高いステータスを持つ者の代名詞の1つともいえる、都内の高級タワーマンション。

港区エリアを中心とした都心には、今もなお数々の“超高級タワマン”が建設され続けているが…。

では果たして、どんな人たちがその部屋に住んでいるのだろうか?

婚活中のOL・美月(28)と、バリキャリライフを楽しむアリス(28)。2人が見た“東京タワマン族”のリアルとは…?

▶前回:「下心はないから」と言われ、デート2回目で彼の部屋へ。しかしたった1時間で帰宅した、まさかの理由




アリス「いい人なんだけど、ね…」


「ねぇアリス。本当に私も行っていいの?お邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。『お友達も良ければ一緒にどうぞ』って言ってくれたし」

今日は以前、知人に紹介してもらった宗介さんという男性のホムパへお呼ばれしている。

バツイチで45歳だという宗介さんは、彼女募集中だそう。そこで彼氏のいない私に白羽の矢が立ち、彼のことを紹介されたのだ。

第一印象は、穏やかな人。まだ出会って数回しか会っていないけど、悪い人でないことだけは確実だった。

そして宗介さんから送られてきた自宅の住所がタワマンだったこともあり、私は美月を誘うことにしたのだ。

でも知り合った経緯などを話していると、美月は急に遠慮し始めた。

「本当に?でもきっと、その人的にはアリスだけが良かったんじゃない?」
「そんな感じじゃないと思うんだよね。それに、美月にも何か出会いがあるかもしれないし!」

浜松町駅から徒歩5分。そんな会話をしているうちに、私たちはあるタワマンの前に到着した。


Case7:バツイチの優良物件・浜松町タワマン男


浜松町は意外と来る機会が少ないエリア。だからこそ今回のタワマン訪問を、ひそかに楽しみにしていた。

ほかのタワマンと同じく、美しくてノーブルな雰囲気が漂うエントランスを抜け、私たちは32階にある宗介さんの部屋を目指す。

「いらっしゃい」

ドアを開けてにこやかな笑顔で出迎えてくれた宗介さん。そしてリビングの扉を開けると、そこには圧巻の浜離宮庭園ビューが広がっていた。




「うわぁ、すごくいい眺め…」

東京の中心で、ここまで緑が見えるタワマンはどれくらいあるのだろうか。

タワマンと言っても、見える景色は様々だ。隣のビルが隣接していて、意外に眺望が悪いところもある。

でも宗介さんの家の場合、目の前には広々とした庭園が広がっていて、まるで絵画のように美しい。それだけでも十分なのに、公園の向こう側には湾岸のタワマン群までもが綺麗に見える。

「そうなんだよ。都心だけど目の前が浜離宮だから、ほかの建物が作られて景観が邪魔される心配もなくていいんだよね」

せっかく憧れのタワマンを買ったのに、購入してから近くにビルが建ってしまうと、景観が損なわれる場合もある。その点、目の前が浜離宮ほどの大きな公園だと、そういった心配はないだろう。

これまで、宝石を散りばめたようにまぶしく輝く東京の夜景を、独り占めできるような眺望に憧れていたけれど…。

静かで緑豊かな庭園が見えるというのも、すごくいいなと思った。




「あ、紹介が遅くなってすみません…。こちら、友人の美月です」
「初めまして、美月です。今日は私までお邪魔しちゃってすみません」
「いえいえ。ホムパが華やかになるので、嬉しいですよ」

