男前になった元カレと同窓会で再会。酔った勢いでしなだれかかったら、まさかの展開に…
人の心は単純ではない。
たとえ友情や恋愛感情によって結ばれている相手でも、時に意見は食い違い、衝突が起きる。
軋轢や確執のなかで、感情は歪められ、別の形を成していく――。
これは、複雑怪奇な人間心理が生み出した、ミステリアスな物語。
▶前回:念願の食事デートで彼女が中座。数分後に戻ってきた女の姿に、28歳男が言葉を失ったワケ
8年ぶりの再会【前編】
「久しぶりだね。約8年ぶり?彩花も友香も元気だった?」
雪乃は再会を喜びながら、テーブルを挟んで向かいに座る2人に尋ねた。
当時の担任教師が定年退職を迎えるのをきっかけに、貸し切りのバルに20人以上のクラスメイトが集まった。
「元気元気!2人とも変わらないね〜」
彩花が当時と変わらぬ陽気な声で応える。
「私も元気だよ。ホント、懐かしいね…」
友香は静かに噛みしめるように言った。
「そっか、みんな元気で何よりだね。仕事とかは何している?私は、化粧品メーカーで企画に携わってるんだけど」
雪乃が会社名を伝えると、「超大手じゃん!」と彩花が声をあげた。
「さすが雪乃。昔から美人で頭も良かったもんね。きっと仕事もできるんだろうな」
「そんなことないよぉ。そういう友香は何してるの?」
「私は、図書館司書。地元の図書館で働いている」
「友香、昔から本好きだったもんね。彩花は?」
「私はね、看護師!」
「えっ!看護師!?」
雪乃と友香が目を丸くして彩花を見つめる。
「なんでそんな驚くのよ。短大を卒業したあとに、看護学校に入り直したんだ」
「だって彩花。病院嫌いだったじゃん…」
「そうそう。オバケが出るとか言って。熱が出ても意地でも行かなかったよね」
「私も大人になったの。今は大学病院の小児科に勤めてて、そうやって病院を怖がる子どもたちのお世話をしてるんだ」
「へぇ〜。大人になったね〜」
3人は過去を振り返りながら近況を報告し合い、和やかな時間を過ごす。
そして、仲が良かったはずの3人が、これまで連絡すら取り合わなかった理由について触れる…。
雪乃はリーダーシップのある優等生タイプ、彩花は陽気な天然キャラタイプ、友香は控えめで大人しい内向的なタイプ。
個性はバラバラだったものの、3人でいるとバランスが取れ、いつも妙な居心地の良さがあったのだが…。
「私たち、卒業式の前日にケンカしちゃったんだよね…」
「そうそう。それでそのまま卒業式を迎えちゃったんだ…」
ケンカしたタイミングが悪く、仲直りができないまま音信不通になってしまったのだった。
「私たち、なんで揉めたんだっけ…?」
彩花が言うと、雪乃も友香も首をかしげる。
「思い出せない…」
「きっと、その程度の些細なことだったんだよ」
「よし!せっかく再会できたことだし、これからは頻繁に会おう!」
3人は再度LINEを交換し合い、グループを作成した。
◆
クラス会が終了し、残った10人程度で、2次会のため近くのカラオケボックスに入った。
部屋に通されたところで、雪乃はクラスメイトだった男性に声をかけられる。
「久しぶりじゃん、雪乃。元気だったか?」
そう言って雪乃の隣に腰をおろしたのは、当時交際していた諒太だった。
「あ、うん…。諒太も、元気そうだね」
雪乃はやや狼狽えて答えながらも、横目でチラッと諒太の顔を覗く。
― 相変わらずカッコいいなぁ…。
当時の爽やかな雰囲気に、落ち着いた大人の色気が加わり、男前が上がったように感じた。
諒太は高校時代、バスケットボール部に所属しており、背が高く容姿もいいことから女子生徒たちの人気を集めていた。
そんな相手が彼氏であることに、雪乃は鼻を高くしていたものだ。
「雪乃は、今は何やってるの?」
近況を報告し合うなか、周囲の音に声がかき消されないよう、自然と距離が近くなる。
雪乃の頭のなかに、かつて肩を寄せ合った日々の記憶が蘇り、気持ちの高ぶりを感じた。
すると、向かい側の席に座っていた彩花が、酒の入ったグラスを持ったまま、雪乃と諒太に向けて指を差した。
「なんかそこ。いい感じ!しなだれかかちゃって」
だいぶ酔いが回っているのか、目が据わっている。
「あ、そっか。2人は昔付き合ってたんだもんね〜」
