地域住民のほかに、農林水産省、学校、企業、研究機関、官庁などが参加するこのプロジェクトは、「市民型公共事業」と呼ばれる。国土交通省が沖から運んだ砂でコンクリートの護岸に浅瀬を作り、そこに子どもたちが育てたアサザが植えられた。現在、大規模なものが湖の周辺に11カ所。設置から1年で激減していた動植物が数十種類も復活した。さらに、水草が根付きやすいように、流域の木材を利用した消波装置が提案され、国の公共事業に採用された。飯島さんたちが地元林業と国の調整役を務め、森林管理と湖の再生をつなげる仕組みをこしらえた。

 飯島さんは「行政はもともと縦割りで機能する組織です。私はその壁を『壊す』のではなく、『溶かす』ことによって、その専門性をプロジェクトに活用します」と発想の転換を挙げる。NPOは異なった組織を結び付けて、新たな機能を生み出す生体内のホルモンのような役割を果たすべきで、「壁」から「膜」に変えるべきだと飯島さんは説明。つまり、ほとんどのNPOが「行政を補完する」という考えに基づいているとその現状を指摘する。

 企業、行政、研究機関などから様々な人が、飯島さんを尋ねてやって来る。そんな中から生まれたユニークなプロジェクトも進行している。宇宙開発事業との協働で始まった「宇宙からカエルを見つめよう」もその一つ。衛星画像から湧き水のある地点を抽出し、小学生が実際に現地を調べ、アカガエルの産卵などのデータを集めるというもの。また、霞ヶ浦の外来種対策として、漁業者が水揚げしたブラックバスなどの外来魚を買い上げ、魚粉や堆肥にして流域の農業や畜産に利用し、それを肥料にした有機農産物の流通を図り、商品化しているものなどだ。

 異なった分野を巧みに結び付けて、霞ヶ浦流域の自然を再生しながら、自然と共存できる社会を目指す飯島さん。行政を中心として展開した従来の公共事業と違って、事業の中心に組織を置かず、代わりに「協働」の場を中心に設けている。地域住民にとって判りやすく、参加しやすく、生活に密着した「循環型」事業を発案する飯島さんは、行政や企業の力を上手に引き出す術に長けている。縦割り政策による「問題解決型」の事業を推進してきた行政や、利益第一主義の呪縛から逃れられない企業で働く人たちが、飯島さんに会いにやってくる理由がこの辺にあるのではないか。

 一方で、飯島さんの発想や考え方を理解できない人も少なくないという。「そういう方たちには、(私に対して)『あきらめる』か『慣れてください』とお願いします」と飯島さんは笑い飛ばす。一つの起業が成功すれば、次の起業に取り掛かる。自分自身は「場」に過ぎないと表現する飯島さん本人は、決して事業の中心に居座らない。しかし、志ある人を中心に、常に多くの人たちに囲まれている。【了】