「2回目のデートに誘われない」残念な婚活女子を救った“モテ女”の助言とは
「マイ・キューティー」
13歳上の夫は、美しい妻のことを、そう呼んでいた。
タワマン最上階の自宅、使い放題のブラックカードに際限のないプレゼント…。
溺愛され、何不自由ない生活を保障されたセレブ妻ライフ。
だが、夫の“裏切り”で人生は一変。
妻は、再起をかけて立ち上がるが…？
◆これまでのあらすじ
離婚と同時に仕事も失った里香。失意のどん底にいたが、自分の武器である美貌を生かして再婚活に乗り出すことにした。その結果はいかに…？
「ああ、いい気分っ♪」
鳴り止まぬスマホを前に、里香はニヤニヤが止まらなかった。
マッチングアプリの登録後、いいねの嵐。
その度に通知がくるから、さっきからスマホは、故障したかと思うほど、ピコーン、ピコーンと鳴り響いている。
ざっと見た限りでも、経営者や大企業勤務など、優良物件がズラリ。中には驚くほどのイケメンもいた。
「帰ってきたら、ゆっくり見なくちゃ。ふふん」
鼻歌混じりにファンデーションを叩いていた里香は、不意にその手を止めて部屋をぐるっと見回した。
「このボロくて狭い部屋も、残りわずかの付き合いかも。お世話になったわね」
彼氏ができたわけでも、ましてや同棲が決まったわけでもないのに、里香は妄想全開で、しみじみしてしまう。
住み心地は最悪だったが、辛い時期をともに過ごした部屋。そう考えると、なんだか戦友のように思えて愛おしい。
「あっ、まずい。急がなくちゃ」
里香は、急ピッチでメイクを仕上げていく。気分がいいので、メイクも自然と明るくなる。キラキラのアイシャドーなんて、かなり久しぶりだ。
白のリネンワンピースに、高めのウェッジソールを合わせれば、夏らしい爽やかコーデの完成だ。
「かんっぺき！ナンパされたらどうしよう。舞子に嫉妬されたら困っちゃうわ」
里香は、軽い足取りでディナーに向かった。
モテない女
『アシエンダ デル シエロ』のテラス席。リゾート地のような開放感も相まって、里香は気を大きくしていた。
「はあ、気持ちがいい。ねえ舞子、ボトル入れちゃおうよ。飲めるでしょ？」
ビール瓶片手に、ワインリストをひらひらと差し出す。すると舞子が、たまりかねた様子で一喝した。
「こっちはうまく行かなくて落ち込んでるってのに。里香のそのテンションはなに？」
ドンッと、ビール瓶をテーブルに置いた舞子の表情は険しい。浮かれて本来の目的を忘れていたが、今日は舞子の相談に乗ることになっていた。
里香は慌てて「ごめん、ごめん。相談って？」と、話を振った。
「私、どうしたら彼氏ができるんだろう…」
いつもの強気な態度とは打って変わって小さな声でつぶやいた舞子は、テーブルにうなだれた。
聞けば、出会いを求めてマッチングアプリを活用しているが、1度会ってもそこで終了。2回目のデートに誘われることがないと言う。
先日、舞子的にかなり本気度の高い相手とマッチングしたのだが、案の定1回のデートで終わってしまい、ひどくショックを受けたらしい。
「しかもその男、去り際に、舞子さんはお会いする前のイメージと実際の雰囲気が全然違いましたなんて、失礼なこと言ったのよ。前のめりで色々聞いちゃったのが、よくなかったのかなあ。気になるところは全部突っ込んじゃったし」
「…そ、そう」
里香は返す言葉が見当たらず、苦笑いすることしかできなかった。
もう、軽々しく「次、次！」と笑い飛ばしたり、「その男、見る目がないんだよ」というフォローが通じる年齢ではない。
本当に結婚したいと願うならば、根本的な問題を解決しないことには、同じことの繰り返しなのだ。
「ねえ、舞子はどんな人と付き合いたいの？」
里香は、ズバッと切り出した。少し驚いた表情を見せた舞子が、すぐに熱弁し始めた。
「普通だよ。まずは、価値観が合う人かな。収入もそんなに高くなくていい。まあ、私と同じくらいは稼いでほしいけど。私、ルックスとか気にしないよ。そうね、私も身長は高い方だから、175センチくらいはほしいかな。年齢は、年下でも年上でも。28歳から35歳くらいまでって感じかなあ」
それらを聞きながら、里香は「これだから」と、内心毒づく。
普通と言いながら、条件を出す。さらに理想は高くないと言いながら、ストライクゾーンはかなり狭いのだ。
普通だ、理想は高くないなどというのは、何のためのエクスキューズなのだろう。
それならどストレートに、「28〜35歳で、収入は800万以上、身長175センチ以上」と言った方がマシだ。
いつもガンガン本質をついてくる舞子だが、恋愛になると急にフワフワしたことしか言わなくなる。
