約2時間。約束の地、ビエルゾンの町に着く。約束の地といっても特別な思い出があるわけではない。これより先は列車やバスなど公共交通機関がないので、事前に連絡を取りここでバレンタイン村の人と待ち合わせをしたのだ。今回の目的地は恋人の聖地だが、もちろん仕事なのでひとり（私情を持ち込んだとしてもひとり……）。しかし、現地は愛の聖人バレンタインが守護し奉る村。何らかのご利益があるとも限らない。そういう意味では、ビエルゾンの町が将来の素敵な日々の出発点になる可能性はある。期待を寄せた。
結婚承認式では村長からの祝辞に続いて、民法の結婚に関する条文が読み上げられる。それにカップルは「ウイ（はい）」と誓い、結婚承認証に名前を書き込む。ご夫妻は新婚旅行でフランスに滞在中。幸せのオーラをひしひしと感じる。そんな幸福な雰囲気の中、記者もまだ見ぬ将来の伴侶を妄想しながら、あやうく声を発しそうになるも、心で「ウイ」とうなずいた。これで自分の練習も完璧だ！（ごめんなさい）
式が一通り終わると聖バレンタイン像が鎮座する教会でお祈りをし、その後は村内唯一のレストラン「AU 14 FEVRIER（2月14日）」で食事。ここはミシュランの一つ星を獲得している店で、料理も文句無しにおいしい。１人でテーブルについているせいか、多少、周囲に座っているいくつかのカップルの視線が気になるが、そんなことは関係ない。高級レストランでも動じない大きさが男にはいるのだ。これも将来の出会いに向けた聖バレンタイン様の試練と思い、必要以上に優雅に振る舞ってみた。
食事の後は「恋人たちの庭園」に案内された。ここに植えられている「願い事の木」に願い事を書いた紙を日本のおみくじのように結びつけると、いつの日かその紙はほどけて風に乗り、天へと舞い上がって願いが聖バレンタインのもとに届けられるという。
ついに来た！ そんなお得なシステムが存在するなんて。今まで多くの恋愛をさじ加減一つで成就させてきただろう聖バレンタイン様に向ける願いは決まっている。さらさらと紙にペンを走らせた。しかし己の意思が紡ぎ出した文言は「仕事が全て上手くいきますように」。フリーランス的には愛よりも明日のご飯の心配が……ああ、神よこれが宿命なのかもしれません。
（加藤亨延）
