青学女子はオシャレなお嬢様ばかり。平凡女が“禁断の手段”で彼女たちに近づき…
明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。
通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。
学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。
特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。
そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。
等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。
File2. 絵里香、青山学院大学。憧れの上京生活のはずが…
「はぁ…今日はどんなコーデにしようかな…」
朝食後、身支度を始めようとした絵里香はスマホでInstagramを開く。『#ootd』でコーディネートを検索しながら、クローゼットの中にある服と画面を見比べる。
時計に目をやると9時を回っていたが、今日の講義は2時限目から始まるので11時までに入室すればいい。まだ時間に余裕があるので、コーディネートをゆっくり考えようとしていた。
絵里香は、田園都市線の溝の口で1人暮らしをしている。
住まいとしている1Kのマンションは、築浅で小奇麗だが決して広いとは言えない。そんな小さな部屋のクローゼットに収まる服の量なんて、たかが知れている。
溝の口を住まいに選んだのは、キャンパスのある表参道まで電車で1本で通えるから。そして、マルイがあること…理由なんて、絵里香にはこの2つしか浮かばなかった。
― あーぁ…。本当は二子玉川や自由が丘の広いマンションに住んで、もっとたくさんの服があったらいいのになぁ。
絵里香は地元・静岡の高校を卒業後、受験を機に上京して憧れの青山学院大学に進学した。
貧乏ではないが決して裕福でもない、ごく一般的な家庭に育った。そんな状況で、両親が頑張って出してくれている仕送りに文句は言えない。
― 静岡から東京に出て、青学に通わせてもらっていて、それだけで十分に幸せなんだから…。
絵里香は、そう思おうと何度も心の中で繰り返した。
しかし、心のどこかで“ある不満”を抱えていることに、絵里香は無視できなくなってしまうのだった…。
青学女子のオシャレ投資額に圧倒される絵里香は…
青学には庶民なんて存在しない
入学当初は、憧れの青学キャンパスを歩いているだけでも、十分すぎるくらい満足だった。
しかし…GWを過ぎたあたりから、絵里香は周りとの“ある違い”に気がついてしまう。
ある違い。それは、“オシャレへの投資額”だ。
何といっても、ここは青山学院。
お金持ちだとひけらかすことは決してないものの、基本的に育ちがよく裕福な学生が多い環境だ。
特に、高等部からの出身者をはじめとする女子のオシャレ投資額は半端ではない。
― うわぁ、あの子、本当にモデルみたいなスタイルだし着ている服もオシャレ!あっちの子も、バッグから靴まですべてが上品で、普通の人とは全然違う…!
青学のキャンパスを歩く女子学生は、まさしく“オシャレインスタグラマー”そのもの。
そして、青学内で流行ったことが3ヶ月ほど後になって、やっとファッション雑誌に特集されるような状況である。
青学はまさしく“流行の発信地”だったのだ。
― 私も、あの子たちの仲間に入りたい!
裕福なオシャレ女子たちと少しでもお近づきになりたかった絵里香は、頑張って背伸びをしてランチや遊びで、彼女たちと一緒に行動するようになる。
しかし「格の違い」を感じるのに、そう時間はかからなかった。
バッグやアクセサリーの新作が発売されるたびに新調する彼女たちとは違い、絵里香が使っているものは2シーズン前くらいに流行ったのものばかり。
そしてあるとき、絵里香は友人にこう言われてしまう。
「ねぇ絵里香ちゃん、その服とってもお気に入りなのね〜。いつもよく着ているから、わかるわ〜。手入れもきちんとして大事に着ているのね!」
― 何それ…イヤミ?私、これしか服を持っていないって言いたいの?
友人は純粋に悪意なく言葉のまま、私に声を掛けただけかもしれない。
しかし、彼女たちとは違い、買える服もバッグも限られる絵里香にとっては、コンプレックスを刺激するに十分な言葉だったのだ。
― この子たちは、私とは全然違うんだ。私の知らないような世界に住んでいる子たちなんだわ…。
絵里香が使えるお金は、実家からの仕送りと、家庭教師でのわずかなバイト代程度。
自分はやはりこの子たちと同じにはなれないと、裕福な友人たちからの疎外感を、絵里香は確実に感じるようになっていった。
― この程度のお金じゃ、憧れのあの子たちのような生活なんてとてもできない。かといって、バイトするにしても稼げる金額は限られているし…もっとラクに、効率良くお金のある生活ができないかな…。
裕福な友人から刺激されるコンプレックスが原因で、こんな考えを持つようになった絵里香。
入学当初は考えもしなかった“あること”に、手を出してしまうのだった…。
絵里香が手を出してしまった、禁断の手段…
自分がまさか、こんなことに手を染めるなんて…
絵里香が手を出してしまった“あること”。
それは、婚活のマッチングアプリだった。
絵里香はまだ19歳。もちろん、結婚など考える年齢ではない。
ではなぜ、マッチングアプリに手を出そうと思ったのか。それにはある理由があった。
― どうして青学の子たちはみんな、あんなに華やかな生活ができるのかしら?
