″元鈴木宗男私設秘書″ムルアカ氏「日本人は諦めやすくなっている」 - BLOGOS編集部

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※この記事は2015年12月28日にBLOGOSで公開されたものです

12月1日、中国の習近平国家主席がジンバブエを訪問。さらに南アフリカのヨハネスブルグで開かれた「中国アフリカ協力フォーラム」では、アフリカへの7兆円を超える投資を約束したと報じられている。

こうした中国の動きに警鐘を鳴らすのは、鈴木宗男・元衆議院議員の私設秘書として知られるジョン・ムウェテ・ムルアカ氏。約30年前にコンゴ民主共和国出身から来日、ジャーナリスト、研究者・大学教員などの経験も持つ同氏は、アフリカにおける中国の強引な開発を批判すると同時に、アフリカ市場のポテンシャルを日本政府や企業に対し訴え続けている。

こうした実態を赤裸々に描いた「中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う 200兆円市場のラストフロンティアで儲ける」 (講談社+α新書)を先月上梓したばかりの同氏に話を聞いた。

"正直言ってまともじゃない"中国のやり方

-ムルアカさんといえば、「鈴木宗男さんの私設秘書」というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、現在はどのような活動をされているのでしょうか?

ムウェテ・ムルアカ氏(以下、ムルアカ):現在は、主に千葉科学大学と神奈川工科大学などで教員の仕事をしています。その他、任期付きですが、文部科学省では教育や人材育成、経済産業省であれば資源外交といった分野について、参与の仕事をしています。具体的には、あるプロジェクトでアフリカ大陸に進出する際に、戦略や切り口を役所のみなさんと相談しながら、現地での働きかけをするといったイメージです。

例えば日本の情報・通信技術は世界一と言っても過言ではありません。まだアフリカには読み書きが出来ない人たちもいますが、日本の技術を取り入れることで、農業や医療など、様々な分野の学習もしやすくなります。また、物理的な距離と関係なく、医者が田舎の患者を診察するといったこともできるかもしれません。このように、日本の技術は、今後のアフリカの発展にとって非常に有効なので、それを活かそうというわけです。

-著書を拝読すると、アフリカ各国のロイヤルファミリーなど、様々なコネクションをお持ちのようですね。

ムルアカ:そもそも私はアフリカ出身ですし、これまでも鈴木宗男先生と一緒にアフリカ各国との議員連盟を作ってきました。その数は30カ国近くになります。他にも「アフリカ開発会議」といった国際会議に参加する中で、各国の首脳とお会いする機会を持つことができました。

こうした人々から見れば、私は兄弟みたいなものです。私にとって人脈は財産であり、日本政府にとっても役に立つものではないでしょうか。

-著書の中でも指摘されていますが、「未開」「貧困」「サバンナ」といった、ステレオタイプなイメージをアフリカに対して持っている日本人もまだ多いと思います。

ムルアカ:アフリカには54の国がありますが、これは世界の国の4分の1以上の数になります。それほど大きな大陸の中に、様々な民族、文化、価値観が存在しているのです。かなり発展してきている国もあれば、これからの国もたくさんあります。そもそも我々人類というのは、元々アフリカから始まっています。ですから、日本人であっても、元々をたどればアフリカ出身とも言えるでしょう。そういうことをもっと知るべきだと思います。

また、アフリカは今後日本が発展していくために必要な要素を持っています。日本には資源がありませんが、高度な科学技術があります。一方で、残念ながらアフリカはまだまだ技術は持っていませんが、資源や成長のポテンシャルを持っている。日本の技術とアフリカのポテンシャルが一緒になれば、平和な世の中を作ることができるんじゃないかと思うのです。

-アフリカへの進出については、「日本は中国に比べて遅れている」と報じられています。しかし、ムルアカさんは先行してアフリカに進出している中国の問題点を指摘していますね。

ムルアカ:ご存知のように、中国は世界一を目指しています。アメリカ、日本を追い抜いて、世界のリーダーの座を奪おうとしています。そうした動きの中で、非常に残念なことがあります。アフリカの文化と中国の文化が異なっていることです。

「騙すより騙される方が悪い」と考えるような中国の文化は、アフリカ各国の文化とは全然違います。結局彼らは、世界一の経済力、リーダーになるために手段を選ばない。そういう姿勢が非常に残念な結果を生んでいます。

本に詳しく書いていますが、民主主義のプロセスが成り立っていないので、様々な弊害が起きています。正直言ってまともなやり方じゃありません。これはアフリカにとってはもちろん、中国にとっても不幸だと思います。一時の利益に目がくらんで、長期的な利益を台無しにしているのですから。

アフリカも当初は、「中国は良い国だろう」と思って付き合っていました。「日本とアメリカの動きは遅い、EUには騙される。だから、中国が来てくれてよかったな」と考えていたわけです。しかし、蓋を開けたら、もうとんでもない。中国が作った建物や道路には多くの問題がありました。中国の方々のためにも、こうした現状を理解して反省し、尊敬されるようになってほしい、という思いがあり、この本を書いたのです。

-現地の雇用に貢献しないような形で事業を進めるなど、いわゆる国際常識に反するようなやり方をすることが多いのでしょうか?

