恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:経営者の女が、アプリで必ず直面する問題。男から“お金がかかる女”と判断されるNG行為とは




Episode04【Q】:大塚和也、32歳。
イケメンじゃないから、初めから負け戦だと思っていた。


「ふふ。和也さんって、本当に面白いですね」
「そう?」

平日の23時。僕は、仕事終わりにある女性と電話をしている。

その女性は、マッチングアプリで2週間前に出会った宮本美和(27歳)。PR会社でプランナーをしているらしい。

「はい、ものすごく。こんなに笑ったの久々です」

彼女は、アプリでかなりの人気会員だ。

マッチングしたこと自体が奇跡なのに、電話で話す仲にまで発展するなんて、僕は本当にツイている。

僕はそこそこ名の知れた経営コンサルの会社で働いているが、そのおかげなのだろうか。でも、彼女レベルがこのスペックに惹かれるとも思えない。

「あの〜…」
「ん?どうしたの、美和ちゃん」
「そろそろ会いませんか?もう電話も3回目だし」

― そうだよな…。

僕だって美和に会いたい。

だけど、僕はアプリのプロフィールに顔写真を載せていない。

正確には、最初は顔写真を載せていたが、今は友達と行った沖縄の海を載せている。

写真を撮られるのは昔から嫌いだし、他人に顔をじっと見られるのも苦手だ。もちろん自撮りなんて、もってのほか。

だから、女性のほうから「いいね」をもらえることは、ほとんどない。

そう。アプリに顔を載せられないのは、単純に、顔に自信がないからだ。


コンプレックスの原因は、思春期に頬を中心に大量に発生した、大きな赤ニキビ。

朝晩きちんと顔を洗っても、母親に勧められたスキンケアを色々試しても、なかなか治らなかった。

32歳になった今も、肌にはニキビ痕がしっかりと残っている。

だから僕は、顔がイケてるやつら以上に、中身で勝負しなければならないのだ。

特に恋愛においては、女性に徹底的に優しくすること、コミュ力を上げることの二点に力を注いできた。




「和也くんって、本当面白いね!」
「こんなに尽くしてくれた人、初めて」

そのかいあって、大人になってからできた彼女たちは皆、そう言ってくれた。

けれど…肝心の僕は、歴代の彼女たちを心から愛することはできなかった。

なぜなら、自分から好きになった人と付き合ったことがないからだ。

でも、それでいいと自分に言い聞かせてきた。だが気づけば、僕はもう32歳。

ついに、友人たちの過半数が既婚者になった。

それなのに、僕は好きな人と付き合ったことさえないなんて、あまりにも不憫じゃないだろうか。

“最初で最後の恋”をする。

それこそが、マッチングアプリを始めた理由だ。



「そうだね!来週あたり会おう」

「うん!和也くん、お酒も飲むよね?私がお店探そうか?」

美和は、積極的だ。会ったこともなければ、顔も知らない僕に、心を開いてくれている。

― それに応えたい。でも…怖い。

しかし、その壁を乗り越えなければ、美和に愛想をつかされてしまう。

「ありがとう。でもそこは男の僕にさせて。好き嫌いとかアレルギーはある?」

彼女と会わずに終われば、一生後悔する。そう思い、美和と会うことにした。

「ないよ!やっと会えるね。楽しみにしてます」

「僕も。じゃあ、お店いくつか探して送るね。その中から美和ちゃんが決めて」

「わかった。ありがとう!じゃあまた。おやすみなさい」

僕もおやすみの挨拶をして、通話を終了した。


― ふぅ。ついに美和に会うのか……。

僕は、悩んだ。

今まで付き合ったことのないレベルの美女を、どんな店に連れて行けばいいのか、と。

美和のプロフィール写真に自撮りは1枚もなく、すべて友達か誰かが撮ったものだった。

マッチングアプリを使い出してからもう4年が経つ。僕は女性のプロフィール写真が、加工アプリで撮影したものなのか、ノーマルカメラなのか、すぐに判別できるようになってしまった。

美和の画像は、ほぼノー加工。だから、実物も間違いなく可愛い。

そんな彼女を、どこに連れて行けば、満足してくれるだろうか。

僕は、寝る間を惜しんで店選びにいそしんだ。




約束の日。

「ごめんね、和也くん。楽しくて飲みすぎちゃった…」

「いや、僕が強いから、ペース合わせちゃうよね。ごめん」

六本木のシティホテルの一室。僕は、彼女をベッドに寝かせた。

そして、コンビニで買っていた飲み物や、カットフルーツなどを冷蔵庫に入れる。

― 頭痛薬が買えなかったのが、心残りだな…。

今日のデートは、一軒目に日本酒の種類が豊富な和食屋に行き、二軒目はシャンパンバーに行った。

どちらも僕が提案した中から、美和が決めたお店だ。

彼女は、かなりのハイペースでお酒を飲んでいた。

まるで「失恋した女のヤケ酒」のような感じがして心配していたのだが、案の定酔いつぶれてしまった。




「美和ちゃん、大丈夫?冷たい水は胃を刺激して気持ち悪くなるから、これ飲んでね」

僕は白湯を作って、彼女に手渡した。

「ありがとう。あのね…信じないかもしれないけど、こんなの初めてなの」

「うんうん。わかったから、もう横になって」

理由はわからないけど、美和は今日、お酒を飲みたい気分だったのだろう。

僕もそういう日があるからわかるし、その場合、相手はどうでもいい他人に限る。

好かれたい人の前でベロベロに酔うなんて、きっとしないだろうから。

「あと、経口補水液もここに置いておくね。飲みづらいけど、これをたくさん飲んだら明日楽になるから」

「…うん」

僕はジャケットを羽織り、部屋を出る準備をした。

このホテルは、僕のスマホから予約していて、宿泊費も決済をしている。

だから、美和はここでゆっくり休むだけだ。




「じゃあ、僕は行くね。今日はありがとう!本当に楽しかった」

「えっ?あ…うん。私も。ごめんね、和也くん。また連絡する」

美和は、今にも寝てしまいそうだった。

僕は、その様子を横目に部屋を出て、ホテルの車寄せからタクシーに乗った。

きっと、彼女から連絡はないだろう。それでもよかった。

美和は、最初から最後まで、僕の目を見て話してくれたからだ。

目ではなく、肌を見られているのは、見られている本人にはわかるものなのだ。

― やっぱり実物も可愛かったなぁ…。

僕は、今日のことを思い出しながら車内で目を閉じた。

そして、自宅に到着しても彼女に連絡をすることなく、サッとシャワーを浴びてから眠った。

多くは望まない。そのマインドは、ニキビに悩んだ中学生の頃から染みついている。

しかし、翌朝。

僕の人生で、最も予想外の展開が待っていた。

『美和:和也くん、昨日は本当にごめんね。お詫びにごちそうさせてください』

― !!?

勝手に自己完結して終わらせた淡い恋。それは、まだ終わっていなかったようだ。

『美和:早くまた会いたいです』

― まじか…。

2通目のメッセージを読み、頬が熱くなる。

美和は酔いつぶれてしまったし、僕はそのまま帰り、連絡もしなかった。

それなのに、どうして彼女は、また僕に会いたいと思ってくれたのだろうか。

▶前回:経営者の女が、アプリで必ず直面する問題。男から“お金がかかる女”と判断されるNG行為とは

▶1話目はこちら:狙い目の“新規会員の男”と初デート!途中までは順調だったが…

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美和は泥酔した訳は、和也とは別にあって…