だんだん口調がエスカレートしてきたと思ったら…(写真はイメージ。写真提供:photoAC)

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時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは静岡県の70代の方からのお便り。昔、まだデパートの化粧品売り場の客引きが激しかった頃、化粧品売り場を通り抜けようとしたら、驚きの言葉をかけられたそうで――。

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よくそんな顔で……

45年ほど前のことです。その頃デパートの1階の化粧品売り場では、たくさんの美容部員が待ち構えていて、通り抜けるのが困難なくらいのしつこい押し売りが当たり前でした。「眉毛をちょっと直せばすごくよくなりますよ」「頬紅の色を変えたら、グッと垢抜けます」と言って腕を引っ張り、放さないのです。

当時25歳の私はその日、化粧品売り場の奥に用事がありました。時間がなかったので売り場を突っ切ろうとすると、案の定、激しい勧誘が。断る勇気を持って臨んだため、「時間がないので」と、毅然とした態度をとりました。

すると、「少しお顔を直して差し上げます」「サービスでやると言っているんですよ」などと、だんだん口調がエスカレートしてきたのです。それでも無視していると、なんと「よくそんな顔で外を歩けますね」との声が!

これにはカチンときたので立ち止まって振り返り、「今、なんとおっしゃいましたか。責任者を呼んでください」ときっぱり言いました。驚いた店員は慌てて店の奥へ。すると中年の女性が出てきて、「申し訳ありませんでした」と謝罪するのです。

「いいえ、あなたではありません。このデパートの責任者を出してと言っているんです」「この売り場はテナントとして入っているので、デパートは関係ありません」「私たち客として来る者には、テナントかどうかなんて関係ありません。デパートの責任者を呼んでください」。

少しムキになった私がこう言うと彼女は、「本当に申し訳ありませんでした。今後こういうことがないようにしっかり教育してまいりますので、どうかお許しください」と言い、ほかの美容部員もぞろぞろ出てきて、全員で頭を下げるのです。

私も「もういいか」と思ってふと見ると、先ほどの美容部員が目をはらし、流れたアイシャドウで真っ黒な涙を流しています。私、最後に言ってやりました。「そんな顔では、外歩けませんよ」、と。

それからしばらくして、銀座のデパートで同じような騒動がありました。美容部員が無理やり化粧を施し、「今使った化粧品、どれをお買い上げになりますか?」と尋ねられた客が、「最初から買いませんって言ってますよね」と返す。

それに対して、「銀座ではそんなこと通用しませんよ」と脅すような発言をしたことが新聞に取り上げられて、大問題になったのです。全国で似たような問題が起きていたのですね。その後、強引な勧誘が禁止となりました。

あれから半世紀。少しずつよい世の中になっていると信じています。

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