「奢ってくれない男なんて…」自称美食家たちの食事会、女がうんざりしたワケ
オトナの男女なら、一度や二度はあるだろう。
友達や恋人には言えない“あの夜”が…。
寂しかったから、お酒に酔っていたから、魔が差して…。
そうやって自分に言い訳をしながら、人は一夜の過ちを犯す。
これは、オトナの男女の「誰にも言えないあの夜」のストーリー。
▶前回:「寂しくてつい…」三軒茶屋の居酒屋で声をかけてきた男と盛り上がり、一夜を共にしたら翌朝…
Vol.10『男遊びをしている主婦は、成敗しなきゃ』真緒(36)
「真緒、こちら類くんと省吾さん」
麻布十番の和食店で、私は戸惑いながら挨拶をした。
元同期の萌子に誘われた男女2対2の食事会なのだが、男性陣が想像よりも若くて驚く。
「私たち、最近お友達になったんだよね〜!」
― 最近…?萌子って専業主婦よね。30歳前後の男子と、どこで出会うのよ…!
私は疑問に思ったが、ここで聞けるわけもない。
「はい。こんなに綺麗な方と知り合えるなんて、ラッキーすぎます」
「もう!類くんったら。ていうか、このお店ずっと来てみたかったんだよね。有名店だし。ね、真緒」
「え?う、うん」
私は、若干の居心地の悪さを感じながらも、この席を楽しむことにした。
「はぁ、美味しかったね〜。日本酒も珍しいのが置いてあったし。最高だったなぁ」
私たちは、麻布十番駅まで話しながら歩いた。
「うん。でも、萌子が呼んでくれた会でお金出したの初めてかも…」
料理が出てくる度にカメラを向け、女性にご馳走しない男性と私は初めて食事をした。
今日の類くんと省吾さんは、いわゆるグルメアカ界隈の人間だ。
彼らみたいな人種と食事するときは、割り勘なのはあたり前なのかもしれない。でも、私は、思わず萌子に嫌味とも取れる本音を言ってしまう。
「あ〜、彼らは基本奢らないよ。目的が“食”だからね。でも、その方が楽じゃない?下心がない男性って貴重よ」
萌子は、私の嫌味をさらっとかわした。
独身時代は萌子だって、“車代をくれる会じゃなきゃ無理”と言っていたのに…。
あの頃の萌子は、もうここにはいなかった。
「そうそう!類くんと月末にお鮨に行くんだ。日帰り福岡なの」
一の橋の信号待ちで、萌子がキャッキャとはしゃぐ。
「え!!それ萌子の旦那さんは知ってるの?」
私は、目を見開いた。
「ん?友達と日帰り旅行するって言ってるよ。娘ももう2歳だし、パパとなら余裕でお留守番できるし」
― いやいや…だめでしょ、それは…。
そう思ったが、萌子は私に喋らせてはくれなかった。
「真緒って、お家どこだっけ…あ!吉祥寺だ。一本で帰れるの?」
「ううん、四ツ谷で乗り換えて30分くらいかな」
「30分!?遠いところからありがとうね。またご飯誘うね。じゃあね〜」
そう言い残すと、Max Maraのテディベアコートに、コンスタンスミニを肩から下げた萌子は、私に手を振った。
彼女はタクシーで、狸穴坂にある高級マンションに帰るのだろう。
「はぁ…」
電車に乗った後も、モヤッと感は消えない。
今日の会は、料理もお酒も格段に美味しかったし、楽しい2時間だったことは認める。
それなのに、こんな気持ちになるのは、私の性格が悪いのだろうか。
私のバッグは、今季のセリーヌの新作だし、コートも12月に新調した。
でも、萌子が持っているような超高級品は、私には到底買えない。
港区だって住めないわけじゃないが、会社員が無理して住むエリアじゃないことも、重々承知している。
― 5年前までは、同じ土俵にいたのになぁ…。
大手のアパレル会社で、販売員をしていた私たち。
私も萌子もマネージャーまで昇進したが、それはあくまでも仕事上のこと。
いつのまにか、プライベートでは大きな差が生まれてしまった。
妬んでも仕方ないことだとわかっている。
独身時代の萌子は、マッチングアプリを3つも掛け持ちし、週2で食事会に参加。肌も髪もファッションも常に完璧にしていた。