明らかに宗介さんのほうが年上なのに、彼はなぜか私にも美月にも敬語だった。それが宗介さんの性格を表している気がする。

「今日はもう1人、僕の友人を呼んでるんだ。でも少し遅れるみたいだから、先に始めようか」
「はい!」

ダイニングテーブルの上には、美しく盛り付けられたサーモンのマリネやローストチキンなどが並んでいる。

「うわぁ、美味しそう♡」
「ほんとに?ちゃんと美味しいといいんだけど」
「えっ?これ全部、宗介さんが作ったんですか?」
「一応、ね」

その瞬間。私はとっさに「ヤバい。私より全然料理も上手だし、盛り付けも美しいんだけど…」と思った。


バツイチ男から漂う自己完結感


そして宗介さんの手料理は、見た目だけでなく味付けもバッチリだった。

「宗介さん…。これ、すごく美味しいです!」
「本当?良かった」
「美月!お料理、宗介さんが全部作られたんだって」
「え?これ全部お一人で?すごい…」

先ほどまで写真を撮るのに夢中で話を聞いていなかった彼女にそう伝えると、目を丸くしていた。

見回すと、ホコリ1つ落ちていない部屋。家具も必要最低限の物ばかりで、無駄がない。

リビングの奥にあるワインセラーと、バカラなどのグラスが並んでいる食器棚がプラスアルファの要素としてあるくらいだった。

「宗介さんって、綺麗好きですか?」
「どちらかというと、そうかも」
「お部屋を見たらわかりますもん」

会社を経営していると言っていた宗介さんは、かなりの優良物件だと思う。優しくで穏やかで、料理までできてしまう。それに加えて、こんな素敵な部屋に住んでいるのだから。

でも彼から“オス臭”のようなものが感じられないのは、どうしてだろうか。

残念なことに「オス臭を感じられない」ということは「恋愛対象にならない」という意味になるのだけど…。




そんなことを考えながらしばらく3人で談笑していると、宗介さんの友人がやってきた。

「僕の友人の、悟です」
「初めまして悟です。遅れちゃってすみません」

悟さんは、宗介さんよりもう少し明朗な雰囲気を醸し出している。またお酒が進むと、男子2人の会話もだいぶ盛り上がってきた。

「この歳で独身なのって、俺と宗介ぐらいだよな?」
「そうだね。みんな離婚しても結局再婚したり、あとは彼女がいたりするしね」
「宗介はいつ再婚するのかな〜」

そう言いながら悟さんがチラリとこちらを見てきたので、慌てて私もフォローする。

「でも宗介さん、絶対にモテますよね?優しいし、お料理までこんなに上手で」

すると、隣に座っていた悟さんの声がワントーン上がった。

「でもね、アリスちゃん。宗介は完璧すぎて、女の子が入る隙がないんだよね〜」

悟さんの言葉に、宗介さんも深くうなずく。

「それ、よく言われる。自分では全然そんなことないと思ってるのに」

このセリフを宗介さんから聞いたとき、きっと美月も私と同じことを考えていたと思う。




結局この日は私たちが持ってきたワイン2本、宗介さんのワインセラーから2本、合計4本もワインを空けて解散となった。

「あ〜、よく飲んだ。楽しかったね」

酔いざましのためにタクシーは拾わず、大通りを目指しながら美月と並んで歩く。

「楽しかった〜!アリス、今日は誘ってくれてありがとう。宗介さんってすごくいい人だね」
「そうなの。宗介さんいい人なんだよね」
「うん。いい人だけど、ね…」

女の人が、男性を説明するときに使う「いい人」という言葉。これはほぼ8割「いい人だけど恋愛対象ではない」という意味だと思う。

宗介さんは素敵な人だ。稼いでいるし優しいし、特に悪い点が見当たらない。

でも普段の暮らしがあそこまで充実していると、1人でも十分楽しそうだし、もはや彼女なんて必要ないんじゃないかとさえ思ってしまう。

そして自己完結しているせいか、宗介さんの世界に入りにくくもある。

でもそれだけが理由ではなくて、彼からパッションというか、欲望のようなものを一切感じ取れないのだ。

モテる男性は、多少何かしらの欲がある。

仕事でも恋愛でもお金でもいいのだけど、男性の場合、その欲望が色気となって現れる。でも宗介さんはサラッとし過ぎていて、興味をそそられるポイントがないのかもしれない。

― 都心のタワマンで、あんなにも緑豊かなビューを毎日見ていると、心も穏やかになるのかな。

そんなことを思いながら、私たちは夜道をしばらく歩いていた。

▶前回:「下心はないから」と言われ、デート2回目で彼の部屋へ。しかしたった1時間で帰宅した、まさかの理由

▶1話目はこちら:気になる彼の家で、キッチンを使おうとして…。お呼ばれした女がとった、NG行動とは

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タワマン族の友達は、みんなタワマン族!?