映画『河童のクゥと夏休み』DVD　(C)2007　木暮正夫／『河童のクゥと夏休み』製作委員会
　子供のように小柄で、頭頂部がハゲており、口がくちばしのように尖っている。相撲とキュウリが大好きで、体臭が魚のようにキツい……と言えば、誰の顔を思い浮かべるだろう？　もし、その人物に肛門が3つあり、手に水かき、背中に甲羅があったなら、その正体は、伝説の妖怪「河童」だろう。「東北・映画で元気に復興」特集の第3回目は、河童伝説が残る岩手県遠野を舞台にした映画『河童のクゥと夏休み』の魅力を紹介しよう。

『河童のクゥと夏休み』

　夏休み前のある日、小学生の上原康一は学校帰りに不思議な石を拾った。持ち帰って水で洗うと、中から河童の子供が現れた。クゥと名付けられた河童は、康一たちと同じ言葉を話し、何百年ものあいだ地中に埋められていたのだという。最初は驚いた家族も、クゥを受け入れ、周囲に気づかれないよう注意しながら一緒に暮らし始める。そんなある日、康一はクゥを仲間のところに帰してあげようと、河童伝説の残る遠野へ旅立つ。そして、旅から戻った康一とクゥを待ち受けていたのは……。

【元気のポイント】完全アウェーで奮闘する河童の姿

　河童は、上述のように特徴的な容姿をしており、企業のトレードマークに使用されるなど、愛されキャラではあるのだが、川に入った人間の足を引っ張って溺れさせ、肛門から尻子玉（魂のようなもの）を引き抜く等の恐ろしい行動も伝承されている。作品の中でも、武士が河童の親子に遭遇し、恐怖のあまり、父親の河童を刀で殺害してしまう。河童の親子は、ただ、住みかである沼の干拓を思いとどまるよう、相談したかっただけだったのに……。目の前で父親を殺された「クゥ」は、人間に対する恐怖心を数百年も持ち続ける。だが、康一たちと暮らすうちに少しずつ心を開き、明るさを取り戻していく。人間と河童の心のすれ違いと、そこから和解に向かうまでの過程がほほえましく描かれている。後半、再びクゥにとんでもない試練が降りかかるのだが、その試練を必死に乗り越えようとする姿に勇気づけられることがあるだろう。

【東北文化】遠野の「カッパ淵」、釜石の海

　遠野に河童の故郷というイメージが定着したのは、民俗学者の柳田國男が著書「遠野物語」の中で、河童の伝承を収集したことに由来するという。特に土淵町の「カッパ淵」の辺りでは、河童が多く住んでいて、人々を驚かし、いたずらをしたと伝えられている。澄んだ水が流れる淵の周辺は、豊かな自然を保っており、今にも河童が現れそうなほど。クゥと康一も、河童の仲間を探すため、現地を訪れるのだが、ついには見つけることができなかった。帰り道、彼らは釜石を訪れる。そこでクゥは初めて「海」を知るのだ。先の震災で甚大な被害を受けた、釜石の美しい海、趣のある街並みが描かれており、一刻も早く、その風景を取り戻せるよう、支援を続けていかなければ、という思いを強くさせる。

【まとめ】河童の正体は「キリシタン」？

　この作品は、決して、子供向けに作られた映画では無い。むしろ、子供にはショッキング過ぎるかもしれないと心配させられるシーンも数多く登場する。河童と人間という異形の者同士の心の交流が、人間の身勝手さ、いじめ、報道被害など、多くの問題を浮き彫りにするのだ。元タレントの上岡龍太郎氏は自著の中で「河童の正体は弾圧から身を隠し、暗闇の中で水浴びをしていたキリシタンである」と持論を展開しているが、クゥが受ける試練の数々を目の当たりにすると、俄然、説得力を増して聞こえてくる。東北も、いま想像を超える試練にさらされている。クゥに負けずに頑張ろう、東北。