諒太は冷やかしを受けたと感じたのか、雪乃の傍からスッと身を引いた。
「あれ〜?2人はこんなにお似合いなのに、なんで別れちゃったんだっけ〜?」
「ちょっと彩花、やめなよ。飲みすぎだよ」
彩花の暴走を友香が止めようとするが、過去を蒸し返され、雪乃と諒太のあいだに気まずい空気が流れる。
高校3年生の2学期も終わりが近づいたころ、諒太と別の高校の女子生徒が一緒に歩いているのが目撃され、クラス内で話題になった。
まだ恋愛に不慣れだった雪乃は、それを見過ごせるほどの寛容さは持ち合わせていなかった。諒太を問い詰めてしまい、関係がギクシャクして別れてしまったのだ。
「また付き合っちゃえばいいのに〜。ねぇ〜」
彩花のデリカシーに欠ける発言に、室内にいるほかの者たちも気まずさを覚え、雰囲気が悪くなる。
― そうだ。思い出した…。
雪乃は、彩花の自分勝手な振る舞いを見て、かつて仲の良かった3人が卒業式前日に揉めてしまった経緯をハッキリと思い出した。
卒業式の前日、彩花が言った。
「諒太くんのこと呼び出しといたから。雪乃、思いを伝えてきなよ」
雪乃は別れてからも諒太への思いを断ち切れず、信頼していた彩花と友香には胸の内を明かすことがあった。
だから彩花としては、未練を抱えたまま卒業を迎えるのは良くないと、気を利かせての行動だったのだろう。
「私も、ちゃんと気持ちは伝えておいたほうがいいと思って…」
友香も同意の上、計画に加担していたようだった。
しかし、雪乃の本心は、2人が推し量っているものとは違った。
卒業式さえ終われば、もう諒太と顔を合わせる機会もなくなり、完全に忘れ去ることができると思っていたのだ。
2人に相談していたのは思い詰めていたからではなく、気分を落ち着け、平静を保つための手段だった。
彩花のひとりよがりな行動に雪乃は腹を立て、不満を露わにして口論になった。
彩花と友香も責任を押し付け合い、結果、関係が断絶してしまったのだった。
そして今も、彩花はマイクを握って周囲の者たちに無遠慮に突っかかり、場の空気を乱している。
「やっぱり、人ってそんなに変わらないよね…」
雪乃は、半ば諦めたようにつぶやくのだった。
◆
翌日。
彩花からグループLINEに投稿があり、雪乃はスマートフォンを覗いた。
『昨日は盛り上がったね!また早く会えるといいな〜』
周囲に迷惑をかけた自覚がないのか、記憶がないのか、伝えるべき内容とはズレを感じるようなメッセージだった。
『みんなで撮った写真を送りま〜す!』
― んん?そんな写真、撮ったっけ…?
後半は雪乃もだいぶ酔いが回り、記憶は途切れ途切れだ。
『今あらためて見直してみたんだけど、なんかヤバいのが写ってる!!』
そんな彩花のメッセージとともに、写真が送信された。
雪乃はそれを拡大し、絶句する。
カラオケボックスの室内で撮ったもので、男女7人ほどで写っている写真の端に、雪乃の姿があった。
顔を赤らめ、焦点の合わないトロンとした目つきでだらしない表情を浮かべ、諒太に抱き付くようにしてしなだれかかっている。
彩花が、『ヤバい』と指摘するのも納得できる状態だ。
― こんな写真、わざわざ送ってこなくていいのに…。
嫌がらせのようにも感じ、雪乃はイラッとさせられる。
さらに、友香のコメントが追い打ちをかける。
『確かに…。これはヤバいね』
― いちいち指摘しなくていいから!
酒の席での戯れとして受け止められないものかと、友香の不寛容な反応にも腹が立った。
― ダメだ…。やっぱり私、この人たちと合わない。仲良くなんてできない…。
不意に、雪乃の胸にやりきれない思いが込み上げ、勢いのままグループからの退会ボタンを押してしまう。
こうして、たった1枚の写真が引き金となり、8年ぶりの再会によって復活した関係も1日と持たず再び断絶してしまうのだった。
▶前回:念願の食事デートで彼女が中座。数分後に戻ってきた女の姿に、28歳男が言葉を失ったワケ
▶1話目はこちら:彼女のパソコンで見つけた大量の写真に、男が震え上がった理由
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【後編】3人の関係を断つ原因となった1枚の写真に隠されていたある真実とは…