だから、彼女が手に入れた12歳年上の投資家との結婚も、子どもも、絵に描いたようなセレブ生活も、努力した結果なのだろう。
でも、それ以上を望むだなんて、貪欲を超えて傲慢すぎないだろうか。
萌子のことが嫌いなわけじゃない。でも、私はこの気持ちを“私なりの正義”で成敗することにした。
◆
翌週の日曜日。
私は手土産を持って、萌子の家を訪れた。彼女の娘・愛花に会いたいという理由をつけて、私から押しかけたのだ。
「真緒が愛花に会いたい、って言ってくれるなんて、嬉しいなぁ〜」
「いらっしゃい、真緒さん」
萌子の都合で夕方にお邪魔したのだが、彼女の夫・佳宏も在宅だったことに、私は心の中で微笑んだ。
「これ、萌子好きだったよね」
私は、モンブランが入った紙袋を萌子に渡す。
「わぁ、アンジェリーナ!池袋にまで行ってくれたの?うちからだと遠いんだよね」
萌子は、夫にモンブランを見せながら無邪気に喜ぶ。
「池袋じゃないよ。日本橋で用事があって。三越で買ったの」
「あっ。そうなんだ!ありがとう」
今日も、萌子は相変わらず素敵な主婦をしている。だけど、笑っていられるのも今だけだろう。
萌子が作った料理やワインをいただきながら、3人で談笑していると、愛花がグズり出した。
「真緒、悪いんだけど、愛花をお風呂に入れて寝かしちゃうね」
「え…、あ、うん。じゃあもう帰るよ」
「ううん!まだ19時半だよ。佳宏と飲んでて。寝かしつけたら戻るから」
萌子は、娘を連れてリビングを出て行った。
「ごめんね、真緒さん。萌子も友達が来てくれる!って楽しみにしてたからさ。ワインまだ飲む?それとも、紅茶にしようか?」
「そうですか。じゃあ…紅茶いただいていいですか」
「もちろん。いただいたモンブランも先に食べちゃおうか」
萌子の夫はキッチンの戸棚からティーポットを取り出すと、テキパキと紅茶を用意し、冷蔵庫からモンブランを取り出した。
「萌子、月末に福岡行くんですね。有名なお鮨屋さんを予約してるとか。羨ましいなぁ」
私は、佳宏に出された紅茶を飲みながら言った。
「出かけるのは知っていたけど…。福岡でお鮨?それは初耳だなぁ」
フォークを持った佳宏の手が、ピタリと止まる。
「あ。言っちゃマズかったですかね…じゃあ、誰と行くかも聞いてない感じですか?」
「女友達だって聞いてるけど…違うの?」
私は、私から聞いたことは言わない約束で、萌子が男性とふたりで福岡に行くことを話した。
先日、その男性たちと4人で食事をしたことも。
「まさか…そんな……」
都合の良いことに、萌子はまだリビングに戻って来ていない。
「すみません、やっぱり帰りますね」
ここに残っていたら、夫婦の修羅場に巻き込まれる可能性が高い。
私は佳宏に挨拶をして、彼らのマンションを後にした。
年上の投資家と結婚し、港区の低層マンションに住み、専業主婦なのに服もバッグもジュエリーもハイブランド。さらに可愛い娘もいる。
それなのに、さらに若い男性と遊ぶ女には、少しくらい罰が当たってもいいはずだ。
◆
1ヶ月後。
萌子と佳宏の関係は悪くなり、彼女は千葉の実家に帰っていると人づてに聞いた。
本人から直接聞いたわけではない。
なぜなら、萌子とは連絡が取れないからだ。
InstagramもLINEもブロックされ、萌子との共通の知人とも距離ができてしまった。
でも…私は悪くない。
あの夜、佳宏に告げ口したのは、私の正義感からだ。だって、彼女の行動は制裁されるべきなのだから…。
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▶1話目はこちら:男に誘われて、モテると勘違いする29歳女。本命彼女になれないワケ
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飲み友達の女性と距離が近づいた夜…