「卵子凍結」について産婦人科医に聞いてみた!有名女性芸能人も続々実践中
ここ数年、タレントの指原莉乃さん、「フォーリンラブ」のバービーさん、お笑いトリオ「3時のヒロイン」の福田麻貴さんといった人気芸能人たちが公表し、話題を呼んでいる『卵子凍結』。キャリアやライフスタイルの多様化が進むなか、未来の家族計画の選択肢を広げる手段として注目されています。
さらに、自治体による助成金制度の導入も関心や需要を高める要因に。東京都では、2023年から卵子凍結の助成制度を開始。200人分の助成予算枠に対して、1467人の申請があったため、2024年度には助成予算枠を10倍の2000人に拡充しました。
今回は、今多くの女性たちが関心を寄せている「卵子凍結」とは何か、どのように行われるのか、費用やリスクはどのくらいあるのか、グレイス杉山クリニックの院長・岡田有香先生にお話を伺いました。さらに、パートナーや家族として男性が知っておくべきポイントも紹介します。
教えてくれたのは…産婦人科専門医 岡田有香先生産婦人科専門医
岡田有香先生
2014年から聖路加国際病院の産婦人科に勤務し、2021年から杉山産婦人科にも所属。聖路加国際病院では子宮内膜症や低用量ピルの診療、がん治療前の卵子凍結に携わり、杉山産婦人科では不妊治療を学ぶ。不妊治療に苦しむ方を見て、不妊予防の重要性を再認識し、グレイス杉山クリニックSHIBUYA院長に就任。インスタグラム「dr.yuka_okada」で生理や妊活、卵子凍結について発信中。
卵子凍結とは、将来の妊娠や体外受精に備えて、若いうちに質の良い卵子を採取し、凍結保存しておく医療技術のこと。これにより、若いときの生殖能力を保ったまま長期間保存が可能になります。
卵子のもととなる「原始卵胞」は女性が生まれたときから卵巣の中にあり、女性と共に年を重ねます。しかし、卵子は年齢の影響を非常に受けやすく、その質が妊娠能力に大きく関わってきます。卵子凍結は、加齢による影響を避けるための手段であり、自分の未来の選択肢を広げる方法でもあります。
上のグラフのように卵子は年齢とともに老化するだけでなく、数も減少します。卵子の数が減るペースは、初潮時期や生理周期などの影響を受けるため個人差がありますが、閉経時にはゼロに近づきます。現在どの程度体内に卵子が残っているのかは「AMH検査」で調べることができます。体内の卵子の量に応じ、妊娠を望める期間は変わります。いつか妊娠したいと思った段階で、早めに検査を受けておくとよいでしょう。
近年「卵子凍結」が増加している理由は?年齢とともに卵子の質と数は減少します。女性は一生分の卵子を持って生まれ、年齢とともに卵子は老化します。35歳を過ぎると妊娠能力が減少し始め、40歳を超えるとさらに顕著になり、45歳になるとほぼすべての女性が妊娠能力を失うといわれています。
しかし、すべての女性が若い時期に出産を望むわけではありません。キャリアやパートナーの状況、健康問題や家族の事情など、妊娠・出産のタイミングは人それぞれです。
2020年の内閣府の調査によると、女性の平均初婚年齢は29.4歳で、1985年の25.5歳と比較すると約4歳上昇しています。これは「晩婚化」の一例であり、妊娠に適した25〜35歳の年齢を考えると、晩婚化は妊娠のしにくさの一因ともいえます。こうした社会的背景から、卵子凍結を選択する女性が増えています。キャリアやライフプランに合わせ、将来の妊娠の可能性を高める手段として卵子凍結が注目されているのです。
「卵子凍結」による妊娠率は?卵子凍結によって保存した卵子を使って妊娠・出産するには、体外受精が必要です。凍結した卵子はまず融解(解凍)する必要がありますが、この過程で5〜10%の卵子が破損することがあります。融解後、精子と受精して受精卵(胚)になりますが、そのすべてが良好な胚であるとは限りません。良好胚が子宮に着床して初めて「妊娠」となります。以下は、卵子凍結による妊娠率の詳細です。
●凍結卵子を融解した時の卵子生存の確率
・融解後の卵子生存の確率:90%以上
・その後、精子を注入した場合の受精率:60〜80%
●卵子10個あたりで妊娠できる確率。(採卵時の年齢による)
・30歳以下:80%程度
・31〜34歳:75%程度
・35〜37歳:53%程度
・38〜40歳:30%程度
・41歳以上:20%以下
これらのデータから、卵子の生存率とその後の着床率を考慮すると、なるべく若い年齢で卵子凍結を行い、10個以上、できれば20個以上の未受精卵を凍結保存しておくことが望ましいと分かります。
「卵子凍結」はどのような手順で行われる?STEP 1 事前検査(所要時間:90〜120分)
採卵前に血液検査や超音波検査を行い、ホルモン値、卵巣機能、卵子の数(AMH値)を調べます。
STEP 2 排卵誘発(生理開始1〜3日以内)
質の良い卵子を複数採取するため、排卵誘発剤を使用します。年齢、卵巣機能、体への負担や希望を考慮して排卵誘発の方法を選びます。
STEP 3 ホルモン検査・超音波検査(生理開始から9〜11日目)
卵胞の発育具合を確認し、結果に応じて採卵日を決定します。
STEP 4 採卵(生理開始から12〜14日目)
腟に超音波機器を入れ、卵巣の卵胞に針を刺し、卵胞液とともに卵子を吸引・採取します。
この一連の手順を「採卵周期」といい、生理開始数日以内に来院することが必要です。
「卵子凍結」のメリット・デメリットは?《メリット》
●卵子の老化を防げる
若い年齢の卵子を凍結保存することで、卵子の老化を止め、妊娠しやすい状態を維持できます。
●精神的な安心材料になる
