◆これまでのあらすじ

第2の人生を娘と共に歩む決意をした、沙耶香(34)。婚活を始めるが、うまくいかず撃沈する。もうやめようとした時、高校時代の同級生・陽平と再会して、少し気になるようになったが…。

▶前回:「気持ちが抑えられない」既婚者との恋に溺れた34歳女。デートの度に罪悪感に苛まれるも…




残念な同窓会


『◯◯高校、同窓会のお知らせ』

高校時代の同級生、春子から『久しぶりに、同級生で集まらない?東京で』と連絡がきてから1ヶ月。
彼女から、沙耶香にLINEが届いた。

埼玉出身の沙耶香たちは、上京組でプチ同窓会をすることになったのだ。

参加を表明した沙耶香だったが、参加メンバーを見て、がっかりする。

― なんだ、陽平は来ないんだ…。

沙耶香は陽平を誘ってみようと思ったが、あれから偶然会うこともなく、連絡先を知っているわけでもない。

はぁ、と沙耶香がため息をついた時、自分が陽平を気にかけていることに気がついた。

― いやいや、別に惹かれてるとかじゃなくて、久しぶりに会えて嬉しかったから…。

沙耶香は、思わず自分に言い訳をする。

最近、元夫が以前よりも美桜と関わるようになり、沙耶香は再婚活を焦らなくなった。

それに、誰かと付き合ったとしてもダメになったときのリスクを考えると、色々と面倒だ。子どものいる婚活は想像以上にハードルが高く、親子2人で静かに暮らす方がいいのではないか、と沙耶香は近頃考えている。

「えっと、他に誰が来るんだろう?え…」

気持ちを切り替えるように他の参加者の名前を確認し、ある名前に目がとまった。

「うわ、コウセイ来るんだ…」

コウセイとは、高校1年生の頃に、1ヶ月だけ付き合ったことがある。

告白され、見た目がタイプでなんとなく付き合ったが、デリカシーのなさやプライドが高く傷つきやすい性格を面倒に思うことが増え、沙耶香の方から「友達に戻ろう」と終わりにした。