ムルアカ:多いですね。彼らの目的は自分たちがボロ儲けをすることで、そのためには手段を選びません。

アフリカ各国で、市民の反中感情も高まってきているように思います。メディアの報道も、「日本を見習いなさい」というような論調が多くなってきています。現地の人々から大きな反感を受けるようでは、中国の将来のためにもなりません。

偽ブランドばかり作って販売するなど、お金のためには手段を選ばない。これだけ環境保護が叫ばれているにもかかわらず、環境破壊をする。中国の経済は大きく成長しているのに、まだ発展途上国のようなつもりでいるのです。

また、中国が7兆円というお金をアフリカに投資するという報道がありますが、まだ自国では、教育も受けられない方々がたくさんいるわけです。本来であれば、世界一になって世の中をコントロールするという目的を明確にして、そのために自国の教育をしっかりするべきでしょう。まず自分たちの国の問題を整理してから海外に打って出るべきなのに、そうではない。そういう部分についても我々は疑問を感じますね。

日本がアフリカで中国に"リベンジ"するには?

-一方、ムルアカさんは「ぜひ日本の企業にアフリカに進出して欲しい」と主張していますが、現実にはなかなかうまくいかない部分もあります。日本のアフリカ進出における問題点はどのようなところだと考えますか?

ムルアカ:正しい情報を知らないまま、間違った判断をしてしまうことが多いと思います。一部の報道のみを信じてしまったり、分析する能力がないという問題もあるでしょう。白人を代理人にして、任せておけばうまくいくだろうと考えて、自分達は全く表に出て行かない、というようなやり方をした結果、危機管理さえうまく出来ていなかった、といったケースが見られます。中国がうまくビジネスが出来て、なぜ日本人が出来ないのかと、我々が不思議に思うぐらいです。

ポテンシャルは持っているのに、海外に出て行かない。いいものを作れるのに、海外へ行くのが恐い。そうではなく、もっと日本の企業が勇気を持って海外に打って出てほしいと思います。そのためには、日本政府はシンクタンクを作って、専門家を育成するなど本気で取り組むべきです。そして、誰と付き合って、誰と仕事をすればいいのかということを徹底的に分析するべきでしょう。

-アフリカの治安について不安視する声もあると思いますが。

ムルアカ:それもメディアで強調されすぎている部分もあると思います。例えば、南アフリカのケープタウンという街は危ないと言われています。しかし、私は20回ぐらい行ったことがありますが、一度も危険な目に遭ったことがありません。なぜなら、事情をよく知っているからです。事情を知っていれば、危険な目に遭うことにならないように防ぐ事が出来ます。

ところが多くの日本人が、わざわざ危険なところに行ってしまう。そもそも、危険な場所にいかなければいい。まずはそれを知ることが重要です。日本でも、例えば、夜中の1時~2時頃、六本木を歩けば、昼間よりリスクは大きいでしょう。そういうリスクを自分でどう管理するか。学生たちのレベルにも教えなければなりません。

アフリカが危ないというのが固定観念になっている部分もあります。例えば、ナイジェリアやコンゴのように7000万人近い人が住んでいる国がありますし、そうした国の都市にはとんでもない数の人がいます。そういう街の方に聞いてみれば、「全然大丈夫ですよ」というでしょう。危険な地域だけクローズアップされて、全部まとめて危険ということにされたら大変です。それこそ人類の4分の1が住んでいる地域が危ないということになってしまいますから。

-2013年には、アルジェリアでイスラム武装勢力による人質事件が起こり、民間企業に勤める日本人も犠牲になりました。こうした報道の影響も大きいと思いますが。

ムルアカ:この事件に関しても、元々情報があったのです。我々は、マリ周辺でアルカイダ系のテロリストの活動が活発化していて、どこかで人質事件などを起こす可能性があるという情報を持っていました。要は、こうした情報が日本の大使館などに伝わっていないことが問題なのです。

例えば、活発な外交官がいる国や地域はいいですが、そうじゃない外交官は事務所と家を往復するだけで、それほど外にでません。これでは、日本にいるのと同じです。そのような外交官に「この国はどうですか?」と聞いても、新聞を読んだ内容しか言えない。だから日本にも大切な情報が回ってこないのです。

情報収集は外交官の重要な仕事です。ところが日本の外交官は、「この時間は外に出ちゃいけない」などと言われている。我々は事務所にいても情報が入手できないので、例えば浅草、上野、銀座に行く。警察や記者の方々と付き合って、情報を分析しないと、その国のことは絶対に分かりません。イスラエルやアメリカの外交官を見習うことも大切です。日本の外交官がそうしたことを出来ていない国があります。

