「この女、誰?」彼氏のInstagramに美女モデルの影が…
女にとって、経験豊富な年上男性は魅力的に映る。
だが、その魅力ゆえこだわりの強いタイプが多く、女は年を重ねていくうちに気づくのだ。
― 頑張って彼に合わせるの、もうしんどい…。
年上ばかり選んできた女が、自然体でいられる相手は一体どんなタイプの男なのだろうか?
これは、アラサー独身女がこれまでの恋愛観をアップデートする物語。
◆これまでのあらすじ
颯と高級旅館で初めての一夜をともにした多佳子。だが、彼のスマホに表示された“rina”からのLINEを偶然目にしてしまい心がざわついてしまう。
▶前回:彼氏と初めての温泉旅行。高級旅館で過ごす一夜に、女が不安に思ったワケ
Vol.9 知らないほうがいいこともある
― こ、このバスで合ってるよね?さっきから、風景がのどか過ぎるんだけど…。
都心から、高速バスで揺られること約1時間半。
車窓からの景色は、畑、畑、畑、ときどき民家。同じ関東とはいっても、颯が暮らす街はずいぶんと自然豊かなところのようだ。
以前、会社の先輩や大学時代からの友達・一樹と試合観戦に来たときも、颯のチームのホームスタジアムだった。
移動中の私は、車内でほかの仕事をしていたり会話に夢中になったりして、今まで窓の外に意識を向けることがなかった。まさか、ここまでのどかだとはびっくりだ。
― 今さらだけど、私って颯くんのことあんまり知らないのかも。友達のことも、LINEの“rina”って子のことも…。
すっかり自分に惚れ込んでいるとばかり思っていた颯が、ほかの女性とも親しげに連絡を取り合っていることを知ってしまった日。
あれからずっと、私の心はざわついている。
一度、同期の美智子に相談したのだが、こんなことを言ってくるから不安は増すばかりだ。
「サッカー選手なんだから、まわりに女の人なんてたっくさんいるでしょ!芸能人とかモデルと合コンしたりしてるのって、あながち嘘じゃないみたいよ」
「えー…やっぱりそうなのかなあ。颯くんってどうなんだろう…ねえ、美智子ー!」
― 颯くんに限って、合コンなんて…。いや、でも、体育会系な気質だから、先輩に誘われたら行っちゃうのかもしれない。
それならなおさら、彼のまわりにはどんな人がいるのか知っておきたい。
そんなことを考えていると、高速バスの速度が緩やかになり、目的地に到着する。
すると、そこには颯と彼と同じくらい背の高いもう1人の男性が待っていた。
年下彼氏の交友関係を探るべく、待ち合わせ場所に到着した多佳子だが…
「多佳子さん、こっち!意外と近かったでしょ?」
そう颯に呼ばれると、彼の隣の男性は同じチームの先輩である中原さんだと紹介された。
― うわっ、何このイケメン!絶対モテるよね、しかもこの人…遊んでそう。
白のパーカーにダメージデニムというカジュアルなファッションは、おそらく高級ブランドのもの。
シンプルなアイテムをサラリとオシャレに着こなす中原さんからは、シャネルの「エゴイスト プラチナム」の香りがする。
こんがりと日焼けした肌に、さわやかな笑顔。そのときの、目尻が少し垂れるセクシーな感じは、フレグランスの香りのイメージとピッタリだ。
そんな、大人の雰囲気をまとった彼にジッと見られると、思わずドキドキしてしまう。
「は、はじめまして。宇佐美多佳子です」
「中原です。颯がいつもお世話になってます。ていうか、こんなキレイな人、颯にはもったいないでしょ?」
― 中原さんって…チャラい感じの人だけど、颯くんと仲良しなのかな?
そんな私の心配をよそに颯に目をやると、楽しそうに笑って中原さんとじゃれ合っている。まるで兄弟のようだ。
「僕ら今、オフシーズンなんで、これからフットサルコートに遊びに行こうかなって!多佳子さん、早速だけど僕の車に乗ってください」
― あ、これって、昔付き合ってた弁護士の元カレと同じ車。
中原さんのうしろに停まっている車は、ポルシェ ケイマン GT4。
「え、でも私が乗っちゃったら、颯くんは…?」
「ああ、今からもう1人来るんで。その車で合流するから、大丈夫ですよ」
「そうそう、俺もすぐに行くから!あとでね、多佳子さん」
颯からも促され、私が車の助手席に乗り込むと、静かな街に似つかわしくないエンジンの重低音が響いた。
「すごい車ですね」
「ああ、ありがとうございます。そういえば、颯も免許を取って、車を買おうかなって言ってましたよ」
― それって、絶対に中原さんの影響だよね。こんな人が近くにいたら…颯くんも派手になっちゃう。
颯には、あまりチャラチャラしないでほしいという気持ちから、ついこんな言葉が出た。
「えっ、知らなかったです。でも、颯くんが車って…まだ先なんじゃないかな」
「いや、あいつも最近ちょっと大人になってきたんで。多佳子さんのおかげでしょ」
中原さんはそう言うけれど、デートや旅行の計画がスマートになったのは彼の力添えによるところだろう。
そこで、“rina”のことがパッと頭に浮かんだ私は、思い切って聞いてみた。
「サッカー選手って、いろいろと華やかそうですよね。颯くんも、そういう感じが…好きだったりするんですか?」
「颯は、どうかな。そんなに遊んでる感じでもないし、心配しなくてもいいんじゃないですか。あ、だけど、最近女性のファンが増えてるかも!あいつ、生意気でかわいいって言われてるみたいで」
中原さんがそこまで話したところで、フットサルコートの駐車場に着いたのだった。
颯は少し遅れて、同い年のチームメイトとやって来た。チームメイトの彼は、中原さんとは違い純朴さが感じられてホッとした。
― ファンかあ、そうだよね。スポーツ選手なんだもん、ファンはいるよね。
どことなく颯の存在を遠くに感じながら、コート脇の観客席に座る。
そこへ、どこからともなく女性がたくさん集まって来て「中原さん、かっこいい!」という黄色い声が耳に届いた。
彼のファンなのだろう。だが、そのすぐ後に「あ、守谷くんもいる!イケメンだよね。私、インスタフォローしちゃった」という声も聞こえてきたのだった。
ファンの口から、颯のInstagramの存在を知ってしまった多佳子は…?
