お金持ちは、モテる。ゆえに、クセが強いのもまた事実である。

そして、極上のお金持ちは世襲が多く、一般家庭では考えられないことが“常識”となっている。

“御曹司”と呼ばれる彼らは、結果として、普通では考えられない価値観を持っているのだ。

これは、お金持ちの子息たちの、知られざる恋愛の本音に迫ったストーリー。

▶前回:「庶民は相手にしない」役員報酬だけもらって仕事をしない御曹司33歳が、女をブロックした理由




未来(30)「あなた自身の話はないの?」


「30歳までに結婚」

世間からの同調圧力のような“女の幸せ像”に、囚われる女性は多い。

私は20代の頃そんなこと気にもしなかったし、自分とは無縁の世界だと思っていた。

だが実際に30歳を迎えると、独身で居続ける自分にどこか負い目を感じ始めるようになった。

その不安を和らげるように、私は今、あるハイスペ男性と付き合っている。

彼の名前は貴男。日比谷高校から東大を卒業した、かなり優秀な男性だ。

数回、デートを重ねて付き合うことにしたのは、彼の経歴やバックグラウンドが良かったから。だが正直なところマスクをとったときに見えた、彼の出っ歯気味の歯並びはずっと気になっている。

しかし、問題はそこではなかった。私は最近になって気がついてしまったのだ。

出会ってから今に至るまで、彼は“周囲の成功話”ばかりするということに。

今日だって「実家に新しい車が納車された」とか、そんな話ばかり。自分の話より、周囲の話でマウントを取りがちなのだ。


貴男と出会ったきっかけは、仕事の勉強会だった


貴男さんとの出会いのキッカケは、あるベンチャー系の人材会社が開催していた、中途採用についてのセミナーに参加したこと。

私はメガベンチャーで中途採用を担当している。だが最近、うちで内定を出した人が競合他社に取られてしまうことが続き、なにか解決の糸口になればとその勉強会に参加していたのだ。

「そういえば、失礼ですけど…未来さんって独身ですか?」

セミナー後の交流会で、いい感じにお酒が回ってきたとき。その人材会社の社長からそう聞かれたのだ。

失礼な…と、少しだけ嫌悪感を抱いたが、結婚したい男と出会えていないことは事実だったので、正直に答える。

「はい、独身です。そろそろ結婚したいんですけどね」

お節介な質問に、丁寧な受け答えを選んだことは吉と出た。後日、Facebookのメッセージで、思いもよらぬチャンスをもらえたのだ。

『先日は、おつかれさまでした。未来さん、俺の中学からの友人で優秀な男がいるんだけど、イマドキのメガベンチャーの採用事情の話を聞きたいらしいんだ』

この”優秀な男”が貴男さんだったのだ。そのメッセージのあとに貴男さんからFacebookの友人リクエストとメッセージが来て、すぐに2人で会うことになった。



待ち合わせ場所のマンダリン オリエンタル 東京のラウンジに到着した私は、貴男さんの姿を探す。

窓の外を眺める男性が目に入った。その雰囲気は遠目から見ても、普通のサラリーマンのものではなかったので、彼だと一瞬でわかったのだ。

声をかけると、マスク姿の貴男さんはパッと顔をあげる。ぱっちりとした目が彼を年齢より若く見せていて、好印象だった。

「未来さん、はじめまして!すみません、御足労いただきまして…」

貴男さんは、サラリーマンが着ないような重厚感のあるスーツをパリッと着こなし、それがよく似合っていた。

それに話をすると謙虚な人柄が伝わってきて、とても素敵だなと思ったのだ。




― え…かなりいい人じゃない?