卵子凍結により妊娠の選択肢が増え、仕事やパートナー探しに焦ることなく取り組めます。
●病気に備えられる
年齢とともに増える子宮や卵巣の病気のリスクに備え、卵子を凍結保存することで将来の妊娠に備えられます。
《デメリット》
●体への負担
排卵誘発剤による副作用として、腹痛や腹部の膨満感を伴う卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。また、採卵時に下腹部の痛みや出血などの症状が出ることもあります。
●妊娠の保証はない
卵子凍結は100%の妊娠を保証できるものではありません。
●妊娠年齢の高齢化によるリスク
妊娠年齢が高齢になることで、妊娠時の高血圧や糖尿病の合併症が増加するリスクがあります。
●経済的負担
卵子凍結には経済的な負担が伴います。長期保存にも継続的な費用が必要です。
クリニックによって費用は異なりますが、グレイス杉山クリニックの例をご紹介。
卵子凍結パッケージプラン:\380,000(税込 \418,000)
プランに含まれる内容
・排卵誘発剤
・局部麻酔
・採卵費用
・凍結費用
・初年度保管費用
追加費用
・初診料・スクリーニング代:\20,000(税込 \22,000)
・全身麻酔を行う場合:\50,000(税込 \55,000)
2回目以降の採卵費用
・卵子5個以下:\250,000(税込 \275,000)
・卵子6個以上:\300,000(税込 \330,000)
当院での保管プラン(2年目以降)
・1〜3個:\33,000(税込)/年
・4〜6個:\66,000(税込)/年
・7〜9個:\99,000(税込)/年
以降、3個ごとに\11,000(税込)/年
※凍結した卵子の保管費用は2年目以降に発生します。1年目の保管費用はパッケージプランに含まれています。
Grace Bankでの保管プラン
グレイス杉山クリニックは凍結卵子の保管専門サービス「Grace Bank」と提携しています。「Grace Bank」は、提携先である株式会社ステムセル研究所の23年無事故の保管施設にて、最新のモニタリング機器と厳重なセキュリティ設備で大切な卵子をお預かりします。料金は卵子15個までの保管が1ヶ月あたり3,208円〜。「年払い」と「月払い」の2つのプランからお選びいただけます。
https://gracebank.jp/price/
Q.1 男性が知っておくべきポイントは?
A.1 卵子は精子と違って、新しく作られることがありません。女性は生まれ持った卵子を持ち、年齢とともにその数がどんどん減り、質も低下します。そのため、出産に関しては女性の年齢を考慮する必要があります。卵子凍結は、将来の妊娠・出産を考えたいけれども今すぐには難しいという女性が、将来的に子どもを持つ可能性を高める技術です。40歳以上になると、たとえ不妊治療をしても妊娠が難しい場合が多く、男性もその現実を理解することが重要です。男性も年齢が上がると精子の質が低下するため、ライフプランを考える際には自分の年齢も考慮に入れる必要があります。
Q.2 パートナーから「卵子凍結しようかな?」と言われたら…
A.2 パートナーから卵子凍結の話が出たら、しっかり耳を傾けましょう。女性がその考えを持った背景を理解し、たとえ答えにくい内容でも率直に向き合うことが大切です。妊娠・出産は女性にしかできないことであり、WHOが提唱する「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)」に基づき、男性は女性をサポートする役割があります。卵子凍結を考えている理由をしっかり聞き、自分の立場や考えを共有しましょう。もしかしたら、彼女は具体的なサポートを求めているわけではなく、将来についての話し合いを望んでいるだけかもしれません。コミュニケーションは結婚前でも後でも重要。結婚はゴールではなく、お互いのライフプランや家族計画について20代から話し合っても良いのです。プレッシャーに感じる必要はないので、彼女の考えや背景を理解し、自分の考えと照らし合わせて話し合うことが、良い関係を築くための第一歩です。
Q.3 ありがちな勘違いは?
A.3 将来的に子どもを望んでいて、パートナーが明確な場合は、卵子凍結ではなく「受精卵凍結」が適切です。受精卵は女性の卵子と男性の精子を合わせたものであり、これを凍結することが可能です。受精卵の方が妊娠率が高く、確実性があります。また、手順に関しても、女性はほぼ卵子凍結と同じ負担を負います。
岡田院長のいる「グレイス杉山クリニックSHIBUYA」明るく開放的なカフェのような空間が広がり、吹き抜けから日の光が差し込むクリニック。若い世代の女性の健康管理や必要な知識を提供し、女性やカップルが気軽に立ち寄れる場所を目指している。
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti SHIBUYA 5F
電話:03-6427-5670
診療時間:月・水 8:30-12:30/15:00-19:00
火・木・土 8:30-12:30/14:00-16:00
金 8:30-12:30/14:00-17:00
※祝日のみ9:30-12:30
休診日:日曜
URL:https://grace-sugiyama.jp/
いかがでしたか? 卵子も精子と同じく、新たに生成されると思っていた人もいたのではないでしょうか? 卵子は生まれたときから増えることはなく、むしろ月経によって減少していくことを覚えておきましょう。次回は、「精子凍結」について紹介したいと思います。
取材・文=鈴木恵理子