― インスタって…颯くん、やってたの?
私はすぐにスマホを手に取り、目の前でフットサルをする颯をそっちのけでInstagramを開く。検索に『守谷颯』と打ち込むと、彼のアカウントは簡単に見つけることができた。
プロフィールのアイコンは、ユニフォーム姿でサッカーをしている写真だ。その下には、所属チーム名が書かれてあった。
― あ、これ本人だ。いつ始めたんだろう。
颯が投稿している写真は、まだ10枚ほど。最初の投稿は、私と一緒に行った温泉旅館での食事の写真だった。
ほかはすべてサッカーに関するもので、女性の影は見当たらない。そこまでチェックすると、ふーっと大きなため息が漏れた。
― 何やってるんだろう、私。…あっ。
見るべきではないと思いながらも指が進んだのは、颯がフォローしているアカウントだった。
そこに“rina”の名前を見つけると、心臓がドクンと鳴った。
彼とLINEでやり取りをしているrina。一体どんな女性なんだろう、と恐る恐る彼女のアカウントをタップする。
rinaの正体は、23歳のモデルらしい。投稿を見てみると、目鼻立ちがハッキリとしていて、かなりの美女であることが一瞬でわかった。
もう一度私の心臓が大きく鳴ると、颯が休憩から戻ってきた。
「あれ、多佳子さん顔色悪いんじゃない?体調悪い?」
「…ううん、そんなことないよ。大丈夫!あ、でも、ちょっと飲み物買ってくるね」
颯が私に話しかけに来たことで、まわりの女子たちの視線が集中すると、一気に居心地が悪くなった。
フットサルコートから少し離れた場所にある自販機。そこで、ホットのカフェラテを買うと、1人で考えごとにふける。
― 「颯くん、インスタやってるんだね!」って、明るく聞いてみる?それとも、彼から言い出すまで待つ?それか、ストレートに「rinaって誰?」って聞いちゃう?だけど、たかがインスタでそこまで聞くのも……。
結局この日は、rinaについて何も切り出せなかった。
モヤモヤした気持ちのままフットサルの試合を見て、中原さん行きつけの焼肉店で夕飯を食べ、私は1人で東京へと戻ったのだった。
颯の交友関係を探る目的でやって来たのに、いざ疑惑の人物を目の当たりしたところで、私は彼に何も言えなくなるのだ。
それどころか、その後も仕事の合間でさえ気になってしまい、颯とrinaのインスタをこまめにチェックしてしまう。
『今日も練習お疲れさま♡』や『次の試合も頑張るよ!』など、2人のコメントのやり取りに気を揉んでいるのだ。
颯のInstagramのストーリーズは常に更新されていて、フォロワーもフォロー中の人も日に日に増えていく。
これまでに付き合ってきた年上の彼は、SNSのアカウントはあるけれどログインさえ滅多にしないタイプだったので、その使い方の温度差に戸惑う。
まさか、彼氏のInstagramで、ここまで悩むなんて思わなかった。これならいっそのこと、アカウントなんて知らないほうがよかった…。
◆
翌日の夜。
勝手に落ち込んでいる私のもとに、颯からLINEが届いた。
『多佳子さん。今度の試合、招待するから見に来てよ!多分、俺スタメンで出るから』
― スタメンって、スゴイ!颯くん、自主練もして頑張ってるもんなあ。
私も、いつまでもウジウジしていてはいけないと、気持ちを切り替えて向かった試合当日。
スタジアムに到着して早々に、もっとも警戒していた“あの女性”に遭遇してしまうのだった。
▶前回:彼氏と初めての温泉旅行。高級旅館で過ごす一夜に、女が不安に思ったワケ
NEXT:1月6日 木曜更新予定
どうして彼女がスタジアムに?目的は、もしかして…