(写真:buritora/PIXTA)

共働きで「世帯年収1000万円」を達成するとパワーカップルと見なされます。しかし、その内情は時間に追われる忙しい毎日。本稿は、『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』より一部抜粋、再構成のうえ、そんな共働き世帯の厳しい生活と、その背景をお伝えします。

時間はお金で買えるのか

共働きの子育ては忙しく時間にゆとりがないことを数字で表したデータがあります。石井加代子氏と浦川邦夫氏の研究では、子育て中の親が自分の裁量で過ごせる時間は共働き世帯で低いことを示しています。

6歳未満の子どもが2人以上いる共働き世帯では、1日の総時間から、睡眠や食事などの基礎的な活動時間と家事労働時間、労働時間と通勤時間を差し引いた「裁量時間」が平均して週に5.1時間であるというものです。これは共働きでない家族世帯を含めた全体平均(30.5時間/週)の6分の1しかありません(「所得と時間の貧困からみる正規・非正規の格差」2017年)。

この研究では、必要な最低限の家事時間さえ確保することができない状態を「時間貧困」と定義していますが、6歳未満の子どもが2人以上いる共働き世帯の39.6%が該当すると指摘しています。共働きをすることで額面上は収入を増やすことができても、忙しくて時間が奪われれば、暮らしのゆとりという面では貧困状態になってしまうリスクがあるわけです。

足りない時間を補うためには、実家等の親族や周りの人を頼るという手もありますが、それができない、もしくはそれでも足りない場合にはお金による解決策もあります。

一方で、必要最低限の家事や育児のために時短家電を購入したり、ベビーシッター/家事代行サービスなどを利用することで、所得面での貧困に陥るリスクがあるとも指摘されています。

家事や育児の負担を「お金で解決」するには、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。まず考えられる方法のひとつが時短家電です。とりわけ乾燥機つき洗濯機、食洗機、ロボット掃除機は「共働きの三種の神器」といわれるほど、多くの家庭が導入しています。子どものいる世帯に限らず、最近は家事の効率化のためにこれらを揃えている家庭もあるでしょう。

しかし導入するには、それなりのコストがかかります。乾燥機と一体になったドラム式の洗濯機は、容量が少ないものでも価格が10万円以上、家族向けで容量が大きいものでは30万円以上の機種もあります。

食洗機は据置で容量が少ないものなら3万円前後から購入できますが、容量が大きいものやビルトインタイプになると10万円近くします。ロボット掃除機もメーカーやスペックにより差がありますが、リーズナブルなものでも2万〜3万円、ハイスペックなタイプになると10万円はくだりません。

ほかにも、送迎時間を少しでも短縮するために子ども乗せ電動アシスト自転車を、子どもが一人で外出するようになったら安全のためにGPSや携帯電話を、スムーズな家電の操作やアラーム設定のためにスマートスピーカーを導入するなどすれば、あっという間に数十万円に達してしまいますし、メンテナンスにも都度お金がかかります。

「外注」の選択肢は?

家電だけでは対応できない育児や家事は、ベビーシッターや家事代行などのサービスを使って「外注」するという選択肢もあります。

ベビーシッターは親が不在にする間の自宅での子どものお世話、習い事や塾への送迎代行、もしくは親が在宅でも人手が足りない時の補助などに利用できます。運営会社と契約して所属シッターを派遣してもらうタイプだと通常料金で1時間あたり2000〜3000円、個人のシッターをマッチングサービスで探して手配するタイプだと1500〜2500円が相場で、早朝・深夜の利用や直前の依頼では割増料金がかかります。

きょうだいを同時にみてもらうとその分料金は高くなりますが、2人目以降は半額など割安になるのが一般的です。なかには、利用料とは別にかかる入会金や年会費などの初期費用だけで10万円以上必要な会社もあります。

集団で保育をする保育園や幼稚園に比べると料金は手頃とはいえませんが、一部の自治体では、利用料の補助制度を設けています。東京都ではベビーシッターの利用1時間あたり2500円(夜10時から翌朝7時までは3500円)までの料金を区市町村が補助しています。

一部の地域を除き年間144時間分まで利用でき、料金が上限に達しない限り親の負担はありません。最大限に利用すると年間で36万円分のベビーシッター代が無料になる計算です。原則未就学児のみ対象ですが、一部の地域では小学3年生まで利用できます。

一部の企業には福利厚生サービスとして、指定のベビーシッターサービスで割引や補助を受けられるところもあります。このような制度を活用すれば、ベビーシッター代の負担は大幅に軽くなります。

精神的に救われる面も

家事代行サービスは、自宅の掃除や洗濯、食事作りや買い物などの家事を代行してもらうサービスです。利用する頻度や地域に応じて料金が設定されているのが一般的で、定期的に利用する場合には1時間あたり2000〜5000円前後が相場です。たとえば月に2回、3時間ずつ利用すると月額は1万〜3万円程度になります。単発で利用できる会社もありますが、定期利用に比べると料金は割高です。

筆者も、以前に家事代行を利用して掃除をしてもらったことがあります。子どもがいると分刻みで汚れていくため、一度でずっときれいな状態が保たれるわけではありませんが、仕事や子育ての片手間で掃除をするのに比べるとはるかにきれいになります。

1回数千円という支出はきつく、複数回となると気軽に使えないのが正直なところですが、他の人が掃除をしてくれることで「自分でやらない限り汚れる一方」という状態から脱せられ、精神的にかなり救われるというメリットも実感しました。

忙しいからといって便利な時短家電を持ち、ベビーシッターや家事代行サービスを使うだなんてぜいたくだと感じる人もいるかもしれません。しかし、先述の研究の通り、未就学児を持つ共働き夫婦は自由時間が1日に1時間もなく、そのうちの4割は最低限の家事をする時間さえ足りないという状態に置かれています。

実家が遠方で近くに頼れる人が誰もいない、夫婦どちらかが多忙で、もう一人が家事や育児をワンオペでしなければならないといった事情を抱えていれば、最低限の日常生活を送るためにロボットの力や人手を動員せざるを得ない現実を、一概には否定できないと思います。

共働きに迫る「隠れ貧困」のリスク


「時は金なり」といいますが、とりわけ共働き世帯は、家事や育児の時間を確保するためにキャリアや収入を手放すか、夫婦で働いて収入を得るのと引き換えに時間をお金で買うかの選択に迫られています。選択のしかたしだいでは、せっかく共働きをして収入を上げたにもかかわらず、貧困状態に陥るという綱渡り状態でもあります。

夫婦にこれほどの負担がかかるのは、都市への一極集中や核家族化が進んだ弊害でもあるのかもしれません。苦しいなら親と同居するなり、実家に帰るなり、物価の安い地域へ移るなりすればいいという意見もあるでしょう。

しかし個々の家族や仕事の事情を考えれば、そう簡単に解決できる問題でもありません。当事者以外から見れば経済的にゆとりがありそうでも、実はギリギリの生活に悩む、隠れた貧困状態に近い家庭は、予想以上に多いのではないでしょうか。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)