また、霞が関の人間は、頑張っている外交官の方々を「頑張れ!」と励ます必要があります。一生懸命、報告書を書いても、読んでもらったことがないというのでは、外交官も疲れてしまいます。

-安倍首相は2014年にアフリカを訪問していますが、この時に訪問したのが3カ国だけでした。

ムルアカ:安倍さんは若いんですから、もうちょっと活発に外遊をして欲しいし、たくさんの人とお付き合いして欲しいと思います。アフリカは54カ国あるのに、3カ国に短期間滞在するだけでは馴染めません。

首相は激務ですから、確かに時間は限られています。それなら、総理夫人にアフリカを歩かせればいいのです。そうすれば現地の人々は「日本の総理夫人が来てくれている」と感じるでしょうし、現地の役人と一緒に仕事をしてもらえば、日本の国益、利益になると思います。日本の場合は、旦那さんが奥さんを縛って、自分の見えるところにおくというのが、普通かもしれませんが、総理であれば違う視点が必要です。安倍さん自身が自分で「アフリカはフロンティアである」と言っているのですから、そこはよく考えてほしいと思います。

アフリカには大きな利益、資源が眠っています。中国はそれを利用して経済成長しました。日本は遅れた時間をどう取り戻すかが重要になります。アフリカの多くの方とお付き合いして、専門家達を集めて情報を分析する。それほど時間の猶予はありません。中国はもう日本を抜いて世界一になることを目指しているのですから、日本はそのままボーッとしているんじゃなくてリベンジするにはどうすればいいかを考える必要があると思います。

中国と同じやり方ではなく、日本独自のやり方をすれば成功する可能性は高いと思います。アフリカには、世界のマーケットをコントロール出来るぐらいのビジネスのポテンシャルがあるので、日本の企業には勇気を持って欲しいと思います。

日本人は勝負じゃなくて自分に負けてしまっている

-大学で講義をする中で、日本の学生に対して感じることはありますか?「日本の大学生はどんどん内向きになっている」といった報道も見かけますが。

ムルアカ:学生さん達はとても勇気があると思いますね。私も教授なので怒られるかもしれませんが、問題は大学の教授会や、その他の先生方の考え方だと思います。例えば、「学生にはヨーロッパやアメリカに行って欲しい。アフリカは危ないからダメ」と教えている。

人生で自分の能力を生かすためには、様々な経験や挫折をしなければ、人間h伸びないでしょう。だから自分でその場に行くことが大事。まだアフリカはまっさらなので、チャンスに溢れています。ところが大学の中で、学生さんたちをアフリカに連れて行くのは困難なのです。私は反対される理由がよく分かりません。

-これからアフリカでビジネスをしたいとか、アフリカでビジネスした日本企業とか、これからアフリカに行ってみたい大学生にアドバイスをするとしたら?

ムルアカ:まずは私の著書をしっかり読んでほしいと思います。あらゆるヒントが詰まっていると思います。学生さんが行きたいということであれば、いくらでも紹介しますし、いくらでもオリエンテーションは出来ますので、絶対にプラスがあります。

-ムルアカさんは30年以上、日本と関わってきたわけですが、この30年の間に失われてきているのではないかと思う日本の良さはありますか?

ムルアカ:諦めやすくなってきているんじゃないかと思います。勝負したくない、というような雰囲気を感じるのです。ビジネスとか勉強といった分野で勝負したくないから、すぐ諦める。中国に圧されているのもそういうところが原因だと思います。「どうせ日本人はすぐ諦める」と思われている。考え方で負けていますね。

実際に、「アフリカは難しい、難しい」と言ってばかりの会社が結構あります。でも考えてみてください。第二次世界大戦後、私の勤める神奈川工科大学の設立者であるマルハニチロの当時の社長・中部謙吉が何をしたか知っていますか?戦争でほとんどの船を政府に徴発されたにも関わらず、残った船でマダガスカルに行って、アフリカの人々が食べない魚介類を買い付けてきたのです。信じられますか?飛行機じゃなくて船ですよ。しかも、当時は大した船じゃないわけですから、どれほどの勇気が必要だったでしょう。

そんな中部さんのおかげで、今も日本とマダガスカルの関係は良好です。彼は魚を買い叩くだけじゃなくて、みんなが食べられるように缶詰を作ってくれて、それが「マルハの魚」として、現地で今も売られているのです。ですから、中部さんは"海を渡ったサムライ"といえるでしょう。

今はそれとは逆に、勝負の前に自分に負けてしまって、自分の命をダメにしてしまっているんじゃないでしょうか。

プロフィール

ザイール(現コンゴ民主共和国)生まれ。国際政治評論家。千葉科学大学教授。神奈川工科大学特任教授。総務省、経済産業省、文部科学省の任期付き参与。東京電機大学電子工学科卒業。工学博士。ザイール共和国国営放送局日本代表、在日コンゴ民主共和国大使館通商代表機関代表。コンゴ民主共和国キンシャサ大学客員教授も務めた。

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