プロポーズの直前に、いきなり音信不通になった彼女。5年後、まさかの再会を果たした結果…
東京では今日も、男女の間にあらゆるトラブルが発生している。なかには解決が難しい、不可解な事件も…。
そんな事件を鮮やかに解決してSNSを賑わせている、ある1人の男がいた―。
彼の名は光城タツヤ。職業は、探偵。
実はタツヤ自身も、未解決な恋愛事件を抱えていて…?
あなたも、この事件の謎を一緒に考えてくれないだろうか。
▶前回:あるレストランを覗いたら、店内に彼の姿が…。直後、女が入り口前で呆然と立ち尽くしたワケ
このLINEを最後に、彼女と音信不通になってしまった…。一体、なぜ?
「はぁ、どうして…」
月曜の朝8時。寝室のベッドの上で、咲良と最後に交わしたLINEを見つめていた。これを最後に、彼女と連絡が途絶えたのだ。
この日、僕は中村の恋人・美里さんとレストランにいた。店を出たのは21時ごろ。帰りのタクシーで咲良に連絡したが、返信はなかった。
ベッドのサイドチェストの中には、彼女に渡せなかった婚約指輪が今も眠っている。
「なんで突然、連絡がつかなくなったんだ…」
音信不通になって、何度か彼女のマンションに行ったこともある。でも応答はなかった。
― やっぱり、俺以外とも付き合っていたのか?あのとき聞くべきだったか…。
そんなことを思いながら、再び僕は彼女と最後に交わしたLINEのやりとりを見つめる。何度見ても、妙な違和感があった。
音信不通になる前日に、彼女が送ってきたミイ子の写真。そこに写っていた家具は、彼女のマンションのものではなかったのだ。
モヤモヤが消えないまま、僕は重い腰をあげて仕事へと向かう。会社に着きエレベーターへ乗り込もうとした、そのときだった。
「…竜也先輩!」
振り返るとそこには、田原とともに、先日の相談主と不倫をしていた彩華さんが立っていたのだ。そして混乱している僕に向かって、彼女は予想もしなかった一言を放った。
「私、咲良の親友の彩華です。…今日は、あなたにお伝えしたいことがあって来ました。SNSであなたがこの会社に勤めていることを知って」
「あの、すみません。なんのことを言っているか…」
僕はとぼけたフリをしながらも、動揺を隠しきれなかった。彩華さんは淡々と話を続ける。
「咲良はずっと竜也さんに会いたがっていました。でも会えないって…。あなたは今頃、美里さんと幸せにやっているだろうって」
「え?美里さんって、中村の元カノの…?」
予想外の展開に、思わず返答する。すると今まで黙っていた田原が、唐突に口を開いた。
「先日、彩華さんから竜也先輩へ問い合わせの電話があって。話を聞いてると、中村さんとか美里さんの話まで知っていて、何かおかしいなって。
だって美里さんって、あの美里さんですよね?」
中村の元カノだった、美里さん。実は2年前に、複数の社内不倫がバレて退職した有名な悪女だったのだ。
田原が恐る恐る、僕の顔を覗き込む。
「先輩が付き合っているわけ、ないですよね…?」
「あるわけないだろ。田原、業務外のことを会社に持ち込むなよ」
吐き捨てるようにそう言うと、彩華さんは驚いた様子でこちらを見てきた。
「えっ?付き合ってたんじゃないんですか?咲良の秘密を知って…」
「秘密ってなんのことです?…今さら、何なんですか!」
僕が思わず、大きな声で叫んだときだった。
「あ〜。それ、全部俺のせい。ってかエレベーターホールで何してるんだよ。ほら、竜也行こうぜ」
そのとき、いきなり中村が現れて冷たい声でそう言った。彼の姿を田原は「やっぱり」と言って睨みつける。