この前フラれたという男にも、メッセージのやり取りの段階ではフワフワしてたのに、実際会って話しているうちにスイッチが入り、論破モードに入って引かれたとか、そんなところだろうと里香は思った。悲しいかな、本人はこのことに気づいていないのだが。
「ねえ、舞子」
里香は、あることを申し出ることにした。
「マッチングアプリの写真とプロフィール、見せてくれない？」
「へっ？なんで？恥ずかしいよぉ」
柄にもなく照れる舞子を横目に、里香は「早く」と、急かした。
「わかったよ。里香にお任せするから、私の恋愛がうまくいくようにアシストしてよねっ」
スマホを受け取った里香は、「これは大変だわ」と、思わずため息を漏らした。
チャンス？
「とりあえず、今日のところはこの辺にしようかな」
23時、舞子の自宅。一連の作業を終えた里香は、ひと息ついた。
「おつかれさまです…」と、舞子が温かいほうじ茶を差し出す。ディナー後。里香は、舞子の自宅で、写真の加工からプロフィールの推敲、マッチングアプリでは交換することも多いというインスタを徹底的に修正していた。
「舞子ったら、恋愛になると急にフワフワ系女子になるんだもん。普段は、ゴールの設定とか、そのための手段はどうとか、すっごいロジカルなのに」
嫌味っぽく言うと、舞子が不満げに口を尖らせた。
「だって、恋愛ってロジカルなものじゃないでしょ。フィーリングとかそういうのが大事だと思うの」
里香は、ほうじ茶を吹き出しそうになった。まさか、ここまで恋愛偏差値が低いとは呆れてしまう。勉強も仕事もできなかった里香にとって、恋愛や結婚は生きていく術だった。
その結果、恋愛に関してだけは、30年間で培ってきた自分なりの哲学や戦略を持っている。美貌は生まれつきだが、戦略がなければターゲットを振り向かせることなどできない。そのくらいわかっている。
「恋愛で大事なことは、戦略よ！」
端的にチクリと言うと、舞子は納得いかない様子で反論してきた。
「戦略なんて、なんかイヤだわ。私は、価値観がピタッと合う人が現れると信じてるんだから」
「はいはい、わかりました」
これ以上話しても無駄だと感じ取った里香は、会話を強制終了させて、「今に見てなさいよ」と、心の中でニヤッとした。
◆
1週間後。
「里香ぁ！」
舞子から電話がかかってきた。その声は、電話越しでも耳が痛くなるほど大きく、興奮しているのが手に取るようにわかった。
「この前里香がおすすめしてくれた人と会ってきたんだけど、次は食事に行きませんかって誘われたのぉぉ！タイミングよく3日後に会えることになったんだけど、どうしよ、何着よう」
半狂乱状態の舞子を電話越しで想像しながら、里香はほくそ笑む。
「ねえ里香。今晩また会えない！？夕食はご馳走するから。アドバイスしてほしいの！」
里香は「わかったから、落ち着いて」と、なだめる。
― ほら。アプリもインスタも、私が代わりにやったら、絶好調じゃない！
里香は、自分のモテ女っぷりが論理的に証明された気がして誇らしかった。
「里香、いや里香様！あなたにはかなわないわ。おみそれいたしました。今日は好きな物なんでも食べて」
上機嫌な舞子に甘えて、里香は好き勝手にオーダーする。ついでにワインもボトルで入れようと提案すると、「いいね、いいね」とノリノリだ。
すでにアルコールの入った舞子は、目をとろんとさせながら、里香にしなだれかかる。
「ねえ、アプリとかインスタにどんな魔法をかけたの？」
酔っ払い相手に真面目に説明するのは面倒だ。里香は、パパッと話す。
「アプリの写真は、驚かれない程度に加工。あとは、男性受けのいい写真に変更。インスタは、趣味とか性格がわかってもらえるように全体的に統一感を出した。要するに、自分はどう見られたいのか、どんな相手をターゲットにするかをハッキリさせて、そうね、大げさに言えばブランディングしたってわけ」
― 舞子の投稿は、ありのまますぎて残念すぎ。あとは、舞子に合わせてくれるようなタイプにターゲットを変更した。自分も強いのに、クセの強い人選んでどうするのよ。
最後の言葉は、口に出さなかった。里香なりの気遣いだった。
「ふーん」
説明してあげたっていうのに、舞子の反応は薄い。酔いが回って眠気に襲われているのだろうか。
「せっかく説明したのに！」
キッと睨んだ里香は、舞子がとても落ち着いた様子だったので逆に驚いた。そして真剣な顔で、こう切り出したのだ。
「ねえ里香。それ、仕事になるんじゃない？」
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舞子からビジネスチャンスだと言われてもピンとこない里香。そんなある日、舞子が余計な報告を…？
