ロバトJrに組み負けない強さを見せたリョートは、実は打撃ではなく組技が強いファイターではないかという評判が高まるなか、前述したようにWFAを経てUFC入りを果たすと、その卓越した打撃センスを徐々に垣間見せるようになった。

父、嘉三氏より学んだ空手は、船越義珍を開祖とする松濤館空手。さらにはスポーツ化した現在のノンコンカラテや、顔面殴打なしのフルコン空手でなく、直接顔面殴打、加えて足払いなど、全局面で戦う古のカラテを連想させるもので、虚実を入り混ざった独特のスタイルをオクタゴンで披露するようになる。

ただし、その殴られずに殴る、距離をコントロールするマジシャンのようなファイトは、インファイトを好む米国MMAファンの間で受けの良いものではなく、それでもリョートは、ソクジュやティト・オーティズを下すなど、戦績を伸ばし続けたことで、無視できない存在となっていった。

エヴァンズは、04年のMMAデビュー戦で当時キャリア41勝33敗のデニス・リードを相手に白星を挙げると、ヘクター・ラミレスやジャイミー・ヤラというカリフォルニア系のそこそこの実力者に勝利し、TUFという全米最大の登竜門をくぐった。

TUFでは、まずトム・マーフィーから判定3-0で勝利を挙げるが、動きの少ない試合にダナ・ホワイトには「俺が見た試合のなかでも、最もFu×kな試合は終わった」と酷評されてしまう。続いて行われた準決勝のマイク・ホワイトヘッド戦でも、芳しくない試合内容に終わり、彼への期待度は決して高いものではなかった。

全米ライブ中継された決勝戦、ブラッド・アイムス戦では、単発のパンチの交換と、テイクダウンを許さない試合展開で勝利したものの、TUFシーズン2ヘビー級は低調に終わったという評価にとどまっていた。

UFC公式戦2戦目から本来の階級ライトヘビー級に戻った後も、負けないファイトからの脱皮がなかなかできなかったエヴァンスだが、対戦相手のグレードが上がるにつれ、オールアメリカン・レスラーとして活躍したフィジカルの強さ、反射神経、動体能力の高さが認められ始める。

07年11月にマイケル・ビスピンを下し、08年9月にはチャックリデルを初めて失神KOに追い込み、この年の掉尾を飾るビッグショーで王者フォレスト・グリフィンに挑戦する機会を得た。序盤はカウンター狙いを見透かされたように、じらされ、手を出す状況に追い込まれ、ローやパンチを受けるシーンが目立ったが、グリフィンのミドルを掴んでテイクダウンを奪うと同時にパウンド。ダメージが残るグリフィンの顔面に一気呵成にパウンド、エルボーを落とし、最初のチャンスをモノにして群雄割拠、UFC世界ライトヘビー級の頂点にたった。

レスリング&ボクシングと、身体能力の高さが武器の王者、タイミングと切れが信条のチャレンジャー。待ちのファイトは、実は強心臓の裏返し。世界最高レベルのMMAが、もうじき見られるはずだ。

■UFC98『EVANS vs MACHIDA』対戦予定カード

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
ラシャド・エヴァンス(王者/米国)
リョート・マチダ(暫定王者/ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
マット・ヒューズ(米国)
マット・セラ(米国)

<ミドル級/5分3R>
ドリュー・マックフィールズ(米国)
ザビエルル・フォウパポッカム(フランス)

<ミドル級/5分3R>
チェール・ソネン(米国)
ダン・ミラー(米国)

<ライト級/5分3R>
ショーン・シャーク(米国)
フランク・エドガー(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ブロック・ラーソン(米国)
クリス・ウィルソン(米国)

<ヘビー級/5分3R>
パット・ベリー(米国)
ティム・ヘイグ(カナダ)

<ライト級/5分3R>
フィリップ・ノヴァー(米国)
カイル・ブラッドレー(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
クリジストフ・ソジンスキー(カナダ)
アンドレ・グスマォン(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
吉田善行(日本)
ブランドン・ウォルフ(米国)

<ライト級/5分3R>
デイブ・カプラン(米国)
ジョージ・ループ(米国)