ノスタルジックな想いにひたる【ホテル雅叙園東京】企画展「大正ロマン×百段階段」

写真拡大 (全24枚)


東京都指定有形文化財「百段階段」でおこなわれている企画展「大正ロマン×百段階段」が2022年6月12日(日)まで目黒の【ホテル雅叙園東京】で開催中。87年前にしつらえられた階段が織りなすノスタルジックな雰囲気と、艶やかでいて、どこかはかな気な大正ロマンのコラボレーションです(休館日:2022年5月25日)。

 

大正期ロマンを巡る99段の旅


文化財「百段階段」は昭和10年(1935年)に建てられた旧目黒雅叙園3号館。急な斜面に沿って建てられた7部屋の宴会場を99段の階段でつなぐ木造の建物です。各部屋には当代きっての芸術家による天井画や欄間絵が施され、木彫や建具などは職人による超絶技巧がほどこれます。

そんな昭和初期の名建築に、竹久夢二やイラストレーターのマツオヒロミ氏の絵、ステンドグラスなどを飾り、大正・昭和のノスタルジックな時代に浸る企画展。現実とはことなる夢うつつのひとときを過ごせます。



▲螺鈿細工が圧巻のエレベーター

雅叙園東京の玄関を入ると、文化財「百段階段」の受付と入口があります。その入口こそ、百段階段のある3階に通じる大型エレベーター。黒漆で仕上げられた内部には、螺鈿細工の牡丹や唐獅子が描かれて、圧倒される美しさです。



▲途中ゆるやかに曲がりながら99段の階段が続くノスタルジックな世界

文化財に指定されるほどの古い日本旅館や料亭では、堅木とも言われ摩耗しづらいケヤキ材が階段に使われることがよくあります。加工しづらいケヤキ板を厚さ5cmに削り、99段連ねた事こそ隠れた贅沢。天井に施された扇の絵も、足下の堅いケヤキで身体を支えお楽しみください。



▲展示のテーマは「大正ロマンの旅への出発」。旅の始まりは「十畝の間」から

旅をテーマに、旅支度をする着物姿の姉妹やモダンガールの装いを展示。レトロなソファに腰かけてモダンガールと共に撮影も可能です。舞台演劇やオペラ、ミュージカルなどで使われる「松竹衣装」の着物もあでやか。その生地や帯の柄も、ぜひ仔細に見ておきたい逸品です。



▲黒漆に螺鈿細工が施された「十畝の間」の長押

「十畝の間」は横山大観と並ぶ近代日本画の巨匠荒木十畝(あらきじっぽ)により、天井に花鳥図が描かれます。天井の格子にも精緻な細工が施され、「百段階段」の部屋の中でも最も格式が高いと言われます。



▲2部屋目の「漁樵(ぎょしょう)の間」は、イラストレーターのマツオヒロミ氏による「百貨店ワルツ」がテーマ

「漁樵の間」は、漁師と樵(きこり)が対話する中国の故事「漁樵問答」をテーマにした部屋で、日本画壇の寵児と言われた尾竹竹坡(おたけちくは)の原画を元に、床柱と欄間にレリーフが彫り込まれ、純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げた色鮮やかな木彫が見事です。



▲マツオヒロミ氏のイラストが、艶やかな室内や大正ロマンの雰囲気に溶け込みます

マツオヒロミ氏のコミック&イラスト集「百貨店ワルツ」は、20世紀初頭の虚構のデパート「三紅百貨店」が舞台。夢の百貨店を「漁樵の間」全体で表現する展示です。



▲床の間を彩る尾竹竹坡の絵

国の重要文化財に登録される日本橋三越本店も百段階段と同じく昭和10年に完成。床の間の前には当時の三越店内の様子を紹介して「百貨店ワルツ」の世界観を楽しめます。



▲「草丘の間」ではカフェ体験ができます

4番目の部屋は、日本画家磯部草丘(そうきゅう)による欄間絵と天井画が描かれた「草丘の間」。繊細な花鳥図が描かれた天井画に加え、力強い松の木とパノラミックで雄大な松林を描いた欄間絵。1人の画家が描いたとは思えないダイナミックな対比を楽しめます。



▲「草丘の間」には、日本ステンドグラス作家協会に所属する作家の作品が飾られています

西洋文化の象徴ともいえるステンドグラス。日差しの当たる時間や光の当たり具合により変化を楽しむステンドグラスは、大正ロマンの憂愁を掻き立てます。大小さまざまな作品は、電球で照らしたもの、陽光に輝くものなど、光と色彩の神秘的なハーモニーが見られます。



