暑い。湿度も高い。テレビからは連日「こまめに水分を補給して、冷房を適切に使うなどして、熱中症対策には各自で万全を期してください」と、注意を促す言葉が聞こえてくる。連日、熱中症で亡くなった人の数を伝えることも、テレビのスタンダードになっている。天気予報士が「無用な外出は避けるように」とまで言う場合がある。

 東京五輪1年前の本日は、台風が九州地方に上陸した。

「雨と風には十分注意してください。危険が予想される地域では早めの避難をお願いします」と、口酸っぱく警戒を呼びかけている。

 天気図に目をやれば、太平洋上にはもう一つ台風があって、さらにこれから台風になりそうな熱帯低気圧の姿も確認できる。

 その一方でテレビは、全英女子オープンで見事な優勝を飾った渋野日向子の話題をしきりに伝えている。来年の東京五輪でも活躍して欲しい! と女性キャスターは能天気な感想を述べていたが、天気と東京五輪との関係については触れず終い。想像は膨らまないのだろうか。少なくともテレビで、来年のいまこの時期が、大会の真っ只中にあることを気象的な側面から心配する人はどういうわけか少ない。

 選手より心配なのは観客だ。この猛暑の中、渋野選手見たさに埼玉県の霞ヶ関カンツリーに観戦に出かけ、コース脇を1日中歩き回ることをオススメする健康の専門家はいないだろう。何万人もが詰めかける中で、コースのどこかで熱中症に襲われた観客が、満足な看護を受けられるとは思えないのだ。

 無料で観戦できるマラソンは、より多くの、それこそ何十万という観衆で沿道は埋め尽くされるだろう。スタートは午前6時。この時間で本当に大丈夫なのか。走る選手はもとより、観衆はそれ以上に心配だ。マラソンで道路は封鎖されている。熱中症で倒れても救急車はたぶん来てくれない。

 7月24日から8月9日。サッカー競技等はそれ以前から始まることになるが、この17日間プラスアルファの期間に、東京周辺が台風の通りに道になる可能性も否定できない。確率は3割、4割あるはずだが、いま台風接近の話は伝えても、それを表だって来年の東京五輪と関連づけて心配する人はほとんどいない。あえて目を背けている。思考停止に自ら好んで陥りたがろうとしている印象だ。

 北京五輪(08年)も、アトランタ五輪(96年)も、バルセロナ五輪(92年)も暑いといえば暑かったが、最近の東京に比べればマシだった。W杯で暑かったのはスペインW杯(82年)、アメリカW杯(94年)あたりになるが、プレーの環境は、日韓共催W杯(02年)の日本が一番、酷かった気がする。新潟で行われたイングランド対デンマーク戦は、僕のW杯観戦史の中で最も不快指数の高い、非快適なプレー環境であると同時に観戦環境でもあった。

 それでもそれは、開催国(共催国)である日本人には想定内の出来事になる。高温多湿には慣れているが、外国人の場合はそうはいかない。不快な「おもてなし」が、彼らを待ち構えているわけだ。

 対策は、ミストシャワーの設置や、打ち水、遮熱性の高いアスファルト舗装だというが、どれも焼け石に水だ。マラソンの際は、沿道の商店街に店を開けてもらってクーラーの冷気を屋外に放出してもらうという話があるそうだが、それをそのまま妙案だと報じるメディアもどうかしている。2011年の東日本震災の際、自衛隊のヘリコプターが上空から原子炉に向け冷却水を散布したことがあったが、あの時に襲われた虚しさをふと想起してしまう。そんな非効率をするくらいなら、スタート時間を遅らせた方がはるかにいい。6時スタートはやっぱり遅い。

 今回の東京五輪は例外中の例外だという認識が欠けているのだ。東京及び日本の気候が、世界的に見てどれほど高温多湿か。不快指数が高いか。もっと言えば危ないか。