これまでの経験から、「俺が俺が」と自分の主張ばかりする男性が苦手だった。会ってすぐに彼のことを、”アリ”だと感じ始めたのは言うまでもない。

それに貴男さんの周りには、育ちが良くレベルの高い友人が多そうなことも気に入った。

「最近、実家の経営する学校が人気で…」
「学生時代の友人たちは財産だよ!最近、家業に戻り始めたヤツが多くてさ」

話によると、彼の実家は東京近郊にあり、幼稚園から大学までの学校経営をしているそうだ。

「学校を経営していると、学歴が重要でね。僕の一族は、この国でトップといえる東大以外は許されないんだ」

父も祖父も当然のように、東大らしい。努力家なんだなと感心する。

この時点で、付き合いたいとは思っていたが、まだ知り合ったばかりなので私は慎重だった。

しかし、貴男さんは次のデートですぐに告白してくれたので、お付き合いを始めることに。

あのときはとても嬉しかった。それからというもの、休日のたびに、彼の所有している広尾のマンションでのんびりと愛を育んだ。

ところが、付き合って3ヶ月経ったとき、私はあることに気がついてしまったのだ。

彼の言動の主語の多くが、“素晴らしい周りの人”であることに。

それでも彼のステイタスを考えると、失うのは惜しい。だから、何を言われても私は笑顔でうなずき、関係を崩さないように努力している。


家族の命令は“絶対”の男が、女性に求めることとは…?


貴男(31)「俺の家族を理解してくれないと、同じ将来は描けない」


僕は東大を卒業後、イギリスに留学することになったので、当時付き合っていた彼女とは別れてしまった。

そもそも、留学なんてしたくなかった。けれど大事な両親からの命令には、逆らえなかった。

遠距離が原因で大好きだった彼女と別れてしまって未来に会うまで、僕は恋とも呼べないような浅い情事だけを繰り返していた。

「どうして付き合ってくれないの?」と責められたら関係を切り、また新しい子と遊ぶ…。

お金に不自由はないから、女は寄ってくる。刹那的な関係ばかりに飽きていたが、かと言っていい子も現れず、そんな状態をずるずると続けていた。




「お前、そろそろやばいんじゃないの?身、固めないと。実家継ぐんでしょ?」

ある日、中学時代からの友人で、今は人材系のベンチャー企業で雇われ社長をしている拓にそんな心配をされた。

そして拓に紹介されて出会ったのが、未来だった。

拓いわく、未来の父は日系大手企業のサラリーマン社長なので悪くない家庭環境だろう、ということだった。

― ありといえば、ありかな…。

元カノは国会議員の娘だったな、とも思ったが、未だそんな比較をしてしまう自分にもうんざりしていた。

『初めまして、貴男といいます。弊社も人材には困っておりまして…。イマドキの採用事情をお伺いしたく、早速ですがお茶でもいかがですか?』

採用のことをフックにしたと拓から言われていたので、すぐにFacebookで未来にメッセージを送り、約束をこぎつけた。



「初めまして…貴男さんですか?」

未来と初めて会ったのは、僕のお気に入りのホテルのラウンジ。窓側の席で東京タワーを眺めながらくつろいでいたら、そう話しかけてきたのだ。

未来の第一印象は、びっくりするほど“普通の女”だった。

チラリと見えたタグでわかったのだが、Max Maraのベージュのコート、レースの膝下丈のスカートにボウタイブラウス、細めのヒールは7cmくらいだろうか。

典型的なOLファッション。そして愛嬌はある感じだが、顔立ちが特段整っているというわけではなかった。

― これは、期待しないほうがいいな…。

ところが、会話を始めると、彼女に対する印象が変わってきた。

採用について真面目に語る顔は凛々しく、知性を感じる一方で、プライベートの話をするときはお茶目で可愛らしかった。

― この女、モテるな…。

「ごめんなさい、普段はリモートなのですが、採用イベントに登壇した帰りなのでこんなに真面目な服なんです…」

笑いながらそう話す未来に対して、僕は彼女と付き合いたいと思い始めていた。そして、次のデートで告白し、僕たちは正式にお付き合いをスタートしたのだ。

それから休日のたびに、2人で穏やかな日々を過ごしている。

一緒に料理をしたり、ドライブに出かけたり…。未来はいつも楽しそうに笑ってくれるのが嬉しい。

彼女にもっとカッコよく思われたい。この一心で、僕は色々なことを話してしまう。

素晴らしい両親に恵まれたこと、曽祖父の代からずっと学校を経営していること、実家は1千坪を超える敷地があること、祖父の代から東大だということ。

そして、最近親に買ってもらったBMWのこと…。

笑顔でうなずきながら聞いてくれる彼女の反応が心地良くて、いい子に出会えて良かったな…と心底思っている。

ただこの先ずっと一緒にいたいのかは、正直まだわからない。

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