僕はハッとして、彩華さんのほうを振り返った。1つだけ聞いておきたいことがあったからだ。
「あ、あの。咲良は元気ですか?」
咄嗟に出た僕の言葉に彩華さんは小さく微笑み、1枚の紙切れを差し出してきた。
「はい。元気です。ミイ子が死んでしばらくは落ち込んでましたけど。死別した夫のことをやっと乗り越えられそうだって。…それを竜也さんにお伝えしたかったんです。では、失礼します」
彩華さんが僕に手渡してくれた紙切れには、電話番号が書いてあった。
◆
中村とともにエレベーターへ乗り込んだ僕は、冷めた声でこう尋ねた。
「中村…。全部お前だったのか。5年前、俺と咲良の仲を引き裂いたのも、今回SNSで俺の噂を流したのも」
エレベーターがオフィスフロアに到着するなり、僕は中村を無理やりエレベーターから押し出して、空いている会議室に引きずり込んだ。
「そうだよ」
中村は一切動揺することなく僕を見つめ、ポケットからスマホを取り出す。
「男の嫉妬って、女の嫉妬よりも怖いって。…お前、知ってた?」
そこには、彼が僕を晒すために使ったのであろうTwitterアカウントが表示されていた。
「5年前、丸の内のイタリアンレストランにお前と美里を呼び出した。美里には『最高のプレゼントを渡したい』って言ったら、喜んで飛んできたよ。
別れてからずっと無視されてたのに。ひどい女だよな」
「…それであの日、お前は来なかった」
「あぁ、あたかも竜也と美里が密会しているように見せかけて。咲良ちゃん、お前が浮気してるって信じちゃってさぁ。それに咲良ちゃんも悩んでたからさ。…死んだ旦那さんのことでね」
中村のその言葉に、いつも僕に何かを言おうとしていた咲良の姿を思い出す。
「竜也、知らなかっただろ?咲良ちゃん、1回結婚してるんだよ。でも結婚してすぐに夫を交通事故で亡くして。息子を亡くした1人暮らしの姑を気遣って、猫を連れて元夫の家に頻繁に行ってたらしいぞ。
苦労人だよな〜。だから言ってあげたよ。そんな過去のある女、竜也は嫌がるって」
そう言って、中村は満足げに微笑んだ。
「中村、お前…」
思わず殴り掛かりそうになったところを、グッと堪える。
あの日、咲良が突然僕の前から姿を消した理由。それは全て中村が仕組んだ罠だったのだ。
そしてミイ子と一緒に写っていた家具は、亡くなった元夫の実家のものだろう。
「もう猫が死んだなら、元夫の家族に会うこともなくなったんじゃないか。良かったじゃん、竜也。…もう色々手遅れだろうけど」
そう言って中村は、手をひらひらさせてエレベーターに乗り込んでいった。
僕は震える手で、先ほど彩華さんから受け取った紙切れの電話番号を、スマホに打ち込んだのだった。
◆
「竜也くん、今後は気をつけてくれ」
人事部との面談は、厳重注意という形で終わった。SNSで拡散された情報のほとんどがデマだと立証してくれた、田原のおかげだった。
それと同時に、中村が社内の機密情報をSNSに書き込んでいることがバレたのだ。こうして彼の減給処分も決まった。
僕はその場でアカウントの削除を命じられ、恋愛探偵・光城タツヤとしての活動に幕を閉じたのだった。
そして、それから半年後…。
「咲良、結婚しよう」
僕はあの日渡せなかった婚約指輪を、ようやく咲良にプレゼントすることができた。
「ありがとう。竜也…」
彼女が薬指を差し出した瞬間、僕と咲良の人生はやっと動き出したのだった。
Fin.
▶前回:あるレストランを覗いたら、店内に彼の姿が…。直後、女が入り口前で呆然と立ち尽くしたワケ
▶1話目はこちら:同棲中の彼女が、いきなり帰ってこなくなって…?男が絶句した、まさかの理由とは【Q】