【ほろ酔いシネマVol.3】大人の恋愛コメディにはイタリアの赤を
毎月、映画とワインのマリアージュを提案していく連載・ほろ酔いシネマ。
今月は、不思議な世界で繰り広げられる恋愛コメディ『ロブスター』。
ちょっとリッチなイタリアのヴィンテージワインを開けて、おうちシネマを楽しもう!
▶前回:Vol.2「『シェイプ・オブ・ウォーター』×日本のプティ・マンサン」
独身者は動物にされる不条理なストーリー
新谷:柳さん号泣のラブストーリーが2回続いたので、今回はまったく毛色の違う映画を選んでみました。題名は『ロブスター』。
新谷:いいえ。ギリシャ出身の鬼才、ヨルゴス・ランティモス監督が描く不条理な世界。
独身は罪とされ、独り身はホテルという名の矯正施設に送られ、そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変身させられてしまうという近未来です。
嵩倉:きゃ〜。私、動物にされちゃうじゃないですか!
柳:クラリン(編集担当の嵩倉)、大丈夫。45日以内にパートナーを見つければいいし、見つからずに動物にされても好きな動物を選べる。ちなみに主人公が選んだ動物が、タイトルのロブスターだ。
今月のワインシネマ『ロブスター』
【STORY】『女王陛下のお気に入り』で知られるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスが描く異色コメディ。
独身は罪である、という奇妙な世界を舞台に、パートナーを選ぶ者、独身を貫く者、それぞれの生き方から愛するとはどういうことなのかを炙り出していく。
主役級の多国籍俳優が共演しているのもたまらない。
◆
恋に落ちなければならない“ホテル”ではなく、恋愛が禁止されている“森”で恋に落ちてしまったふたり。
ルールは奇抜だが、自然と自分の価値観が見えてくる。鑑賞ポイントは「わからない」を楽しむこと!
パートナーがいないと脱落者?不思議な社会の縮図が写す奇妙で残酷で可笑しい、愛の物語
嵩倉:それにしても地味な映画なのに、コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、レア・セドゥと、出演者はずいぶんと豪華ですね。
柳:妻に捨てられホテル送りになった冴えない主人公がコリン・ファレルとは、最初ぜんぜん気づかなかったよ。いや、コリン・ファレルは『ザ・バットマン』のペンギン役の方が強烈だったか。
新谷:じつはこの映画、2015年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞した、映画好きにはグサッと刺さる名作なんですよ。
柳:う〜ん、バカバカしくて最後までよくわからなかった……というのが、正直な感想です。
ホテルに入って最初の24時間は片手を鍵で拘束されたり、森の中に潜む独身者を狩りに行かされたり。そして、マスターベーションするときついおしおきが……。
無意味なルールに抗うスーパー・タスカン
新谷:そのバカバカしさがいいんです。ルールの不条理さを監督は鋭く突いていて、それに抗うことも映画の中で説いてるのだと思います。
嵩倉:で、柳さん、ワインはなんでしょうね?
柳:ルールに抗う……で、閃いたのがスーパー・タスカンかな?
嵩倉:タフマン?
柳:タ・ス・カ・ン。トスカーナのことだね。フランスやイタリアといった旧世界の国々では、ワインは土地の産物という考えが根強い。
だから、ワインは産地名が大事だし、またその産地を名乗るならばこの品種を植えて、こうブドウを栽培して、このようにワインを造りなさいといった厳しいルールがある。これがAOCやDOCといった原産地呼称制度だ。
「TENUTA DELL'ORNELLAIA ORNELLAIA 2020(テヌータ・デル・オルネッライア オルネッライア 2020)」
元祖スーパー・タスカン、サッシカイアの真隣に、1981年、創設されたワイナリーがオルネッライア。1985年が初ヴィンテージだ。
当初の格付けはヴィーノ・ダ・ターヴォラだったが、現在はボルゲリ・スーペリオーレDOCに組み込まれている。
2020年は入荷待ちで、2019年は38,500円/エノテカ TEL:0120-81-3634
動物に例えるならピューマ。しなやかでたくましい味わいが魅力の一本
嵩倉:シャブリとか、キャンティとかですね?
柳:クラリン、ちゃんと勉強してるじゃない。
嵩倉:てへっ。
柳:ところが第二次大戦直後、トスカーナのボルゲリという土地に、フランス・ボルドー地方原産のブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランを植えて、自家用ワインを造っていた侯爵家があった。
60年代になって敏腕醸造家の力を借りたところ、これが素晴らしいワインに仕上がり、1978年には英国のワイン専門誌が行ったブラインドテイスティングで、かのシャトー・マルゴーをもさしおき堂々の1位に。それが「サッシカイア」だ。
嵩倉:おお、噂の高級ワイン。
柳:ところがフランス原産のブドウ品種を使っているせいで、当時のルールでは原産地呼称が名乗れず、格下のヴィーノ・ダ・ターヴォラとして売り出された。
まぁ、後にルールを押し付けられて今ではDOCだけど、ルールなんてどうでもいい、世界をあっと言わせる偉大なワインが造りたいだけという、反骨精神がうかがえるよね。
新谷:では、今回のワインはそのサッシカイアに決定?
柳:と思ったけれど、「オルネッライア」にしましょう。
サッシカイアの登場後、多くのフォロワーがスーパー・タスカンと呼ばれて現れたけど、今では元祖サッシカイアを凌ぐほどの存在になったのがオルネッライア。
最新ヴィンテージの2020年は、最高醸造責任者のアクセル・ハインツいわく「La Proporzione“調和”」だそうで、じつに均整のとれた体躯。動物に例えるならピューマみたいなワインですね。
嵩倉:超高級ワインなんで、柳さんにごちそうしてもらいながら、この映画を楽しみたいです。
柳:ところで、ふたりは動物にされてしまうならなにを選ぶ?
新谷:私はウサギです。
柳:森の人たちに狩られて、食べられちゃうかも。クラリンは?
嵩倉:ライオン。
新谷:きゃっ!
毎号マリアージュをお届けするのはこの3人!
幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。今月のワインと、アメリケーヌソースのロブスター料理を楽しみつつ鑑賞したとか。
映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。独身の居心地よさに慣れてしまったけれど、柳さんに教えてもらったワインを一緒に味わうパートナーを探し中。
本連載の担当になって5年目に。ワインの知識は少しずつでも着実に積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。『ロブスター』鑑賞後から不条理な夢に悩まされ中。
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