ずっと不思議で仕方なかった絵里香だったが、周りの友人たちをよく観察した結果、ある結論に達した。
それは、友人たちは「実家が金持ち」か「金持ちの彼氏がいる」かのどちらかだ、ということだった。
つまり、地方から出てきて、親からの仕送りと家庭教師のバイトで何とかなることではないと、絵里香は悟ったのだ。
このことに気がついてから、真面目にバイトするなんてバカらしくなってしまった。
―「実家が金持ち」ではないんだから、私は「金持ちの彼氏を見つける」しかないんだわ。
まるで、ゲームの攻略方法を導き出したかのように、絵里香はこう割り切るようになったのだ。マッチングアプリを使った“金持ちの男探し”は、驚くほど順調に進んだ。
『19歳』『女子大生』というだけでも、マッチング市場では人気が高い。
あっという間に多くの男性からのメッセージを受け取り、その中から選んだお金を持ってそうな男性たち数人と、並行してデートをしていく絵里香。
連れて行ってくれるお店は、流行のカフェのような場所から、高級ホテルのレストランやミシュランに掲載されるような名店まで様々。
そんなお店の様子をスマホで撮って、Instagramにアップするだけでも優越感に浸ってしまうのだった。
またある時には、プレゼントと称して、10万円を超えるアクセサリーやバッグをプレゼントされることもあった。
そして、そのプレゼントをまたInstagramにアップして『いいね』をたくさんもらえる日々。
そんな絵里香のInstagramには、広告会社やメーカーから商品提供を申し出るダイレクトメッセージも送られてくるようになり、確実に「青学オシャレ女子」の仲間入りを果たしていくのだった。
― 何だか私、青学オシャレ女子というよりも、港区女子みたい…。
自分のことを少し苦々しく思いつつも、贅沢な食事やモノを手に入れらえる生活を、絵里香は捨てることができなくなっていた。
◆
マッチングアプリを始めてから3ヶ月。
絵里香は正真正銘の「青学オシャレ女子」として、周りの友人たちにもその存在を認められるようになっていた。
― でも、これって本当に私がやりたかったことなのかな…?
青学オシャレ女子の仲間入りを果たしたにもかかわらず、心はそこまで満たされていないことに、絵里香は気がついてしまったのだ。
マンションの狭いクローゼットには、少し前とは違い高価なバッグやアクセサリー、広告会社から提供してもらった洋服などが詰まっている。
そして、それらを身に着ける絵里香自身も、周りから見たら比べ物にならないくらいに華やかに変身しただろう。
しかし、一見「青学女子らしい華やかな生活」を送る絵里香だが、身に着けるものが華やかになればなるほど、自分の中身がその変化に追いついていないことに気づかされるのだった。
― 確かに、少し前よりオシャレになったけれど、着飾ったところで私自身は別に何も変わらないんだわ…。
3ヶ月前に得たゲームの攻略方法から、着実に行動に移して華やかさを手に入れたものの、そこには思い描いていたほどの楽しさはなかったのだ。
― 結局、私が本当に求めていることは、華やかな女の子になることではなかったのかな。私は一体何がしたいのかしら。何のために、上京して青学に通っているのかしら…。
この気持ちは、決して絶望ではない。しかし、華やかな生活を手に入れた今だからこそ、“自分が本当に求めていること”に向き合わないといけなくなったのだ。
それは、たやすく手に入るマッチングアプリで得た華やかな生活よりも、ずっとハードルの高いものなのかもしれない。
そのとき、絵里香のスマホに通知が届く。それは、マッチングアプリでの新たな男性からのメッセージだった。
少し前ならすぐにチェックしていたが、華やかな生活にも興味が失せてきた絵里香は、そのメッセージをすぐにチェックしようという気にはなれなかった。
― 自分が本当にやりたいことに向き合うには、マッチングアプリをやってみるのも必要なことだったのかな…。
そんなことをぼんやりと思いながら、クローゼットの扉を閉めたのだった。
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