だが、そのことが気に食わなかったのか、彼は、有ること無いことを周りに言いふらしたのだ。

2年生になりクラスが離れたにもかかわらず、すれ違う度に非難するような目を向けられた。

― やだな…。

長年忘れていたのに、こんな形で再会するとは。

けれど、あれからもう16年。彼も大人になっているだろう、となんとか気を取り直した。




「沙耶香、久しぶりー!」

同窓会当日、沙耶香が渋谷の会場に着くと、春子が駆け寄ってきた。

すでに半分ほどが来ており、中には卒業以来の人もいる。

「わー、久しぶりだね」
「見て、アキちゃん。来年の春に4人目が産まれるんだって!」

“アキちゃん”は少し膨らみのあるお腹で、幸せそうな笑顔を向ける。沙耶香にはそれがとても眩しかった。

わいわいと近況報告しあっていると、「うわー、みんなおばさんになったなー」と、コウセイが入って来た。

「おばさんって何よ。あんたもおっさんでしょうが」
「はいはい。でも男は30代からだから」

土曜日だというのに、スーツでブランドのロゴの入ったネクタイに、ギラギラとしたロレックスをつけている。

「コウセイ、今日も仕事だったの?今なにやってんの?」

「あー、ネットビジネスの会社やってる。社長って聞こえはいいけど、忙しくて土日も仕事ばっか。金があっても使う時間がないんだよな」

コウセイの様子に、沙耶香は昔を思い出した。

少しは丸くなったかと期待していたが、相変わらずプライドが高くて自慢が多い。

関わるまい、と思っていたが、コウセイは、沙耶香の前にどっかりと腰を下ろした。




「お、沙耶香じゃん。確かお前の旦那も起業したとか言ってたよな?」

「うわ、来た」と思うも後の祭り。コウセイにガッチリとマークされてしまった。

「まあ…」と沙耶香がはぐらかそうとするも、狙いを定めたコウセイはしぶとい。

「なんて会社?今度起業家仲間で交流会があるんだけど、お前んとこの旦那も入れてやってもいいぜ。普通は招待制だから入れないんだけどな。有名な起業家とかも来るんだ」

昔から小判鮫のようにコウセイにひっついていた男たちは「すげーな」と称賛したが、沙耶香の周りは冷ややかな目をしていた。

「なあ、SNSとかやってんの?あ、ちなみに俺のは…」

コウセイは加工だらけのインスタの写真を嬉しそうに見せてくる。これは永遠に終わらなさそうだと覚悟を決めた沙耶香は、仕方なく言った。




「私、離婚したんだよね」

その一言に、ザワザワとしていた周囲が一瞬静かになった。

春子にも話していなかったことで、彼女たちも驚いて次の言葉を必死に探す。

「そうだったんだね…」

周りが明らかに気を使っているのがわかる。沙耶香は慌てて「あ、でも円満離婚だから」などと添えるが、空気は戻らない。

その時、「久しぶりー」と男が入ってきた。

気まずい空気を脱したい気持ちからか、みんなが一斉に彼の方を見る。

「わ、陽平!?ひっさしぶりー!」

妙な空気に驚きながらも、陽平はみんなと懐かしそうに挨拶をした。沙耶香は来ないと思っていた彼の絶妙なタイミングでの登場に、思わず笑顔になる。

けれど、喜んだのも束の間。目の前のコウセイがニヤニヤとした顔つきで沙耶香を覗き込む。


「うわー、そっか。沙耶香離婚したんだ。それは御愁傷様だな」

“離婚”が彼にとって極上の餌とでもいうように、1人で「うわー」と嬉しそうに言いながら、口の緩みを隠すように手を口元に当てる。




「なんなら俺の友達紹介してあげようか?そいつ彼女できたことがないからさ、経験豊富な沙耶香ならちょうどいいと思うんだよな」

コウセイの言葉に腹が立ったが、空気を悪くしたくなかった沙耶香は「ううん、大丈夫」と笑顔で返す。

それでも、コウセイは収まらなかった。

「それとももう男いんの?さすが、1ヶ月で男を捨てる沙耶香様は違うな」

「コウセイ、もうやめなよ。さっきから感じ悪い」

春子や周りの女子たちが、沙耶香をかばうが、酔ったコウセイの小判鮫たちも介入し、いよいよ空気は悪くなってしまった。

沙耶香が困っていると、陽平が「うわー、コウセイ久しぶりだなー」と急にコウセイの肩を組んだ。

「いや、俺らそんな仲良くなかっただろ?」

「いやいや、俺はコウセイに憧れてたよ。それに今もすごいんだって?ブランドものなんて着ちゃってさ。時計もロレックスなんだろ?見せてよ」

お金に興味などなさそうな陽平が、「すげーな」「仕事で成功したんだな」と仕切りと褒めちぎる。

戸惑っていたコウセイも、陽平の言葉に嬉しくなったのか「だろ?」と気をよくした。

そのまま陽平は部屋の端の方にコウセイを連れて行くと、最後に何やら耳元で囁く。その途端、コウセイの顔つきが険しくなった。

しばらくして、コウセイはさっさと帰ってしまったのだ。



「じゃあねー、また飲もうねー!」

会がお開きとなり、2次会には行かずに帰る途中、沙耶香と陽平は2人きりになった。

「さっき、コウセイに何を言ったの?耳打ちしてたでしょう?」

「あぁ。“ブランド品が偽物だってバラされたくなかったら、沙耶香をいじめるのはやめとけ”って言っただけ。まさか本当に偽物だとは思わなかったけど」

沙耶香がハハッと笑う。

「ありがとう、助けてくれて」

「いや、沙耶香を助けたっていうより、あいつの態度が気に食わなかったから。高校時代もそれで沙耶香、あいつから色々言われてただろう?」

陽平にコウセイとのことなど話し覚えがなかったので、沙耶香は驚いた。

「今日、参加者の名簿になかったから、陽平来ないと思ってたんだけど…」

「あぁ、ちょっと用事がなくなったからさ。それより、離婚したって本当なの?」

直球の質問に、沙耶香は固まる。そういえば、陽平に離婚のことを話したことがなかったのだ。




「うん、本当。もう2年以上経つけど」
「そっか。なら、また子どもたちみんなで遊ぼうよ」

陽平の“なら”の意味が気になったが、沙耶香はそれ以上聞かずに「うん、遊ぼう」と笑顔で返した。

▶前回:「気持ちが抑えられない」既婚者との恋に溺れた34歳女。デートの度に罪悪感に苛まれるも…

▶1話目はこちら:ママが再婚するなら早いうち!子どもが大きくなってからでは遅いワケ

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陽平にどんどん惹かれていく沙耶香はとうとう…。