▲「草丘の間」にはカフェ「大正浪漫喫茶室」もオープン

展示会の期間中開かれるカフェでは、アイス珈琲とバームクーヘンをいただけます。そのうえ記念になる組子柄のオリジナルマスクケースがセットになって、45分制で¥1,000。障子を飾る見事な組子細工やステンドグラスを楽しみながら、古き良き時代のカフェを満喫してみましょう。

 

大正ロマンを代表する竹久夢二の作品を展示


竹久夢二の作品は「静水の間」と「星光の間」の2部屋に展示。東京東日本橋にある竹久夢二の専門ギャラリー「港屋」の協力により、肉筆やリトグラフ、書籍の挿絵など、夢二の創作が立体的にわかる内容になっています。



▲静水の間「竹久夢二1」

こちらの部屋は複数の画家が手がけ、絵の入れ替えもおこなっていますが、現在は橋本静水の絵が多いことから「静水の間」と呼ばれます。



▲「静水の間」の床の間に飾られるのは、夢二のもっとも有名な美人画「黒船屋」。陶猫作家の小澤康磨が制作した“夢二の黒猫”とともに展示します



▲星光の間

板倉星光がひと部屋全てを任された「星光の間」。美人画で知られる星光ですが、襖や欄間、天井に、草花や果物を描き、宴会に訪れた人々の目を楽しませる趣向です。夢二も美人画が有名ですが、童画も多く描いていて、子供への優しいまなざしが感じられる作品を見られます。



▲夢二が描いた楽譜の挿絵

大正4年(1915年)に設立したセノオ音楽出版社から販売された「セノオ楽譜」とよばれる楽譜に、夢二が挿絵を描いています。絵を見て曲を想像できる、夢二の才を感じます。

 

部屋の装飾と展示品との組み合わせを楽しむ趣向


各部屋の障子にほどこされた複雑で巧みな組子細工や、緑豊かな窓からの風景。それぞれの部屋と展示物との組み合わせも見どころのひとつです。



▲「清方の間」は明治・大正・昭和のガラスがテーマ

近代美人画の巨匠とうたわれる鏑木清方(かぶらききよかた)の、草花や美人画が描かれた部屋。著作権があるためここでは紹介できませんが、ぜひ見ておきたい絵が飾られます。廣田硝子や旭屋硝子店、石塚硝子などのガラス食器やアクセサリーを展示します。



▲HIROTA Lampwork Factoryのガラスアクセサリー

ガラス職人による手作りの作品も展示。その繊細ではかなげな作りは、部屋の障子のこまやかな組子細工とよく合います。展示中のガラス製品の一部は、館内のショップで買うこともできます。



▲「清方の間」の障子に見られる、複雑にして繊細な組子細工の美しさ

館内の組子細工は今では失われてしまった技術も使われ、修復に訪れる建具職人の学びの場となっているのだとか。「清方の間」に限らず、各部屋の障子を見てまわるのも楽しみ方のひとつです。



▲「旧目黒雅叙園レトロアーカイブ」が飾られる「頂上の間」

百段階段の最上階にある「頂上の間」。活き活きとした動物画を得意とする西村五雲が欄間の絵を描く予定でしたが、昭和13年(1938年)に亡くなったため、松岡映丘門下の天井画が描かれたほかは、2009年まで倉庫として使われていました。



▲レトロカワイイ製品とともに撮影を楽しめます

「頂上の間」には、1931年の目黒雅叙園開業当時の資料を展示。館内の様子を描いた昭和初期の絵葉書や観光パンフレット、装飾金具などが飾られ、当時の様子をうかがえます。



▲レトロなフォトスポットは「クリームソーダ」

食品サンプルのクリームソーダや、百段階段の装飾に使われたカーテンなどが飾られ、フォトスポットになっています。



▲ショップでは、今回の企画展に展示されているガラスのアクセサリーやガラス食器、レトロなグッズを販売します



▲大正ロマンの世界にひたるオプションプランも用意 <画像提供:ホテル雅叙園東京>

「大正ロマン×百段階段」の期間中、入場券とセットになった「レトロ 着物プラン 〜レストランと文化財見学〜」を開催。大正ロマンをイメージした着物を着て、ランチやアフタヌーンティー、写真撮影などができるオプションプランです。



▲大都会東京のビル群と瓦屋根、レトロなランプの組み合わせを楽しめるのも百段階段の魅力です

 

【ホテル雅叙園東京】の企画展「大正ロマン×百段階段」。東海道新幹線を利用するツアーずらし旅」では、お得なオプションツアーにも採用。館内を彩る数々の絵や意匠、展示物など、そのひとつひとつを丁寧に見てまわると、日本が元気で夢見心地だった良き時代が見て取れます。大正ロマンの世界観をぜひ感じ取ってみてくださいね。<text&photo:みなみじゅん 予約・問:ホテル雅叙園東京 https://www.hotelgajoen-tokyo.com/>